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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行! 25ページ

流石に三日目最終日、周りの奴らも俺の異変に気付かないという状況では無くなった。本来俺自身も昨日のうちに把握しておくべき事だったとは思うが、もう後の祭りである。

ザワザワと周りが騒がしい。視線も多めに感じる。現在時刻は午前十時、ガタゴト揺れる移動中のバスの中で俺はそんな空気から逃げるように過ぎ行く街並みを眺めていた。きっとこの後の最後のイベント、数百年の歴史ある寺の坊主の生説法もちゃんと頭に入ってくるか怪しい状態だろう。いや、普通の状態でも怪しいけどさ。

「なぁかかり、チップス食わね?」

「サンキュー。一枚くれ」

「……ちょっとはこっち向こうぜ?」

「……わかったよ。修」

溜息を吐きながら窓から離れ、修から菓子の入った袋を受け取った。袋に書いてあるのり塩という表記を見ると、一瞬食べようかどうか躊躇してしまう。だって歯につくから。

「まぁいいや」

菓子を食うのに一々気にしていられるか。これから向かう寺にだってどこか口をゆすげる場所くらいあるだろうし、周りの奴らも歯に青のり塗れでバスの中居るんだし、あれだ、みんなで渡れば怖くないみたいなやつだ。

そう思って口に放り込んだところで、修がまだ俺を見続けていることに気付いた。

「……なんだよ。なんかついてるのか?」

「何もついて無いけどよ、おまえ実は初日に徹夜していたのか?」

まじまじと座席に座る俺を眺めて、不思議そうに問いかけてくる。

「徹夜してねぇなぁ」

笑ってそう返したつもりだが、きっと苦笑いにしかなって無いだろう。

現在、俺の性別は女。修学旅行前の予定では、初日と三日目は男で、二日目だけ女としている予定だった。まあ、俺は自分の意思で性別を変えられるからあくまでも予定であり、今女でいてもそれだけなら問題では無い。

ただ俺は昨日一日中女でいたのだ。正確には、一昨日の夜からずっとだ。こんなにも片方の性別で居続ける事なんて、徹夜して強制性転換を起こした時ぐらいのものだ。今は俺もわざわざ徹夜しようとはしないため、二日間女でいるだなんてどうしたのだろうと思っているはずだ。

修が今それとなく聞いてきたのも探りの一つだろう。

原因はほぼほぼ分かっている。ただ、騒がれたくない為に俺がだんまりを決め込んでいるから気になってしまうのかも知れない。多少の心配も、あるのかもな。

「言いたい事はわかるけどさ、別にどこか痛い訳じゃないから平気だよ」

朝ちゃんと頭痛薬飲んだしな。

「まぁ、一応帰ったら医者には行くよ。俺もなんでかは分かってないし、痛みとか無いから様子見しか出来ないと思ってる」

「そうか。昨日腹壊してたし、それで寝不足なだけかと思ったよ」

「……それで徹夜してるんだったら今男で居るはずなんだけどなぁ」

それに、昨日は意外とぐっすり寝れたよ。正直不安な気持ちは振り払えなかったし、寝てる時どうするかとかちょっとした疑問が解決したりしてたけど、そんな気疲れが逆に快眠に導いてくれたらしい。

「ふーん。じゃあもう腹痛は大丈夫なのか」

「一応はね」

多分これから少しづつ慣れていく事なのだろう。毎月毎月は覚悟しておかなければならないがな。

「……あれ?」

そこまで考えて、ふと一つの疑問が浮かび上がる。

今、俺は生理が来ているから性転換が起こらない状態の様なのだが、これはもしかしたら月一回男に戻れなくなる期間が出来ると言う事ではないだろうか?

自分の意思で男になれないのはもう分かっているし、おそらく徹夜しても女のままでいるのだ。それはつまり、その三日間程は私はーーーー

「ん? どうしたんだかかり」

「あ、ああいやなんでもない。なんか担当医に相談しなきゃと思った事が出来ただけだ」

「担当医って伊坂のお父さんだっけか。お前もなんだかんだ大変そうだよな」

普通だったら性転換とか不思議現象を開き直って楽しんでそうなのにと、修は菓子を食べながら呟いた。

その感想は当事者じゃないから言えることだと思う。軽い態度と深く考えて無いような発言に少し気のたった俺は、また窓の外へ視線を戻しながら小言を吐いた。

「そりゃそうだ。学院を卒業してもある程度歳食っても病院に通う必要があるんだからな。この先の人生通院決定とか割と冗談じゃない」

「……うわー人工透析クラス」

「……普段の生活に気を付けることはないからそこまでじゃねぇよ。まぁ後は事情知ってるお前達とならともかく、誰かと旅行とか出来るものじゃないし、……あんま深く考えた事ねぇけど、結婚とかも出来ないだろうからな」

「……うわぁ」

この体のままでいる場合ではあるがな。どちらの姿でも共に五体満足だが、独り立ちするには不便だろう。それが想像出来たのか、修はスマンと謝って来る。

が、その後にはこう続けた。

「でもよ、今は楽しんでも良いんじゃねぇか?」

「楽しむも何も、お前らが俺で遊んでるだろ」

後燕も。

「いやそうじゃなくて、かかりが着たい服とか色々さ。女だからな事やらねーの?」

「…………恥ずいから」

何か理由が無いと無理だろうな。今までだって俺が女らしく振る舞ったのは罰ゲームだとか劇だとかそんなのばかりだったはずだ。

それはこの修学旅行中もそうで、

「……生理来ても、あんまり俺変わらねぇなぁ」

窓の外に映る目的地の寺を眺めながら、俺は静かに呟いた。思いっきり気を抜いていたからなのか、呟きはもごもごと音を立てるに留まった。

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