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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第四章 Recollections  思い出・記憶・回想
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The Futuer to be

多分夢を見ていた。何の夢かはあやふや。

なのにその夢が段々リアルになってきて、しかもかなり気持ちが良くて、すごく感じてしまい、エッチっぽくって、ああ私、碧さんと付き合い始めて舞い上がっているんだなあ、と。


え?


リアルすぎない?てか、触られてる?


徐々に覚醒してきて、というか起こされた感じで、目を開くと柔らかそうな髪をした頭が頭が胸の上にあった。

「あ・・・え?・・・碧さん??」


え?何?どうなってるの?


「眠いの?」

そういいながら彼は私の首筋に唇を寄せ、指はニットの胸ボタンを外している。

ここは私の部屋のベッドの上。

「え?え?」

私は寝ぼけた頭で混乱した。

「何やってるの?」

「味わってるの。」

唇が下がり、胸元にキスを落としながらこっちも見ずに言う。

「遅くなった俺も悪いけどさ、寝ている君も悪い。」


碧さんはコートと背広を脱いだ、シャツ姿。私の上に跨って首に顔をうずめたまま、第三ボタンぐらいまで外された。

「わ、わ、ちょ・・・あっ・・・ん・・・。」

状況を把握しかけた時にキュッと首筋を吸われ、思わず声を上げたら今度は深い口づけをされた。

頭の整理をする隙を与えないかの様に、彼の熱い舌が私の口内を掻き回す。

訳の分からないまま夢中でそれに応えていると、今度は下着の上から胸を触られて、物凄く甘い電流が走り、それがかえって私の頭を覚醒させた。


「や・・・シャワーっ!!」

「無理。止まらない。」

即答かいっ!しかも進めるかいっ!あっ胸にキスっ!!

「止まりますっ。」


碧さんが顔を上げた。会社仕様で上げている前髪が一筋垂れて、少し乱れている。色っぽい。

その眼が熱っぽくて、なのにからかうように口元が上がっていて、もう、メチャクチャヤバい。

「じゃ、一緒に入ろう?」

「限りなく却下!!」

「ちっ。」


彼は少し拗ねたように言葉でハッキリ舌打ちすると(なんなのよ?)、私から体を起こした。

そしてベッドから降りて、私を見下ろしてにこっと屈託の無い綺麗な笑顔を見せるんだけど、いきなり襲っといて、そんな爽やかな笑顔見せたってダメなんだからねっ。

仕事が終わったらうちに来る事になってはいたけど、


「鍵は締めとかないと。ビックリするだろ。」

いえ、ビックリしたのはこっちだからっ。私が起きなかったら、どこまで進めるつもりだったのよっ!


「ま、ね。明日は休みだし?俺、実はホテル取ったんだ。今からそっち移ろうぜ。」

「え?今からですか?何で?」


またビックリした。


「そのほうがいいかなって。」

・・・何ですか、その微妙な表情は。


「・・・私の部屋は居心地悪いですかぁ?」

「そんなんじゃないよ。出来る事なら居座りたいくらいだよ。」

「じゃ、何で?」

「・・・ホテルも、いいかなあ、と・・・。」

「やっぱり私の部屋が変なんだー。」

「違うって。」


碧さんはチラ、と私を見ると何故だか目を反らした。わずかに顔が赤い。


「・・・綾ちゃん、ベッド、ずっと同じ?」

「ずっと?はい?」

「上京してから、4年間?」

「え?・・・清潔ですよっ失礼なっ!!ちゃんと一週間に一度は、シーツ洗ってますっ!!」

「いや、そうじゃないんだ。」


怒りだした私に彼は慌てて制する。じゃあ何なのよっカンジ悪いっ!


「まあいいじゃん、着替えてないんだろ?丁度いい、行こう。」


ニコッと笑って焦ったように私の胸ボタンを留めてくれるんだけど、部屋で待てって言ったり、やっぱりホテルって言ったり、

ホント自己申告通り、どんだけワガママ王子なの、この人はっ!

