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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行! 17ページ

実は今まで、俺は生理になったことがなかった。

高校二年までそれが起こらないというのは、少数であっても異常ではない。保体の授業でそういう事は習った。

男子校で数少ない女性教師の高梨先生は、興味からか言いにくい悩みだと思ったのか一人でいる時に聞かれた事があった。その時俺が、ああ、そういう事も考えておかなくちゃいけないのか。だなんて呟いたもんだから、高梨先生は困った時は相談においで、あとなかなか来なくても心配しないでね。と優しく言ってくれた。

こっそり相談したりした伊坂先生のお付きの看護師さんも心配しないでと笑っていた。正直質問した時は、高梨先生との事なんてすっかり忘れていて、俺はそういやなったこと無いな程度の軽い気持ちで質問したのだが、看護師さんにとっては違って見えた様だ。どうやら俺が生理が来ないことに不安を抱いて相談してきたと勘違いして、優しく親切に色々教えてくれた。

寮母の山崎さんには、辛そうな顔を見たことないけど軽い方なの?と聞かれた事があった。来た事が無いだけですと答えた時は、後から来る人は重いとかいう噂を聞いたけど大丈夫?と心配された。その噂が本当だったのかはわからないが、今の気分は良くない。つか最悪だ。

養護教諭の武川は、何故か生理痛のメカニズムについて勝手に授業してきた事があった。そしてその最後に、「神鎌、生理の痛みと金的の痛み、どっちの方がヤバイかいつか全校生徒に説明してくれ」とか言っていた。申し出は慎ましく全力で辞退したが、比べて見るとどうだろう。意外、どちらも痛みと共になんとも言えない気持ち悪さがある様に思う。

こういう事を考えられるだけ金的よりましなのだろうか? いや、今だって痛くて仕方がない。結論はお預けにしておこう。

修や優太達は、「そんなんつまんねー」とか「お約束じゃねーな」とかなんだかほざいていたが、変な気を使わなくて良さそうだ。とか使いパシリされなさそうだわ。とか、まぁいつも通り楽観的だった。確かに物凄い剣幕であいつらに心配されても、それはそれで鬱陶しいしな。想像したら気が滅入りそうだ。

寮で同室の燕は、正直羨ましいと何回か言って来た事がある。確かに毎回気だるそうで、なんか申し訳なくなって、そんな日は食事当番を代わったりしてやった。

今では、それじゃ足りないなと思う。もうさっきから思う。本当にそう思う。

「万が一の事を考えて持ってきておいて良かった。ほらかかり、使い方説明してあげるからこっち向いて。少なくとも今日明日はそれ止まらないんだから」

それに何より、日ごとに性転換を繰り返し、しかも1日以上片方の性別を保てないこの体に、数日間発現するような生理現象が起こるだなんて思っていなかった。

「ねぇかかり、聞いてる?」

視界の端で何かをゴソゴソとやっていた燕が、顔を覗き込んできいてきた。いや、こいつが何していたのかは分かってるんだけど、まだ心の整理がついちゃいない。

「い、嫌だぁ……」

無意識に吐き出した言葉はひどく直情的だった。

そんな事言ったって、何も進展しないし痛みだって引きやしない。でもどうしてか目を閉じていたくて、不安で……まいった。七面倒で億劫そうで、他人事だと思っていた事がいざ我が身に起こるとそんなことを言う。子供みたいだと頭の片隅で思った。

「あ、嫌だって何? 別に変なことしようとしてる訳じゃないからね? それにかかりも知ってると思うけど、使い捨てで新品だよこれ」

「……………」

俺の言葉を違う意味に捉えて、むくれた声で不満を表す。チクチクと鋭い視線も感じる。違う燕。俺そんな事考えてない。使い捨てとかそうでないとかホントどうでもいい。つか使い捨てじゃない生理用品なんて聞いた事無いし、だから睨むな。

「なぁ、燕」

「何さ、商品名まで言わなきゃ使い捨てって信じない?」

いやだからそこじゃねぇよ。そこじゃなくてだな。

「……俺本当にその、なんつうか、えっと……せ、生理に?」

「……今さっき自分で確かめてたじゃん。あ、それとも自分の血を見てないから信じらんない?」

そんな事、なんで聞くんだよ。俺はまだ。それに、そう、なんでお前に促されてわざわざ股間を見なきゃいけないんだ。やっぱりこの体は面倒だ。男でいれば面倒なことは少ない。……あぁ、そうだよ。

「燕、少し離れてて」

まだ手を添えた体制でいる燕に、短くお願いをする。実は誰かが触れていたりすると、俺は性転換を起こせない。

「え? いや、かかりが生理ならしばらく一人にとか言ってられない事があるんだけど。確認ならパパッと……」

「男になる」

「あ、ああ。そう言えば、かかりにはそんな手があったね。なるほど」

それじゃあ、少し離れてるね。と燕は言い、添えていた手をしまって壁際まで下がった。ついでに、彼女が持ってきた用品類も下げられた。

その事を確認して、俺は気合いをいれる。

「よし」

まずは目を閉じて、落ち着くように深呼吸。それから体を動かさないまま、あくびをするような、何も考えず水に入る様な、そんなイメージで意識をどかして行けば、一瞬身体の感覚が無くなってくるはず。


ズキンと、鋭い痛みが走った。


……こうなったらやり直し。もう一度落ち着いて、またゆっくり意識を手放して行くように、リラックスしながらしばらくすればほら……。

…………

……

くそっ。

「かかり、変わらないの?」

いつもより性転換に時間がかかっているからだろう。邪魔しないよう黙っててくれていた燕が口を挟む。

「……………」

集中しようとして痛みが走り、目を閉じれば違和感が強くなる。僅かな気持ち悪さは落ち着けなくされるし、なんで、なんで性転換するだけの事がこんなに面倒なのだろう。

「…………くそっ」

悪態を吐いた。男体(じぶんのからだ)になるのを妨害しているのが、女体(じぶんのからだ)だなんて……

「…………今、戻れねぇみたい」

「……そっか」

気分が一段階沈んだ。

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