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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!22ページ

「どうよこの俺のセンスは? なかなかのものだろう?」

嬉々として猫耳カチューシャを手渡してきた和樹は、そう言って感慨深そうにウンウンと頷いている。

「いや、猫耳カチューシャって単純思考な方だろ……」

妙にフサフサして確かに質がいいのは分かるんだけどさ。

着飾られる事は過去に何回かあったとはいえ、それは校内、しかも無駄に本気を出した衣装を手に詰め寄られての事である。わざわざ外部に持ち込んで来るとは相当に暇らしい。

しかもビニール袋の中にはまだまだ着飾る用のアイテムで一杯だった。そんなに人をオモチャにしたいのか? なんなんだあのブラックボックス。

「俺が男の時で、燕が部屋に引きこもってたらどうするつもりだったんだよ。完全に袋の中身無駄にしてたんじゃないの?」

呆れながらも、取り敢えずはとカチューシャを頭へ取り付ける。ヘアゴム類はソツなく綺麗に使えるが、数ヶ月前まで頭へぶっ挿すだけの物と思っていたコイツは装着に少しだけ手間がかかってしまう。見栄えを気にしなければ一瞬だが、流石に男子校の寂しい男達でも汚い留め方は判るようだ。……萌えに関わるアイテムならなおさら。

「お前らが居なかったらそれはそれで罰ゲームとして使ってやる。フリルのスッゲェリボンとか付けさせて先生のとこに挨拶行かせるんだ」

なんておぞましい事を語るんだ。女装染みた格好も、その格好が滑稽かもしれないと思う気恥ずかしさも精神に相当来るはずだ。開き直れるような奴ならネタにして堂々先生の所へ突撃するかもしれないが、突撃された先生達も反応に困るだろう。

まぁ、今の自分の現状を思うとそうならなくて良かったと口には出来ないがな。武川の所にはさっさと行っておいて良かった。

「うーん、普段化粧っ気が無いからかねぇ、アクセサリーだけでもこう、良い感じだな」

「褒め方があやふやな上に古いよ」

それに若干の照れが見える。人を褒めるだけでそんなに緊張するもんかね。

「んだよ、これを期に日々のオシャレに目覚めて貰おうとだな」

やっぱり外見を褒めるのは不慣れだったか、和樹は少しだけ赤くなった顔を隠すように横を向きながら言う。恥ずかしがるなら言うんじゃないとその様子を見ながら、それとは別に俺は彼の言葉に思うところがあった。

「……オシャレねぇ」

意識は一応、してるつもりなんだがなぁ……。

ただ、そう言ったところで誰も信じてはくれそうに無い。少し頭を掻きながら俺はすぐ側の燕を見た。

「…………何さ?」

視線に気が付いた燕が、眉根を寄せてこっちを見た。

「いや、オシャレに目覚めろって言われてさ」

どうしたらいいのかと今言われた事をそのままに言うと、燕自身にも思うところがある様であーそっかぁと呟く様に声を出しただけだった。

しかし、俺よりは少なくともオシャレに向き合っているのは燕の方だった。

「でも、かかりはもうちょっと意識して良いんじゃない? アクセサリーとか着けないし着てるのもシャツにジャケットみたいなパターンが多いし」

「……でも酷くはないだろ」

「無難過ぎるって言いたいんでしょう?」

そう言われると言葉に詰まる。でも、その、こんな時はほらあれだ。

「俺は突然男に戻る時があるからな、万が一そんな状況になった時のためにユニセックスなファッションを心掛けてだな」

そう、俺には完全に女の子な格好をしない大義名分があるのだ。男子共の言うオシャレなんて要はミニスカートだのホットパンツなどの事を指すわけだから、中性的な服装で誤魔化せば良いのだ。

「またそうやって逃げるんだから」

燕はそう言ってハァとため息を吐いた。でも俺は知ってるぞ。ヘアゴムにピンにキーホルダーにと、少しづつ少女的なアイテムが増えていてもお前が躊躇っている物を俺は知ってるぞ。

「逃げるとは、クローゼットに静かに収納されているあの若草色のブラウスからかい」

「うぅっ……」

その昔、精一杯の勇気を持って女性向けファッション誌に載っていた服を注文した事があるのだ。

二人で相談し決めたは良いが、自分から女の子らしい服を買うと言う状況にどちらの心も耐えられなくなり、結果購入したのは燕サイズの一枚だけ。それもいざ着てみようとしと時は結局日和って現在箪笥の肥やしである。

それから、そのブラウスに袖を通した所は見たことがない。

「だ、だってああいうのは、組み合わせ変じゃないかとか、い、色々考えなきゃいけない事が多いし……」

言葉尻が段々小さくなっていく。これで制服は難なく着るもんだから、俺たちのこの微妙なプライドから来る悩みは難しい。

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