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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!16ページ

部屋に着くと、直ぐに燕は布団を敷いてくれた。

最近チクチクとした小言が増えて来たなと感じていたが、それと同じくらいこうして気遣ってくれる機会も多くなった様に思う。それでバランスが取れていると思ってるのかはたまた何も考えていないだけなのか、本人は特に何も言ってこないがとにかく、この修学旅行はホント世話になりっぱなしだな。

しかも、布団敷くためにテーブルを部屋の端にどかすのを手伝ってあげようとしたら、具合悪いんでしょうと俺が壁際に追いやられた。

普段は少し小心者で、男子校に通いながらカタログ雑誌をなんとか購読し、週一で甘い物を買って食べる時は小一時間くらい吟味しているというのに、こう言う時は押しが強い。また一つ鈍痛の走った腹部を抑えつつ、俺は最近の燕を思う。

昔はこう、主張が弱いと言うか、十人並みだったというか、高音質が出せるとか言う音楽プレイヤーを買って喜んでた癖に、安物のイヤホンを使っていた、どこか抜けた奴に思えていたんだけどなぁ。

あぁ、でもあれか。肝が小さいのは変わらずか。

「かーかーり!」

「うわっ!?」

そんな物思いにふけっていると、目の前にその燕の十人以上な顔があった。

驚いて飛び退くと、突然立ちくらみを起こしたように視界か揺れる。バランスを崩した所を、彼女は直ぐに支えてくれた。

「あ、すまん」

「ねぇ、かかり大丈夫? 本当にただの腹痛?」

眉根を寄せてそう聞いてくる彼女に、また気軽に大丈夫だよと言う気にはならなかった。なんだかエレベーターに乗る前と違って、茶化す雰囲気も感じられないからだろう。俺は布団へと運ばれながら、具合の悪い所を言っていく。

「なんて言うか、腹痛なんだけど、頭も少しぼーっとしちゃってさ。眠いし、こう、だるい感じに痛みが合わさったようなんだよ」

「そっか。でも熱がある訳でもないんだしねぇ。やっぱり武川先生に……ん?」

旅館の布団に横になる寸前。後は肩に添えられた手を離せばそのまま安眠姿勢になる所で、燕の動きが止まった。何か今気になることでもあったのだろうか? 顔を向けると、小声で何かを言っている。

「 熱は無……腹痛で……倦た…感」

でもダメだ。頭がぼーっとして、何言ってるのかイマイチわからなーー

「かかりっ!頭痛は? 頭痛はある?」

「ぅえっ?!」

小声で何かを言っていたと思ったら、急に目の前で大声を出された。頭に今のがガンガンと響く。

「ず、頭痛? ……いやまぁ、腹痛程じゃ無いけどある……かな」

今ので酷くなったよ。とは言わない。

「じゃ、じゃあ、変に痛いとこは?腕とか、足とか」

「痛くは無いけど、違和感が少し……」

「じゃあ、じゃあ!吐き気は? 立ちくらみは……さっきしてたか。

あ、だったら、あれは?」

そんなまくし立てるように聞かないでくれ。後、あれじゃ分かんないよ。

「吐き気は無いよ。……なぁ燕、どうしたんだいきなり。別に、ただの腹痛だって」

「どうしたんだって、もう。 ねぇかかり、別に変な意図がある訳じゃあ無いから、誤魔化さずに答えてね?」

な、何さ。

ずいと迫られて、思わずたじろいでしまう。別に燕が怖い訳ではないが、何か気迫の様なものを感じたのか、無意識に生唾を飲み込んだ。

「あ、あのさ。その……かかり今、下着に違和感とか、ない?」

「………………なんで?」

「あっ、いや、別に変な意味とかじゃ無くてさ、普通に、気持ち悪い感じしてないかってだけだよ。その……ブラじゃなくて、えっと……パンツの方に」

気持ち悪い感覚? しかも、パンツの方に? 腹が痛くてそれどころでは無いのに、こいつはなんでそんな事を聞いてくるのだろうか。

ぅあ、また痛みが走った。

「…………」

そして、はたと思いあたる。その症状。

お腹、というより下腹部の痛み。急な立ちくらみ、ではなくむしろ軽い貧血な症状。そして気怠さと下着の、いや股間の違和感。

「つ、つば……燕」

まさか、今お前が考えている事って……。

信じたくない。まさか冗談。だってほら、ありえないことだろ?

そう思いながら、燕の顔を見上げる。その俺の視線から何を感じ取ったのだろうか。寝ている俺の枕元に座っている彼女から返って来た表情は、若干の苦笑いだった。

「かかり、なんとなく分かった?」

そう問いかけられるけど、返事なんかできやしない。

「……うそだぁ」

なんとか現実逃避の言葉を言ってみたが、これは逃げてどうなる事でもない。分かってるんだけど、逃げたい。痛いのとかも無理やり忘れて、このまま眠りたい。

……無理だけどな。

「…………っし」

恐る恐る、股間に向かって手を伸ばす。こんなにおっかなびっくりそこに触れようとするのは、一年以上前の話っだった。今はもう、風呂に入った所でトイレに入った所で慌てふためくことはない。無心でいようだなんて変な気合を入れることもない。もう一年だ。ドキドキしてたのは最初だけで、今では見慣れているし、色々慣れた。

「…………っ」

だからこんな心境になるのは久しぶりだ。むしろ初めてそこに触れた時よりも緊張しているかもしれない。

指先が、辿り着く。

「……っ、うそだぁ」

「嘘じゃないよ。現実だよ?その、言いにくいんだけどさ、」

女になって一年のこいつと、女にもなれる様になって一年の俺とじゃあ、経験してきたものは大きく違う。俺が今精神をやられているこれも、こいつは半年以上前から経験してきたんだ。

耳を塞いでの現実逃避を諦めた俺に、燕ははっきりと言う。

でも、体調不良の理由がわかって安心したのか、その声は落ち着いていた。

「かかり、生理だよ」

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