表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
7/67

事情

「で、この街の探索ってなんすか?前浜東の生徒死亡事件って?なんでそんな事みどりちゃんが調べているの?」




ファミレスの席に着くなり、拓也が塚本さんを見上げて言った。

(こいつは真っ先に自分が、勝手に奥の席に座ってしまった。)


私はなんとなく拓也の隣の席に座るのが躊躇われ、向かいの席に腰かける。


結果、塚本さんは私達の顔を交互に見比べ、拓也の隣に座った。

(まあ、当然よね。)




「あ、田中さんから聞いたんだー。ヨッシー、詮索好き?」


塚本さんは、正直こっちがイラっと来るくらい、飄々と言う。


「全然。めんどくさいの、やだ。でも、面倒な事に巻き込まれるのはもっと、やだ。

 だから防波堤を作ってんの。事情が分かんないと、一緒しづらいでしょ?」


拓也はテーブルにグダーっと突っ伏すように体を預け、右ひじをついて体ごと塚本さんを見て言った。


何というか、本当にだらしの無い姿勢するなー。


「お前、ほんと態度一変したなー。無礼な奴。」


相変わらず塚本さんは、台詞の割には怒った様子も無く、たいして呆れた様子も無く言う。


「世渡り上手って言って。みどりちゃんほど、顔と笑顔だけで世の中渡って行けないもんで。」

「ばかやろ。俺は頭も性格もいい。」


ニヤッと笑って返す塚本さん。

それを、はいはい、と言って興味なさそうに返す拓也。・・・素かも。



店員さんがやってきて、それぞれ適当に注文をした。

私はもりそばを頼んでしまい、拓也に「ここに来ての蕎麦だよ」と呆れられてしまった。



「・・・で、話を戻すけど。なんでそんなん、調べてるんすか?だって今日、平日よ?俺達学生は夏休みだけど、バリバリの社会人が貴重な休み使ってまで、何を知りたいの?」


拓也の突っ込みに、私は今まで気づかなかった事を気付いてしまった。

そうよ、この人、社会人よ。仕事休んでるじゃない。



塚本さんはやっぱり飄々と


「そうね。知れる事を、知りたい。」


なんて、背もたれに体を預けながら言う。


「何、それ。何で?・・・つーか、何で俺ばっか聞いてんだよ?お前、何も疑問に思わなかったの?」


いきなり私に話を振らないでよっ。

っていうか、私は状況について行くのに必死で、(極上のハンサム相手に軽く結構ムカついて)そこまで頭をまわしていなかったのっ。

これから問い詰める所だったのっ。



「・・・相変わらず、ポイントずれたとこで自己主張するくせに、肝心なとこで気が回らねえな。」


グサっ。


人を、さも「昔の女です」みたいな、あんたに所有権があるかのような、分かったような口のきき方をしないでくれるっ!?



・・・って、ここがポイント、ずれてるのかしら?



「うるさいっおしゃべり小僧。あんたは黙って、その背後にいるでっかい猫に餌をやり続けてればいいのよっ!」


私がドスをきかせて言うと、拓也が人懐っこい目をまん丸に見開いて、ぽかん・・・とした。



「・・・え?何、それ。全然わかんない。」

「お前がはげしい猫っかぶりだって言ってんじゃない?」


塚本さんはフツーの顔して、目の前のお水を飲む。



「・・・うっわ。わかりづれー。」


拓也が呆れた様に私を見たけど、私も、すましてお水を飲みながら言ってやった。


「自分の頭が回ってないだけ。」


珍しく、グッと詰まる拓也。やったね!

それを見た塚本さんは、ニヤリと一言。


「綾ちゃんに一本。次、頑張れ。」



すると拓也はついに机に突っ伏して、仰々しく頭を抱えた。


「もうっ。俺、何でここにいるのっ。」


あんたが自分の判断でついてきたんでしょ?


そして彼は顔をあげ、塚本さんを見て言った。


「で、みどりちゃんはどうしてその事件の事を知りたいの?」


すると彼はやっぱり、何でもない事のように言った。


「んー、実はね、関係者と知り合いなんだわ。知り合いとしてはさ、知りたい事もでてくるじゃない、色々と。」






え?関係者と知り合い?

途端に、私はかなり強張ってしまった。

その言葉に、今自分が関わっている事が、急に、現実味を帯びてきたから。





そうよ。15年前の事件を知りたがっている人。

その時点で、もっと警戒心を持つべきだった。

なるべくすぐに、離れるべきだった。

私にとってはあまりに昔の事過ぎて、随分時が経ってしまって、

塚本さんが、抜群のイケメンだけど態度があまりに自然だったので、



彼の話が、すごく、他人事のように響いてしまっていたのだ。




私は自分で自分が情けなくなる。

私ったら、流されやすいにも程があるっ。どうして途中で気付かなかったのよっ。

拓也の言うとおりだ。肝心な所で、ヌケている。




同時に、内心驚く。



私、そんなに、ほぼ完璧に、忘れる事が出来ていたんだ・・・・。





「関係者」と聞いて、拓也はそれ以上突っ込むのをやめたらしい。プライバシーの匂いを感じたのだと思う。

彼は、こういう所はすごくバランス感覚がいいから。


「ふーん。でもさ、それだったら俺たちじゃなくって、もっと年上の人とか、元同級生とかに直接訊いた方がいいんじゃないっすか?だって俺達、15年前っつったら、6、7歳だよ?小学1年生だもん。何も直接的な事は知らないっすよ?」




そう、小学1年生だった。




ふと視線を上げると、何故かこっちを見ている塚本さんと目が合って、

ドキッとするより、ビクッとなってしまった。


その切れ長の、ちょっぴりタレ目の綺麗な瞳が、まるで何かを知っているような色で私の事を見つめている・・・・


気がしたからだ。




塚本さんにつられたのだろう。拓也もなんとなく、私の方を見る格好になっていた。



一瞬、テーブルに沈黙。

その時、まさしくのタイミングで奈緒が飛び出てきた。


「はーい、遅れましたー!田中でーす。」


奈緒は、外の綺麗な空気とやってきたように、日本人形の様な顔と明るいピンクのシフォンスカートを身にまといテーブルに近づいてきた。


「ごめんねー、綾香、一人にしちゃって。もう、親が大変で・・・って、何かあったの?」

「え?何にもないよ?よく、こんな早くに家を脱出できたねー。正味何時間?」



私は奈緒に助けられた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