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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!9ページ

今思った。これって明晰夢じゃないか?

古時計にもたれかかってしばらく、俺はふと、そんな事を考えた。

明晰夢とは、自分が夢の中にいるって事を自覚してる夢。詳しくは知らないが、言葉だけは聞いた事がある。確か、うまくやると夢の中で空飛んだり好き放題出来るんだよな。

なら、この夢もどうにか出来ないかな?空は飛ばなくてもいいから、何か出来ないか?好い加減暇だ。

古時計はあれから一応、叩いたり蹴ったりしてみたが、一向に動かない。猫も相変わらず一方を見つめているだけだ。

何にも出来ない。暇すぎる。てかなんでこんなに暇なのに夢は続いてるんだよ。終われよ。早く寮のベット、じゃ無かった。旅館の布団に戻してよ。このままだと夢の中でミイラ化してしまうよ。きっと。

そう思った時だった。

「にょーーーん!」

猫が吠えた。

俺の今までの人生の中で、こんな鳴き方をする猫は見た事がない。まるで人が声を当てている様な大声で、この黒猫は鳴いていた。思わず目を丸くしてしまう。

そんな俺に猫は、「気にするな」とでもいう様に尻尾を振った。いや、実際にはどんな意図があるのかは分からないのだが。突然鳴いた理由も、今の尻尾の動きも。

「のおーーーーん」

俺が頭にクエスチョンマークを浮かべていると、今度はどこからか、間延びした様な潰れた様な声が、辺りにひびきわたりながら聞こえて来た。

なんだろう、これから何かが始まるのだろうか。俺は急いで立ち上がり、声のした方を凝視してみる。相変わらず、真っ白でどこに自分の焦点があるのか分からなくなる風景だが。

それでも、声のした方を見続ける。少しの変化も見逃すまいと、目を凝らす。

そうしていると、すぐにだんだんとこちらに向かって来る何かが見つかった。

それは自転車、いや、人が歩く程度の早さで近づいて来る。俺はその姿をもっと良く見ようと猫の隣まで歩いて、

「……何だあれ」

そして、そう呟いた。

見えた物は牛車の様な箱だった。外装はシンプルで装飾品の様な物は見当たらないが、車輪も車箱もしっかりとした牛車である。ただ、それを引いているのが犬や猫と言う小動物なだけで。その動物達が二本足で立ち、山車の様に綱を持って引いていると言うだけで。

「………………」

眼前にあるファンタジーな光景に、どう反応して良いのか分からない。動物達はえっちらおっちらとだるそうに牛車を引いていて、その中の数匹は、法被(はっぴ)らしき物を羽織っている。

なんであの動物達は綱を前足で持つ事が出来てるんだ?

そもそもなんで牛車なんかを引いているんだ?

俺の横にいる黒猫は相変わらず猫なのに、なんであの動物達はあんなに人間らしいんだ?

と言うか、なんなんだこれは?

突然現れた珍妙な一行を前に、思わずそんな疑問が頭に浮かぶ。夢が少し進展したっぽいのに、内容が急でイマイチ飲み込め無い。なんだか置いてけぼりを食らったみたいな気分になる。頭に浮かんだ疑問も、どんなに考えても答えは全く出なかった。


珍妙な牛車が俺の近くまでやって来て、静かにその動きを止める。綱を引いていた動物達は素早く動いて一列に並び、その中で最も派手な法被を着ているトラ猫が、一歩進んで俺を見上げた。

その目は普通の猫と何一つ変わらないが、何か期待のこもった目をしているように見える。

「えっ………と、こんにちは?」

見つめられても困るので、挨拶してみる事にした。だってほら、挨拶は基本だってよく言うし、こんなにも人っぽいんだ。もしかしたら、爺さんみたいな声で喋り出すかもしれない。そう思いながら聞いたトラ猫の返事は

「今はこんばんわですよ」

「メスなんだ⁈」

高く透き通った声をしていた。

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