「ダメっ。気になるっ。行けませんっ。教えて下さいっ。」

「そんなに食いつかれるとは。お願い、忘れて。」

「無理。教えて。私の何がダメ?」

「いや、君じゃなくて・・・。」


本気で困った顔。いつもは男らしい綺麗な眉毛が下がり、ちょっぴりタレ目がますまタレた。

「その・・・ベッド・・・あいつを思い出すっつーか・・・。」

「は?・・・あ。」


沈黙。


理解しました。


「支度します。」

「サンキュ。」


二人して赤くなったし。




「俺さ。実は・・・言わなきゃいけない事があるんだ。」

甘さの残るベッドの中で、私の頬に唇を滑らせて、手はシーツの中の私の太腿を撫で上げながら彼が言った。

結局私達は、シティホテルの部屋に着いたら食事も取らずに、その・・・イタシテしまった。

だってこの人、強引すぎるんだもん。そして、上手すぎるんだもん・・・。

抵抗出来る人がいたら、教えてほしい・・・。


頬に感じる彼の唇にボーっとなりながらまだ疼くような甘い痺れを体に感じていたのだけれど、

彼の台詞が頭の中で消化されると、時間差で、思考回路が繋がった。

「え?これ以上??今度は何ですか?」

思わず目を見開いて彼を見上げてしまう。


「別の殺人事件を抱えていたとか?実は偽名で本職は別で学歴詐称していたとか?それとも藤田さんともいっかいベロチューしちゃったとか?」

「・・・・君はどうしてそう、次から次へと・・・。」

「心の声を言葉にしたら、もっと出てきます。」

「わかった。ありがと。留めといて。」

ストーリーがいつも出来上がっちゃってるとはこういう事か、と碧さんが呟いているけど、それ、全部聞こえてるから。


彼は私の隣に身を沈めると、天井を見つめて静かに言った。


「俺、今週、打診されたんだ。」

「・・・何を?」

「南アに行かないかって。」

「なんあ?」

オウム返し。聞き間違えたかな?

「なにわ?」

「なんあ。南アフリカ共和国。ほら、サッカーのワールドカップをやっていた所。」

「・・・へぇー・・・。」


私は彼に体ごと向いた。均整のとれた上半身がまともに目に入り、ドキッとしてかなり焦ってしまう。

恥ずかしいので、自分は胸までシーツを上げて隠れた。

「何で?」

「仕事だよ。決まってるでしょ。レジャーで『打診』はされないでしょうが。」

彼は苦笑しながらうつ伏せになり、腕を組んで顔を私に向ける。筋肉質な背中が見えた。


「あ、そうですか。いつですか?」

「うーん、4月だろうと思うんだが・・・。」

「随分先ですねぇ。大掛かりなお仕事なんですね。」


碧さんは一瞬不思議そうな顔をした後、思い直したように言った。

「まあ。本格的な移動としては、初めてだな。」

「本格的な移動?・・・乗り物がですか?」

「え?」

「え?」


本格的な乗り物って飛行機?でもそもそも船で南アフリカは遠すぎない?でもなんか、碧さんの反応がそういう意味ではなさそうだから、これ以上口を開くのはやめた方がいいかもしれない・・・。


「・・・ま、いいや。それで、君に伝えるには会って話した方がいいと思ってさ。」

「そうですか・・・。」

「まだ決定ではないんだが、まさかこの歳で声がかかるとも思っていなかったんだ。・・・さすがに、君に言い辛かったものだから。けど。」

「え?そんなに長いんですか?その出張?」

「出張?」


またまた無言の見つめ合い。今日でコレ、何度目?


「違うよ。移動。転勤。住むの、そこに。」


彼の言葉を聞いて、暗闇の中で彼の瞳を見つめ、

そして私はやっと、意味を理解した。


「・・・ええー?!」

「繋がったんだ、今・・・。」

碧さんが唖然としたように言うんだけど、そんなの社会人とお付き合いした事ないからわかんないよー。ハッキリ言ってよー。


「どれくらい?」

「2年くらい。」

「2年・・・。」

ちょっとビックリした。


「綾ちゃん。」

碧さんはそんな私のビックリ顔をどう受け取ったのか、真面目な顔をして上半身を起こし、片手をついて私をジッと見つめた。


「悪いけど、君を手放すつもりはない。前も言ったろ?」

「・・・。」

「でもそれは俺自身の問題だから。君は、君のしたい様にやってくれ。俺はどんな君でも結果でも、受け入れる。」


グッと彼の瞳が暗くなる。それは度々目にした、碧さんが何かを決心した時の顔だ。


「・・・それ、碧さんの本音ですか?」

「本音?」


彼はプッと噴き出した。唇の片端が上がり、皮肉っぽい顔になる。


「それを俺に聞くの?かなり後悔するよ?」

「構いません。」

「言えねえな。ベッドの中でも言えねえな。」

「私、碧さんが好きです。」


そう言うと、碧さんの表情が少し変わった。わずかに目を見開き、ジッと私を見つめる。

寝ながら言う台詞でも無いと思い、私は体にシーツを巻きつけるようにしてベッドに起き上がった。

彼の瞳を、見つめ返す。


「あなたの、何があっても底抜けに明るく見せる所が好きです。目を反らさない所が好きです。困難な目的でも達成しきる強引さと意思の強さが好きです。誰にでも分け隔てなく優しい態度を取れる所が好きです。」


