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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!4ページ

「修学旅行とかって、確かに移動中の乗り物でトランプやら何やらをするけどさ」

手に持った八枚のカードを確認した後、窓の外に目をやって、その景色から今は何県あたりなのだろうと推測を立てながら、俺は誰ともなしに呟いた。

「人数、多くねぇか?」

今現在、新幹線のとある一角で大富豪をして遊んでいるメンバーは、シートに向かい合わせで座っている俺、飾、修、燕。それと、カメラを首から下げて隙あらばシャッターを切ってくる林。さらに近くに座っていた伊坂(いさか)赤坂(あかさか)。七人は流石に多いだろ。

「確かに、大富豪をするには多いが……」

通路の脇でカードの整理をしている伊坂が、戸惑いながらもそう言った。

特に上手な奴がいないから別にいいけど、強い順、あるいは弱い順にカードを並べない方がいいぞ。どの位置からどのカードを出したかで、おおよその強さが割れる。

「意外と早く終わるし、もう一つトランプデッキがあればいいんだけどな」

取り敢えず、手札にダイヤの三があったので場に出す。これで残りの手札は七枚。やっぱり少ない気がする。

「だったらもう一人加えたいな。そうすればちょうどいい」

「ばか言うな。そしたらそいつはどこに座るんだ」

今回の修学旅行の目的地、京都へと向かう新幹線の中、清涼学園の生徒達は思い思いに過ごしていた。幸いな事に、新幹線の中でしょうもない理由で喧嘩し始める生徒や、酔って口から消化しかけた朝食を吐き出す様な生徒は居なかったので、新幹線の中は少し騒がしい程度に落ち着いてる。

「それに、柄の同じトランプを誰かが持ってないと出来ないぞ。いや、出来るけどつまらなくなる」

俺の次にハートの五を出した修が、トランプをもう一つ使おう。と言う提案を出した赤坂に向かって平坦な口調で言った。

言われた赤坂の反応を横目で伺ってみると、どうやら冗談半分な提案だったらしい。

「ま、二デッキもあったら切る時大変だしなー」

と、軽く呟いて、場にスペードの十を出していた。

こういう時は、何が真面目に言ったやつで何が冗談で言ったやつなのかが分かり辛いんだよな。

冗談だと思って適当にあしらっていると、後々になって大変な目に遭ったりする。

「んじゃあ、宿舎に着いたら、人生ゲームでもするか」

飾がダイヤの一を出し、一旦場のカードが流れる。もう一度、飾からゲームが再開した後に、林が話題を変えてきた。

「人生ゲーム? 持ってきてるの?」

そしたら燕が反応した。さて、これは冗談なのか。本当なのか。

「おう。持ってるぜ。しかも通常の倍の大きさを持つ超特大マップタイプだ」

これは冗談だろうな。

「本当?」

「嘘だ」

ほらな。

「えーっ。じゃあ、人生ゲームは無いのか」

「あー、それは持って来てる。本当は市販のポケットタイプだ」

「ああ……成る程ね」

こんな風に冗談半分の会話を幾つも重ねながら、トランプを進めて行く。窓の外の景色もまた変わり、京都の街に近づいている事が分かった。

「そう言えば、一つ気になっていた事がある」

最初のゲームが終わった時に、貧民、伊坂 友晴が声を上げた。

「どうした?」

続きを促してみると、彼は別に大した事じゃない。と前置きし、その気になっていた事を話しだした。

「清涼学園から出るとき、バスが八台無かったか? この学園は、七組までしか無いはずだろう?」

ゆっくりと吐き出される言葉、確かに清涼学園は七クラスで『二年八組』は存在しない。かと言って、先生のみで一台のバスを使う程、今年は裕福ではない。

しかし、男子校に俺や燕が通っている様に、中には例外と言うものがある。

長い歴史を持つこの清涼学園には、俺達一般生徒の他に、一流会社の御子息やら御曹司やらエリートやらも通っているのだ。

学園の中央で英才教育を受けている彼らは、簡単に言えばチーム特待。通称『二年A組』だ。

因みにこの特待クラスは、姉妹校の温華女学院にもある。

「だから、そのバスは多分A組の奴らなんじゃないか? 俺達一般生徒は会った事は無いが、噂じゃ朝から晩まで勉強してるんだと。

後、A組の奴ら、毎年修学旅行は一般生徒と違う所に行くらしい。だからきっと、この新幹線の中には居ないぞ」

カードを新しく配りながらそう言うのは、大貧民修だ。

「そんなクラスがあるのか。この学校は」

「伊坂はまだ一ヶ月も過ごして無いからな。あの学校無駄に広いし、迷子になる事もあるんじゃないか?」

成る程と感心していた伊坂に、飾がからかう様に言った。そのニヤッと言う効果音が似合いそうな笑い方が、何故だかボケを期待している様に見える。

伊坂は真面目に返すんじゃないのか? そう考えながら、俺は車内で配られたジュースに手を延ばした。うん。おいしい。

「迷子になら、初日になりかけた。黒猫に絡まれてる人を見つけなければ、どうなっていたか分からない」

「げふっげふっえっふっ!」

「急にどうしたっ?」

咽せた。盛大に咽せた。ジュースがこぼれる事は無かったが、咽せた。

確かに真面目に答えたがなぁ伊坂。何懐かしい事を思い出させてくれるんだ。

「いきなりどうしたんだい猫さん?」

「猫さん言うなよ。俺は猫じゃない」

げほげほ咳き込んでいると、伊坂は絶対に心配していないと断言できる物言いで言ってくる。

「じゃあ猫さんになるかい?変身道具なら持って来ている」

「変身道具ってなんだよ!後どうやっても猫にはなれないからな!」

人から猫になるのも、猫から人になるのも、普通起こらない。伊坂。お前も冗談言うんだな。

新しく配られたトランプを手に取りながら、通路に座る軽く引くくらいの美少年を一瞥した。

二回目のゲームは大貧民修から始まる。

目的地に着き、トランプを片付ける作業に入るまで、あと、三十分を切っていた。

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