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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!21ページ

結局、やんややんやと流されてゲームを遊んだ。トランプでは無いのでリベンジを果たせたとは言い難いが、まぁ都合良く半ばで抜け出せたので普通に楽しめたという事にしよう。変に意識して動きが硬くなっていなかった事を密かに願いながら、俺は最終局面に入ったゲームの行方を見ていた。

栞で確認した晩飯まではあと数分しかなく、さらに各部屋箱膳という修学旅行っぽくない予定が後に控えている状況だと言うのに、こいつらはこの208号室に集っている。確か今居るのは17人と数名だから、クラスの半分はここにいることになる。もう半分はと言うと……

「なんか214号室で集まって人生ゲームしてるんだってさ。 あ、あと221号室だと三組中心に怪談大会やってるみたい」

「文化祭か何かか」

とまぁ、この様に各部屋それぞれに趣向の違った大会が開催され、そこにそれぞれ集まっているようだった。

しかし、学校側が企画して事前通達をしていたわけでも無いと言うのに、どうしてみんなはどの部屋でどの大会が行われているかという情報を正確に手に入れることが出来るのか。噂の伝わり方に少しだけゾッとしつつ、俺は溜息を吐いた。

「……で、燕のその格好は一体どうしたのとか聞いてもいい?」

「……単純に着飾られただけ。ハァ、かかりもいたらもう少しマシだったと思うんだけど」

そして、つい先程ひっそりと部屋にやって来た燕の惨状には、もう苦笑いしか出てこなかった。

「いや、俺はそういうのゴメンだ」

「ひどいなぁ」

その拗ねた言い方につい笑い声を上げると、横からの視線が睨むようなものになる。

むくれる燕の頭からはウサギの耳が伸びている。そう、ウサ耳カチューシャである。

話を聞けばどうやらここに来るまでの各部屋で彼女は、勝てば景品負ければ罰ゲームと称され様々な小物で飾り立てられていたらしい。

ざっと見たところウサ耳に始まり、ピンクリボン、チョーカー、ネックレス、ミトンに肩乗り人形、やっぱりファンシーなエプロンと、まぁ非常に好き勝手装飾されていた。このままの格好で廊下を歩いて行けばもう絶対と言うくらい人の注目を集めてしまう事だろう。と言うか、俺が武川のところへ行ってここで一戦してるだけの間によくこれだけの数を……。

「じゃあ、かかりも着飾ろうぜ。一抜けした俺が選んでやる」

「は?」

そうやって燕の有様を他人事として楽しんでいると、先程の戦いで一抜けした和樹が何やら怪しげな黒いビニール袋を持ってやって来た。

彼の放った聞き捨てならないその言葉に浮かべていた笑みが固まった。ちょっと待った、それは今の今まで対岸の火事だったはずで、他の部屋だからやっていた事でこの部屋では全く関係のないことで俺に降りかかるような火の粉では無かったと思ってるからそのビニール袋を漁るのを止めろ!

「んーかかりは燕と比べると少しだけキツイ印象があっからなーどれがいいか」

まずい。絶対マズイ流れだ。なんでそんな嬉々とした表情で吟味してるんだよ和樹。しかも優太が負けてゲームが終わったから、暇になった見物人が参加して来ていやがる。

このままではテンションの高さに押されて何を身につける事になるか分からない。気付かれない様にこの部屋から抜け出さなくては……。

そう思い立ち上がろうとした時、畳についた左手をグッと握り締められた。

「いやいやー、御手洗か何かなのかなかかりさぁん。せめてなにか身につけてから行こうよ、ね?」

「……燕、手を離してくれ。俺はまたカメラの音が聞こえてきそうな格好は嫌なんだ」

こいつ、両の腕を用いて全力で抑えに来てやがる。

「いやいやいやいや、私はもうそんな格好なんだよ? せめて二人で分かち合おうじゃない」

「……………」

「……………」

重く流れる沈黙。だが、この状況はどちらかというと燕有利だと言って良いだろう。扉方面は着飾られた噂を頼りに人が集まっていて逃げずらい、部屋では男子に応援を求められれば逃げる事は出来ない。

もうほとんど詰んでるじゃないかと冷静な自分が言うが、まだ、まだ活路を求めている。

改めて腕に力を込める。思いっきりぶん回せば外れるだろうし、勢いでトイレトイレと叫びながら突進して行けば突破出来るだろう。

さらば燕、お前はここで更に装飾されるがいい。俺はこのままダッシュで逃げる。最後にそう思い視線を向けると、燕が静かに顔を近づけていた。そして、俺だけに聞こえるように小声で言ってくる。

「暴れるのは構わないけどさ、暴れてニオイ撒いてばれても知らないよ?」

小声で何を言うのかと思えば臭いだと? しかもばれるかもしれないって、俺が一体何を隠してるんだと言うーーーまでもないな。

目立つ臭いと言うのもまぁ、なんとなく分かる。そ、そうか。俺はまだ知識も実感もよく分かって無くて無警戒が過ぎるのか。ならば貧血症状というわけではなく、臭いも気にして大股や運動は気を付けろと言うことだな燕。

危なかったと感謝の意を込めて燕を見ると、彼女は薄笑を浮かべて目をそらした。

よし、ということは思いっきり抵抗して暴れるよりも自ら乗り簡潔に終わらした方が良さそうだという事だ。そう思った俺は腕の力を抜き、数名でビニールを取り囲っている男子に目を向けた。

…………それでも、あんまりな物が出て来たら逃げよう。

「うし! じゃあかかり、先ずこれな!」

ようやっと決まったらしく、その着飾りアイテムを一位抜けした和樹がいい笑顔で差し出してくる。

「……お前ら、割とこう、単純だよなぁ」

「ハァ? 良いだろ猫耳カチューシャ!」

いや、好みはしらねぇよ

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