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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行! 5ページ

昼間は遊んだり歩いたり、おみくじを買ったり食べ歩きしたり写真を取ったりの一日だった。清水寺ではほとんどの生徒が鉄錫杖のでかい方を持ち上げようとして長い列を作ってしまったし、北野天満宮では牛の像をこれでもかと撫で回し、ほぼ全員が地主神社の御守りを買った。

バスに乗っての見学と言う事で、他にもいろいろな場所に行ったのだが、あえて割愛する。

ただ一つ言うのなら、やっぱり八ツ橋は美味い。

と言う事で、日はもう沈み、荷物の整理も終わった頃の宿、三階の、それなりの広さを持つ和室から。

「えーっと、この後お風呂に入った後、一階に集まって食事。その後は明日の班行動のために班長会。他の生徒は自由。消灯は十時で、それ以降は部屋から出ない事。

なぁ燕。この出ない事って言うのは、静かにしてれば起きててもいいって事かな?」

六畳程の和室でお茶を飲みながら、テーブルの上に修学旅行の栞を広げる。お茶は粉にお湯を注ぐインスタントな物だったが、別に気にする物じゃない。

「うーん、そうゆう意味なんじゃないかな。まぁでも、初日から徹夜するような人はいないでしょ」

部屋に置かれていた金庫に貴重品を入れて、テレビが映るかどうかを確かめていた燕は、特に関心も無いように言った。

彼女の言った事にふうんと軽い相槌を打つ。別に、徹夜するとは言ってないんだけどな。でもまぁ確かに、消灯時間が過ぎてまで二人でする事は無いか。毎日寮で一緒に居るから、今更語る事も無い。

部屋から出る事が出来ないなら、すぐに眠る事になりそうだ。

「それにさ、猛。どうせ部屋の中で静かにいようとしても無理だと思うんだよ。明日にはきっと、十時に寝なさいに変わると思うよ」

そう言いつつ、彼女はリモコンを使ってテレビのチャンネルを切り替える。

「うーん、なるほど。確かにまくら投げなんかしてたらうるさくなるし、カードゲームしてても叫び出すからな。」

「そう言う事。それに、こう言った旅行とかは夜より朝を楽しむべきだと思うんだよ、私は」

……一瞬変なニュアンスに聞こえた。

「ま、そんな訳だから、夜更かしはしないよ」

そう言って、燕はまたテレビのチャンネルを切り替えた。

さてこの後どうしようか。そう思いながら、栞を畳み、残ったお茶を飲み干した。

暇だから他の部屋に遊びに行くか。いや、それなら食事の後の自由時間の方が良いな。今行っても、どうせすぐに風呂の時間だ。よし、先に風呂の準備をしておこう。

そう思案する俺の耳に、先程から砂嵐の雑音が聞こえている。






「やっぱり、ダメ?」

「駄目って言うより、面倒くさいかな。まぁ、良いじゃんか。ほとんど貸切りなんだろ?」

宿屋の廊下をのんびりと歩きながら隣を歩く燕に言う。この旅館が和風なのは個室だけのようで、廊下なんか足元が絨毯みたいになっている。

「貸切りって言うけどさ、あんな広いところに一人って、変に緊張するよ」

両手で抱える様にして持っていたお風呂セットをきつく抱き締めて、燕は不機嫌な声を出した。不機嫌な理由は、まぁ話を聞いていれば分かるだろう。

「確かに不安になるよなー。幽霊とか出たりしてな」

「……なんでそう言う事言うかな」

燕の声は更に不機嫌な物になった。ごめんごめんと慌てて謝り、また適当な会話をしながら廊下を歩く。ぼんやりとオレンジ色の光が照らす空間を抜け、少し広いスペースのある、二階、踊り場へ。

「お、猛、燕。お前らも風呂に入るのか?」

すると、二階踊り場大浴場前には和樹達が居た。他にも、数名の男子がいる。

「あれ?今は五組の入浴時間だったか?」

風呂の暖簾を潜る前に、和樹に話しかける。俺と燕は六組で、こいつは五組。入れ違いなら分かるが、和樹の髪の毛は濡れていない。

気になったので聞いてみると、呆れた声を返された。

「お前ら、栞にはちゃんと目を通したのかよ? 生徒は風呂の時間と決められた六時から八時までの二時間。好きなタイミングで入って良いんだぜ?だから二時間ずっとサウナに居るとか言ってる奴とか、さっさと入って二時間UNO大会をするとか言ってる奴も居るんだ」

そうだったのか。でもなんで自由なんかにしてしまったのだろうか。そんな事をしたら、ほとんどの生徒が早上がりしてしまうぞ。

「それはあれじゃ無いか?二時間なんて長い時間で、お前ら二人と同じタイミングで風呂に入るのを難しくするためじゃ無いか?」

後ろから、また新しい声がかかった。振り向けば、優太が居た。風呂セットを持って、同じ部屋なのか、修、伊坂を連れている。

それってどう言う事だよ。優太の言葉に対してそう質問しようとした時、燕がボソッと一言、

「……覗かないでよ?」

と身体を縮こめる様にして言った。ああ、成る程。六組連中によるそ覗きを防ぐためだったのか。だが、それは一歩間違えれば逆効果じゃないか?

「ねぇ猛。やっぱり一緒に女湯に来てよ。とてもじゃないけど、やっぱり……」

縮こめた体を震わせ、か細い声で懇願されると、俺としては心が痛い。

どうしようか悩んでいると、後ろから伊坂が話しかけて来た。

「あー、僕も山瀬さんと一緒に行った方が良いと思うよ? 覗きたい訳じゃないが、彼らの会話を聞いてるとね」

彼ら、と言いながら伊坂が指差した方向には、数名の男子生徒が、青色の暖簾のすぐ近くで何かを話している。

俺は彼らに気付かれない様に聞き耳を立てる。

「よし、じゃあまとめるぞ。神鎌は自分の意思、又は意識を失うと性転換する。じゃあ、風呂場の中であいつを気絶させたらどうなる?」


「…………燕」

「……何?」

「ごめん、五分待ってて」

「……うん、そうしな」

彼らの会話を聞いた後、燕と少しだけやりとりをして、俺はさっきまで居た部屋に向かって駆け出した。

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