つまり、落ち着きました。 6ページ
清涼学園には、男子校にも関わらず、様々な設備がある。庭園もその一つだ。
学園の一角にあるこの庭園は、生徒の憩いの場所として作られた。季節によって違う花が植えられていて、年間で三百種以上植えているとか。
まぁ、花を見に来る生徒なんて、選択で理科を取ってる奴ぐらいだけどな。
「あの人達、凄いね」
「ああ、何してんだか分からないけどな」
傘を持って、雨の中庭園の入り口に立って森山さんを待っていた俺と燕は、雨に打たれながら、大きなセットを運んでいる美術部員と冷やかし四人を見ていた。セットの横で指示を出していた森山さんは、俺達に気がつくと
「やあ、待たせたね」
と言って来た。真顔で。
「大丈夫ですよ。ところで、あの大きな物はなんですか?」
俺は森山さんの後ろのセットを指さした。
「ああ、あれは画材が雨に濡れない様にする為の物さ」
森山さんが答えると、今度は燕が言った。
「部員は思いっきり濡れてますけど…」
「大丈夫!素晴らしい絵が書けるなら、多少濡れたって構わないさ!」
笑顔で言う森山さん。かっこいいな。
その後ろで和樹達が、俺等は構うと目線を送っているが、無視だ。
「さあ、早く準備しよう。雨が上がったらもったいないからね」
しばらくして、俺と燕の前に大きなセットが立てられた。はっきり言ってキャンプなどで使うタープで、その中に森山さんと美術部員が画材を組み立てている。
組み立て終えると、森山さんがこっちをみて、
「ええと、こんな感じで傘を持って」
と、ジェスチャーしながら言った。俺は森山さんがした様に、傘を両手で持つ。肩に傘を当てながら、右手で支えて、左手は添える様に。
「そう。そんな感じで、向きはもうちょっと右向きだな…そう。そんな感じ。山瀬さんは、こうやって、それで神鎌さんの横に行って。そこ!そこに立って」
森山さんの指示に従って、俺等は動いた。
「神鎌さんは、こっちをみて、不思議な物を見る感じで、…うーん、少し首動かしてくれる?…うん。それが良いな。そのままでいてね。山瀬さんは、神鎌さんの方を向いて、笑顔で、よし!じゃあ二人とも動かないでね」
まさか表情まで指摘されるとは、俺達が表情を勘でやってると、満足した様にうなずいて絵を書き始める森山さん。その後ろでこっちをみて笑いを堪えてる飾達。正直、殴りたい。
そこから長い事俺と燕は動かなかった。いや、動けなかった。森山さんがいきいきと筆を走らせているのを見ると、動こうにも気が引けてしまう。そんな光景を見続けて、雨が弱くなったとき、
「出来たっ!」
森山さんが言った。
ようやく、ようやく終わった。
フーっと息を吐き、体を動かす。あちこちの筋肉が固まった気がする。
「凄く疲れたね。帰ってお風呂に入りたい」
燕の意見に俺は同意した。ただ立ってるだけがこんなにも疲れるとはな。
「仕上げを終えたら、君達にも見せてあげるよ」
森山さんが笑顔で言った。本当に満足行く物がかけたのだろう。その顔は輝いていた。
「これが完成した絵ですか?」
数日後、俺達は、美術室に来ていた。
「凄いなぁ」
修が感心している。まぁ、その気持ちは分かるな。この絵は凄い。
雨が降っているなかで傘を差した女の子が二人。その子達の手前にあるアジサイが、大きく、美しく描かれている。
なんだかこの絵を、ずっと見続けたくなった。
読んでくれた方、読み続けてくれている方、お気に入りにしてくれた方、評価してくれた方、感想をくれた方に、世界規模の感謝を。