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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!19ページ

そう言えば、まだ俺と燕しか預かり知らぬものであったか。

いやまあそりゃ、当たり前と言えば当たり前のことだけれど。黙っている俺ら二人を前にスポーツドリンクでも買って来てやろうかと軽く言う修を見上げながらそう思う。

それにこいつのこのあっけらかんとした顔は、きっと俺に生理が来ただなんて露ほども考えちゃ居ないだろう。単純に先生に言われたついでにからかってやるとったかんじだ。

「本当にお前災難だなぁ。折角の旅行でそんな体調崩してよ……あ? でもあれか。昼の観光はちゃんと回れてるのか。じゃああれだ。修学旅行なのにトランプしねぇのもったいねぇな!」

とりあえず今は、こんな感じに修学旅行特別テンションで浮かれている彼に事実をしっかり伝えておかないとな。俺だってまだ羞恥無くすんなりと口に出来る言葉じゃないし、修にはちょっと戸惑うかも知れないが……。

「いや、えっと、修」

布団の中から失礼と思いながら、テンション高い彼の話に割り込んだ。テンション高いと言っても、先生に伝言役を任される位にはコイツは真面目だ。浮かれていなければ馬鹿にしてくる事は無いだろう。

「ん? どうしたかかり」

「その……な」

……だが、いざ口に出そうと思うと、なんと言うべきか切り出し方が分からない。今から俺が話そうとしている事は、こう、ちょっとデリケートな話題で。

「その……実はだな……」

モゴモゴとはっきり言葉に出せず、頭の中でそれを表わす文字が逡巡する。これが良い方向に転がったのか悪い方に転がったのかはわからない。

「んだよ口ごもって、お前がそんなに弱々しくなってるだなんて珍しいな。そうだ、皆に珍しいかかりが見れるぞって伝えてやるよ」

修学旅行特別テンションの修はその高揚した気分に任せて、集会を休むほどに体調を崩した級友を面白がって友人一同でからかおうと言い出したのであった。

全くもって気遣いと言うものは感じられず、それこそ先生に怒鳴られるまで失礼を振り撒きそうな程浮かれた彼は少し怖い。

………もしかしたら現在の彼はどんな話題であったとしても悪ノリ感覚で周囲に言いふらすのではないだろうか。そう考えた途端に背中側に寒気が走り、思わず身震いしてしまう。

そもそも清涼学園は男子校だ。そのノリも会話も良い意味で馬鹿やっているのが常だ。流石に本能の赴くがままにと言うような奴が在籍している程では無いが、面白がって馬鹿騒ぎを繰り広げたり、皆でなら多少先生に怒られてもいいと無茶をする事はそれなりにある。

初めて女で登校したその日だって、廊下から遠巻きに眺める、後ろを数㍍開けて着いてくると言うような古典的なリアクションを行い、更に十数人で俺を「お嬢さん」呼ばわりするなどは実際に行っていた事だし、夏休みの真夜中に突如校庭でロケット花火をぶち撒け派手な音を立て続けた奴も居る。

レク大会の優勝景品の簡易メイド喫茶を俺と燕に通達せずに決めたのも、運営の生徒が盛り上がった結果だ。

そんなカブトムシを見つけた小学生並みに浮かれた彼らに生理が来ただなんて伝えたらどうなるか。そんなもの、そんなもの……

「伝えなくていいよ態々。どうせ下痢止めとかの薬飲めばいつもの通りに過ごせんだから。

それと夕飯は武川に話聞いてから決めるよ。トランプは気が向いたら顔出してやるから」

とにかく、この事は隠す方向でいこう。もしバレたら、後ろから数人でヒューヒュー喧しい音を立てながら「おめでとう」と連呼されるに違いない。とにかくそんな馬鹿騒ぎ御断りだ。

「なんだ。薬飲んで体調落ち着かせちまうのかよ。それじゃあ弱ったかかりが観れるのは後数分じゃねぇか。……撮影しとくか」

「いや撮るなよ! 携帯を取り出すなよ」

残念そうにそうぼやき、ポケットを漁る修に向かって俺は静止を呼びかける。変な写真を拡散するんじゃあねぇ。

「俺まだスマホじゃねぇんだ。だから画質あんまよくねぇのが悔やまれんな」

「だから携帯を出さないでっ!」

こちらの呼びかけに応えず、修は携帯を操作する。このままでは不味いと判断した俺は、ポチポチ操作される携帯がカメラを起動する寄り早く布団から起き上がる。

「っう……!」

しかし、貧血症状が出ている中で急に力を込めて立ち上がったお陰で、立ちくらみが重く来る。

「あーあ、これじゃ写真撮っても元気に見えるわ」

倒れそうになるのを堪える表情に気付かずに修はそう嘆くと、携帯電話をパタンと閉じた。

それから、気をとりなおして立ち上がり、連絡事項を軽く伝えて、トランプは主に208号室で行うから絶対に来いよと残して帰っていった。

よし、取り敢えずなんか勝った。

「ぅううっ……」

しかし、そうして緊張を緩めてしまえば、忘れていたものがやってくる。どっと疲れが来た様な気がした。

「かかり、痛いならもっかい寝ていいよ? それともそのまま武川先生のとこに行く?」

修が去って、扉付近で様子を見ていた燕がそう提案して来た。俺が喋らない様に決めた事には、まぁ言いふらす物じゃ無いしねと納得してくれた。

「武川のとこ行くよ。一刻も早くこの痛みとオサラバしたい」

「分かった。あとかかり、薬はその……痛みを消すんじゃ無くて、あくまで緩和だからね。オサラバは出来ないよ?」

……知らないよそんなの

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