つまり、振る舞うは乙女? 1ページ
修学旅行が終わってしばらく経つと、いよいよ持って冬服が辛い季節になる。後一週間もすれば六月だと言うのに未だ梅雨前線は予報図のどこにも現れておらず、今日も何にも遮られずカッカと日本を照らすお天道様のお陰で本日の気温は三十度を超えた。
これでは授業に身が入らないのも道理だろう。しかも窓際の席は日光の熱さと机のひんやり具合がもう絶妙で、突っ伏したら普通はもう起き上がれない。そしてそのままウトウトしてしまうに決まっているのに。それなのに!
「いや、寝てた猛が悪いわ」
「いやほんと、よくまぁこの暑さの中窓際で寝れるよな……」
現在午後一番の昼休み。カツサンドを食いつつ優太と修に呆れた言葉をぶつけられたのが俺。
授業中まどろんでいた所に定規の一撃を食らったおでこは、少し赤くなっただけでなんともない。
けれども俺は抗議の意を込めて二人を睨みつけながらさすって見せた。結構遠慮無くやられたようで痛かったしな。
「その仕草女の時なら似合ったんだろうなぁ」
しかし優太はそう呟いた。別に萌え狙った訳じゃないんだが。
「この痛みを理解してくれない二人になんとか伝えようとした結果がこれか。悲しいなぁこれは」
「いや必要罰だろ」
俺たちは眠らなかったぞ。と批判の目を向けられてしまっては、言い返す言葉はもう無いだろう。しょうがないので紙パックのオレンジジュースを飲んで話を切り、制服の話題を振りなおす。
「まぁ、六月を越えると今度は夏服でいることに文句が出るんだけどさ」
飲み干したオレンジジュースのパックを潰し食べた物を片付けながらそう言うと、結構がっつりと味のついたホットドッグを食べている燕も同意した。
「あー今度は寒いんだよね。去年はびっくりしたよ。特に脚とか冷えるんだから」
「その辺いい天気続いてくれると嬉しいんだがなぁ」
雨と言う字が入る季節にその願いが叶うことは無いだろう。個人の見解ではあるが、夏服の薄い生地では体感は冬の辛さにも匹敵するし。いやそこまでではないが、気がつくとびっくりする位体調を崩すこともある。
少女歴一年の新米二人には寒さ対策のノウハウなんて知らず授業中耐え続ける事しか出来なかったから、今年は先生に相談してブランケット掛けられるように談判してやろうか。あ、だったら今じゃなくて女の時のがいいか。説得力が大きく変わりそうだ。
「んじゃ取り敢えずこのゴミ捨てて来るわ。それとさっきの授業のノート写させてくれ」
寒さ対策については後日職員室に行くとして、食べ終えた昼食を纏めて席を立つ。と同時に眼前に差し出されるのは、他三人のゴミ袋。
「ついでに頼んだ」
「ノート写させる対価と思え」
「立ってる者はナントヤラって……ダメ?」
「…………いや別にいいけどさぁ」
お前らの出すタイミングが狙ってたようで引っかかるわ。
四人分のゴミを一つに纏めて、机の下からノートを取り出す。ちゃんと写させろよと三人に念押しして、なんだか騒がしい教室端のゴミ箱へと向かう。
「お、神鎌か」
ゴミを溢れ返さないようにゴミ山の上にのせていると、廊下にいた内竹に声をかけられた。顔を向けるとなんだか気まずそうな顔をされた。
「……なんだよ、なんか顔についてるか?」
もしやカツサンドのソースがこぼれていたのか? だとしたら恥ずかしいが、今日はついうっかり寝坊したせいでポケットティッシュを忘れてしまっている。かといってハンカチはとっさに掴んだものだから女の時に持ち歩くのもいいかと買ってみたかわいらしいものなもんだから取り出すのに気おくれが生じてしまう。しょうがない。ここは紳士らしくソースをちょび髭と言い張ってやり過ごすしかーーーー
「いや、なんもついちゃいないけど」
……そりゃあよかった。
「だったら、呼び止めてどうしたんだ? さっきの授業で性転換しなかったのは夢うつつって感じで熟睡してなかったからだと俺は睨んでるけど」
「ほー。熟睡じゃないと性転換しねぇのか。……じゃなくて、下級生がさっきお前のことを探してたんだよ」
「下級生が?」
俺を? 俺は別に部活とか委員会とかやっているわけではないし、あんまり違う学年と関わりをもつことなんかないんだがな。
「どんな奴だった?」
ただ一応、記憶にはあるかもしれないので特徴を聞いてみる。名前を聞いていればこっちからうかがう事だってできるしな。
だが内竹は、やはり気まずそうに口をつぐみ、結局は苦笑いを浮かべて言ったのだ。
「いや、見た目は普通の奴だったよ。ただ、探してたのは女。かかりのほうだった」
今はお前男だしなぁと、言葉を出してからも内竹は苦笑いをやめなかった。