つまり、取るに足らない他愛も無い日常 1ページ
三学期が始まる日、始業式の朝。その日は、こんな会話から始まった。
「燕よ、男子高校生って言葉は、二つの意味があるよな」
朝、二週間振りに制服に袖を通しながら、俺は燕に話しかけた。
「二つの意味って?」
まだ眠いのだろうか、目を擦りながら燕が聞き返した。
「一つは、男子校に通う高校生。もう一つは、男子の高校生だ」
「いや、どっちでも男子じゃん。ていうか、男子高校生じゃ無くて男子校生でしょ?前者は」
眠そうながらも、燕も着替えていく。
「そうか、では燕。俺達、いや私達は、男子校生?」
「それは、男子校に通っているんだし……でもあれ?周りからしたら女子高生な訳で…」
「考えてみれば、面倒な立ち位置に居る訳よ」
そう言いながら俺は、パンをトースターにセットし、フライパンに卵を落とす。
「かかり、昨日マフィン買ってなかった?」
「買おうとしたけど、値段が高いからやめたじゃん。普通の八枚切りだよ。……あと、寝癖」
「毎朝苦労するよ、これ」
苦笑しながら洗面台の方へと消えていく燕。俺は焼けた卵を皿に移して、パンも皿に乗せて、テーブルへと運ぶ。そして冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。その時、洗面所の扉が開いた。
「まだ寝癖残ってるよ」
俺は椅子に座りながら指摘する。
「少しくらいならご愛嬌」
燕はにゃりんって感じで微笑んで、トーストを食らう。俺も朝食を食べ始める。
「まだカーディガン着ないと寒いなぁ。昨日は雪降ったし、男子になっておけば良かった」
最後の一口を飲み込んで、俺は呟いた。外は、この冬ようやく降った初雪で、所々雪が残っている。
「もう制服着ちゃってるじゃん。確かに、足寒いけど」
その後、朝食の片付けをして、歯を磨く。今日は始業式で九時半登校だから、のんびり出来るんだよな。
「ふぉーふぃふぇふぁふぁぁ」
歯磨きをしながら、横に居る燕が話しかけてきた。
「?」
俺は言葉にならない音を出して反応する。燕は歯磨きをやめ、口をゆすいでから
「今日提出しなきゃいけない宿題ってなんかあったっけ?」
と聞いてきた。
「んーふぅひゃふほ、ひひふぉ……ペッ……あと古典だった気がする」
「地理ってプリントだけだったよね?」
「そうだよ。さ、そろそろ登校のお時間だ」
歯ブラシを元の位置に戻し、少し髪を整えて、玄関へ向かう。バックの中身は空っぽに近いので、持つのが楽だ。
そう思いつつ靴を履き、まだ寒い冬の空気の中へと、扉を開けた。