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つまり  作者: 石本公也
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つまり、五月の修学旅行!3ページ

「えっと……旅行って普通何持っていくんだっけ?」

修学旅行前日ともなると、二年生の殆どは浮かれていて、授業中も騒がしい。海外から国内に行き先が変わった事はもうどうでも良いらしく、後輩に土産をねだられている生徒もいる。一部では、自由時間の間にどれだけの寺を回れるかを競い合うらしい。各お寺のおみくじ結果を持ち寄る事で、そこに行った証明とするそうだ。

証明なら、写真でもいいのにな。

そんな訳で、今現在俺は、修学旅行に持っていく荷物のチェックを行っていた。

「うーん、街中だし、暑そうだし、日焼け止めとか?」

「成る程」

頷いて立ち上がり、バッグから離れて部屋の隅にある棚に向かう。

リビングに置いてある棚の中から、小さいプラスチック容器に入った、ゲル状タイプの日焼け止めを取り出した。

中身がちゃんと入っているかを確認し、顔を上げる。

そして、棚の上段にある道具が視界に入った。

「なぁ、ドライヤーって向こうにあるかな?無かったら大変だし、やっぱり持っていく?」

「あー、それは考えて無かったや。一応持って行った方が良いんじゃない?」

「なるほど」

棚の上にあったドライヤーを手に取り、日焼け止めと一緒にバッグの近くに置く。

「なんだかなぁ。修学旅行のしおりに書かれていない物まで持っていくのは変な感じがするなぁ」

このドライヤーとか。

そんな事を思っていると、不思議そうな顔をした燕が、赤のキャリーバッグを閉じながら言って来た。

「そう?別に変じゃないと思うけど。しおりに書かれていなくても、酔い止めとか双眼鏡とか持っていくでしょ」

あ、そうか。燕の言葉に頷いてから、俺はもう一度、リビングに置いてある黒のキャリーバッグに目を落とす。

まぁ、しょうがないことではあるのだが、純粋な男で居た頃よりぎゅう詰めだ。なにしろ衣服が二倍になっているし、小物も増えている。

 ぎゅうぎゅうに詰められ重たくなったキャリーを玄関先まで運び、うんと伸びをする。これで取り敢えず用意はお終い。後は明日寝坊しないように、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、早いとこ布団に入れば大丈夫だ。

 そう言えば、今度泊まる旅館はどんなとこなんだろう。だいぶ前に「ととのい」ってとこにとまった事あるけど、あんな山中ではないだろう。

「かかりー。私の荷物も横に置いておいてくれる?」

 そんな事を考えていると、リビングから赤いキャリーを押しながら燕がやってきた。

 燕はパンフレットから目を離さない。今回の旅行では多分行かないであろう観光スポットが書かれているページを、さっきからずっと眺めている。

計画を建てている訳でもなく、実際に行く訳でも無くパンフレットを見ているなんて、ちょっと時間の空いたおばちゃんのする事だからやめれ。

「見てるだけでも楽しいんだよ。分からない?」

分からない。

そう即答してやると、「ええーっ嘘だーっ」と燕は抗議の声を上げた。

いやでも分からないよ?パンフレットを広げて想像する事で楽しむなんて。

ギャーギャーわめいている燕をこのまま放って置いても、彼女は俺にパンフレットの魅力を語る事は無いだろう。

それよりも、はしゃいでいるこいつに忠告するべきだ。

「それよりさ、燕、出発するの明日だよ?浮かれて寝付けないなんてなったら、バスで地獄をみるぞ」

「あ、それは嫌だなぁ。よし、それなら早く寝ないと、かかり、お風呂先入って来たら?」

早く寝ないといけないからと言って、風呂をすっぽかす気は無い様だ。この辺、ちゃっかりしてるよな。

「んじゃあそうさせて貰うよ。燕はどうするんだ? 俺が風呂に入っている間」

「ああ、旅行の準備も終わったしね。晩御飯の下ごしらえでもやっておく。仕上げとかはかかりがやって」

「うん、分かった」

そんな感じで軽く会話をし、俺は洗面所へと向かう。朝目覚めたらどうせまた性転換してるんだ。と、灰色の地味なスウェットが主な寝巻き。旅行用に新しい物を買ったが、それも無難なジャージにしている。

「まぁあれだよな。念の為服は用意してるけど、旅行中に自分の意思で身体を変えるなんて事は無いよな。只の修学旅行だし、な」

脱衣所で衣服を脱ぎながら、呑気にそう呟いた。今の俺の心配事は、修学旅行の後にある、写真購入のあれだけである。

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