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つまり  作者: 石本公也
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つまり、5月の修学旅行!20ページ

さて、どうしようか。


件の痛みはとうに引き、とりあえず現状できる限りの対応を終えて今俺はロビーで替えのお茶パックを受け取っていた。

「風呂は控えとけって言われたしなぁ。部屋のユニバスでシャワーならと言われたが、部屋付きのはなんか気が引けるし、あんのオッサンは笑って来るし」

オッサンとは武川の事で、案の定奴は鼻で笑った。もう養護教諭としてどうなんだと文句を言ったら、だから俺の保健室(しろ)にはサボりが居ねぇのさとドヤ顔を繰り出す。衝動に任せてスネに蹴りを放って沈めてそのまま武川の手の中のあった鎮痛剤を奪ってやりとりを終えたが、きっと責められる事では無いだろう。あと、 次からは近くのコンビニで買うとしよう。

「……変に思われたりしねぇよな。大丈夫だよな。かかりで、買うわけだし……」

だが、買うときに挙動不振になったりしないだろうか。その、変に見られたりとかは大丈夫だろうか。

うん、でもまぁ、見た目も性別もかかりとして居る時は女なのだ。そもそも、心象的に買い辛い物の代表格である下着類は何食わぬ顔で買えているはずじゃないか。そうだ、そういう物と一緒、全く同じ事なんだ。男の姿で買わなければおそらくきっと大丈夫だ。

「なんか馬鹿な事考えてそうな顔してやがんなぁ。かかり」

その時、ふと頭上から聞き覚えのある声がした。その少し低めな声は確か、最近身長が170の大台に乗って歓喜している元同室のもの。

「手に持っているのはお茶パックか? なかなかに美味いよな、それ」

「優太か」

気さくにそう話して来る優太のその手には、直ぐそこにある売店の袋がぶら下がっている。よく見るまでもなく中身は菓子類だらけなので、おそらくトランプ大会を行っている208号室は彼の班の部屋なのだろう。

「お前、使いパシリにされたの?」

態と袋に目を向けて軽口を叩くと、そんな訳ねぇよと優太は笑う。

「たまたま俺が負けた時に菓子が無くなっただけだ。流石に大人数が集まるとスナックとかはあっと言う間に無くなんのな」

これも直ぐに無くなるのかな? と彼は袋を持ち上げ軽くぼやいて歩き出す。そんな意外と姿勢良く歩く彼の調子に合わせて俺も隣に立ち並んで歩く事にした。

「お? かかりもトランプ大会参加すんのか?」

隣歩く俺を横目で見やり、優太はそう問いかけてきた。

「面白そうだけどトランプ大会って、何やってるんだよ。あんまし大人数だと出来る事も限られてんじゃないのか?」

もしかして大会ってトーナメントとか予選形式で行ってるんじゃあるまいな。と、ここ数ヶ月で広がった歩幅の差にやや置いてかれそうになりながら聞き返す。大会自体はまぁ、行きの新幹線の中では結局一回もペケを抜け出せなかったし俺はリベンジをと考えているが……。

「俺が負けた時は三デッキ使ったババ抜きやってた。思ったよりペアが出来なくてな、ババも一巡するまで十七人経由しないと帰ってこねぇし、結構盛り上がったな」

「よくまぁ三デッキあったもんだな。でも、どうせ最後は二人で一騎打ちなんだろ?」

そこに行くまでかなりの時間かかりそうだけどな。あと、真ん中に作る捨て場までの距離が長くなってカードが散らかりそうだ。

「上がったやつからギャラリーになってったし、最後は十五人が野次馬になってたぜ。ウルセェぐらいだった」

なるほど、そしてその内暇になったギャラリーが菓子類に手を出して今の状況になってる訳か。

「まだ晩飯食べてないんだから食い過ぎても知らないぞ」

「そこまで食ってる奴は一人もいないさ……ところでかかり、手に持ってるお茶パックは部屋に戻さなくて良いのか? 一旦返した方が楽な気がすんだけど」

そう言われて、俺は右手に持ったパックを見やる。確かに、このままだと少し邪魔だなぁ。ビニール袋とかも貰っていないし。でも今から部屋に戻るのもなぁ。

一旦戻るのが面倒臭いのと、このまま手に持ってるのが面倒臭いという、なんともだらしのない理由が俺の中でせめぎあっていた。

そんなしょうもない事で難しい顔をしていたからだろうか、優太が上から心配している様な声を掛けてきた。

「あー、そういやかかりってさっきのロビーでの集会休んでたんだよな。調子悪いのなら無理に参加しなくてもいいぞ?」

きっと、普通に心配して掛けてくれたその言葉は、この短い期間でトランプのリベンジに燃えていた俺の心に冷水を浴びせた。そうだ。なんで俺は自ら危険を犯そうとしていたのだろう。

確かに、確かにこの先にいる奴らは普段燕の細やかな変化には全く気が付かない男達だが、それでも万が一はあるのだ。危うく飛んで火に入る夏の虫となるところだった。

「お、208号室。かかりどうする? 参加するか帰るか」

おっと、もう火気に気付かず身を焦がす寸前まで来ていたか。危ない危ないと自身に言い聞かせ、優太には少しだけ顔を出して帰るよと伝える。

「そうか。まぁ腹下してんならそうした方がいいか。じゃあーーーー」

「あ、優太菓子買ってきたか。ってあれ、神鎌?」

そうして話を纏めようとしていたところで、のそりと部屋から出てきた内竹が俺たちに気が付き声を掛けてきた。軽く返事をして応えると、そのまま上下ジャージ姿の俺をしげしげと眺める。

「……どうしたの?」

そんな品定めの様なな行動をされて、少しだけ俺は警戒した。まさか、内竹は鋭い奴じゃ無かった筈だ。

「いや、ジャージってすげえ味気ねぇなって、もっとこうファンシーなパジャマを期待したんだが……」

「着る訳無いだろそういうの!」

朝起きたら男になってるのがほとんどなんだ。寝巻きは地味なもので濁してんだよ。お前ハート柄でピンクのパジャマ着て男って鏡見れないわそんなの。下着類? 聞くな。

「………………」

あと、勢い強く声を出した事を後悔。

「女子は可愛いくするべきだと俺は思ってるぜ! と、中は今からカード配るとこだから早く入れって」

別に参加するとは言ってないが、内竹に押されるように部屋に入る。まぁ、顔を出すよと言った時に一戦はするだろうなとは思っていたから別にいいが。

そう思いながらカードを配っている中に目をやり、

「UNOじゃん!」

また声を強く出してしまう

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