表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つまり  作者: 石本公也
124/126

つまり、五月の修学旅行! 24ページ

「ハァ〜」

「ちょっと、御飯前にして溜息は止めてよ」

「ああ、ごめん。そっか、お風呂入ってたのか」

あれから、すっかり毒気を抜かれた俺は燕を追いかける事を止め、自分達の部屋へと戻って行った。

そもそも今日は、体調不良の中変にはしゃいでいた気がしてならない。カードゲームや着飾られた辺りで、正直手遅れだったとも思うしな。

その事を反省して、と言うか大分体力を消耗していたため、その後は俺は部屋でおとなしく横になっていた。

で、女中さんが箱膳を運んできて、燕がタオルを抱えて帰ってきたのが今さっき。

「だってほら、かかりは大浴場はちょっとマズいから、一人で入るしかなかったしさ」

「ひとこと言ってくれれば良かったのに」

「男子周りに一杯居たし、その中でお風呂に行くだなんて言う勇気はないよ」

「………………」

あいつら小心者も多いから、そんな心配する必要はないと思うぞ。とは、キッパリ言い切ることが出来ずに言葉を飲んだ。

用心は別に構わないけどな。それで勘違いして怒り振りまいていた俺が馬鹿みたいだ。

「んで、一人大浴場に入って幽霊でも連れてきたと」

「怖い事言わないでよ今日寝られなくなるじゃん!」

すまんな。今のモヤモヤとした気持ちの当てつけだ。

今日の晩御飯の箱膳の上には、綺麗に盛り付けられた鯛のお刺身が乗っている。こんな気持ちで食べる様な食事ではないのだ。切り替えていこう。

「冗談だよ。別に右肩に白い手が乗ってるわけでも濡れ髪を掴もうとしてる女の人が居たりしてないから」

「言った側から具体的に言うの止めてよ! ちょっと後ろ振り向けなくなりそうなんだけど!」

「え? ああ、ごめん」

「脅かそうとしてじゃなくて無自覚かい……で、心ここに非ずな感じだけどどうしたのさ? 私がお風呂行ってる間にみんなにばれたの?」

食事を始め、味噌汁の入った椀を手に持つ燕は、茶化す様にそう聞いてきた。幽霊話で肝が冷えたので、俺が食いつく様な話題で誘っているのだろう。

今回は俺も相談、と言うか言っておきたい事ではあったので、素直に釣られておく事にした。

「まぁ、ばれたと言うかバラしたと言うか……伊坂にな」

呟く様にそう言ってから、手に持つ味噌汁を啜る。少しだけ冷めたのか、舌が火傷することもなく飲みやすい。気分も少し落ち着くようだ。

「伊坂に? まぁ彼は勘が良いし一月前まで共学だったから分からなくもないけど」

いやだからって普通気付くかなぁと、燕は首を傾げる。

まぁ、俺もこんな体質とはいえ他人の月一の体調不良に気付く事なんか無かったからな。同室で一緒に暮らしている燕の変化なら分からなくもないけど、毎日顔を合わせているはずの山崎さんとかのはもしやと思った事もない。

人によって程度の差があるものとはいえ、隠そうとされたら男にはそんなものだったりする。

だから、伊坂が気付いたのはまた別の要因がある。

「伊坂の親父さんってさ、俺の主治医だって話した事あるだろ?」

転校してきてしばらく、今では周知の事実となった。ぶっちゃけ検査の為の検体採取しかしてないから担当医のが正しいのか?

まあ今関係ないか。

「いつもは基本月2、3回通ってんだけど、流石に生理が来たってのは早めに言っておかなきゃ駄目だって思ったんだ」

「なるほど」

病院が俺を検査しているのは、一日置きに性転換を起こす人間なんか今まで現れた事なんかないからだ。一年も通っていると調べる事も無くなってきたのか、今では普通の人と比べて成長具合に差があるかとか気の長いものになっている。

その中で起きた今回の事が如何に重要かは、誰にだって分かる事だろう。

「それで?」

話はもう見えているだろうが、燕は続きを促してきた。

「それで伊坂と別れる時に言ったんだよ。『修学旅行終わって直ぐ病院に行くって親父さんに伝えといてくれ』って」

「それでばれたんだ。かかりがお腹壊したとか、気怠げにいるとかはみんなにすぐ伝わってたしねー」

「すぐ伝わってるのもどうかと思うが、まぁ、ね」

言った時は、「どうして父さんに?」と伊坂は聞き返してきた。旅行先での下痢ってのは原因が水や食べ物と相場が決まっている訳だから、自分の父親は分野が違うはずだと不思議に思ったんだろう。

俺がどうしても親父さんにと念を押すと、少し考え込んでそれから「ああ」と得心された。

共学で培ったデリカシーと言うものがちゃんと備わっていたのか、周りには言わないと約束してくれた事はありがたいか。

……ただ、女の子に対しての気遣いだとか、俺が気にしても良いものなのかなぁ。今までだって清涼学園内での俺の扱いは、「女子の格好が似合う奴」みたいな根本的には男時代のノリなのだ。

「……………」

なんなんだろうなぁこのモヤモヤは。どうすりゃいいんだろうなぁ。

「また仏頂面になってる。どうせ馬鹿な事考えてんだ」

ジト目と小言が飛んでくる。俺も馬鹿な事だと本気で思うよ。乙女な嗜好とか、一年前に気にしておけという話だしな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