彼が少し驚いた様な表情を見せる。


「あなたの過去を思うと苦しくなります。私の知らない、なのに誰かが知っている碧さんの事を思うと切なくなります。・・・これから離れ離れになって、碧さんの視界に私がいないと思うと悲しくなります。あなたに触れられなくて、泣きたくなります。」


私は彼の瞳から目を反らさずに、一言一言を丁寧に言った。


「言いましたよ、本音。」


彼は息を呑んだように私を見つめ続ける。

しばらくして、視線を落とし、低い声で呟いた。


「俺は・・・。」

眉根を寄せて、切なそうな表情をする。そして少し微笑むと、私を見た。


「君のまっすぐな瞳が好きだ。誤魔化しが効かない所も、ちょっとトンでいる所も、時々ポカンと開く口元も・・・俺を誘う目も、ね。」


ニヤッとからかう様な唇。恥ずかしくって、ドキッとする。

すると彼は、途端に熱っぽい瞳を見せた。


「誰にも触らせたくない。正直、見せたくすらない。好きな事をやればいい、なんて嘘だ。俺の手に届く範囲で泳がせたい。視界から消えるな。俺だけ見ていろ。俺の事だけ考えろ。」


そう言って私の顎に手を伸ばし、クイっと上を向かせた。彼の瞳に覗きこまれる。


「吉川の近くに置いておくっていうだけで、気が狂う程嫉妬するよ。腹ん中ドロドロだ。あいつが側にいれば君は安全だし俺も安心なんだ、って頭に言い聞かせているんだが、さっぱり効果が無いんだ。こんな仕事、蹴りたくなる。」


その瞳は熱くて、暗くて、でも惹きこまれずにはいられない強い光を放っていた。


「君を壊してでも側に置きたい。もう君は、俺なしではいられないんだって思い込みたい。」


その切ないほど痛い表情と真剣な眼差しに、私は金縛りにかかったように動けなかった。

するとそんな私を彼は見つめたまま、自嘲気味に笑った。


「引いただろ?理想とは程遠かった?」


この人の情熱が真っ直ぐに伝わる。こんなに激しい人だったとは。

「うん。予想外。」

私がそう答えると、彼の瞳がゆらっと揺れた。


「でもこれで、私も安心した。」


この台詞に、碧さんは一瞬戸惑いを見せた。

私はにっこり微笑む。

「碧さんも安心して。私、拓也の側にはしばらくいないから?」

これが彼の一番のネックみたいだったから、そう言ってみる。


「・・・どういう意味?」

「私ね、海外に行くの。」

「・・・え?」


碧さんがポカンとした。まだ理解出来ていないみたいで、眉根を寄せている。

私はニコニコして続けた。


「この間通知が来てね、合格したんです。それで多分、5月ぐらいからに行くんです。海外人道支援、ボランティアに。」

「・・・海外じんどうしえん??」


今度は、度肝を抜かれました、っていう表情。開いた口が塞がっておりませんよ?


「そう。NGOがやっているものでね、貧困地域の、村づくりとか教育とか衛生とか、そう言った事全般をサポートする仕事。ほぼ一人でやるんですよ?もちろん現地には、サポート機関があるらしいんですけど。」

「・・・何それ・・?」

「だから、私の、社会人第一歩のお仕事です。すごかったんですよ、倍率15倍くらいの難関。まさか受かるとは思わなかったたら、誰にも言えなかったんですね。本命、叶っちゃいました。」


ピースサイン。

うふふ。


「ミステリーハンター、してきます。現地の人達と一緒に。」

だって異文化の中で、手探りで前に進んで行くなんて、もうそれだけでミステリーハント。



「・・・うわー・・・。」


表情豊かな碧さんの色んな顔を見てきたけど、こんなにひたすら驚いているのは初めて見たな、と思う。テンション上がるぅっ。

「期間は?」

「2年っ!」

「場所は?」

「まだ未定っ。多分アフリカ大陸のどっかっ!あ、碧さんと一緒っ!」

可愛く小さく、胸元で手を振って見せる。

「おんなじアフリカ大陸ー。」


「・・・ダメだ、負けた・・・。」


碧さんがそう言って、枕の上に突っ伏した。

私がその上から、ウキウキとした声でたたみかける。追い打ちってステキっ。

「だって碧さんだって、私の本命が叶いますようにってお月さまにお願いしてくれたじゃありませんか。ミステリーハンターなっちゃいなよ、って言ってくれたじゃない?」

「言ったけど・・・言った。確かに、言った・・・。」

「私、こんなに前向きに突き進む気になったのも、碧さんに出会ったおかげだって思っています。感謝感激です。」


碧さんは、まだ枕から顔も上げずに呟いた。

「・・・すげー・・・。俺、ついて行けるかな・・・?」


「だって碧さん、前を向いている私が好きなんでしょ?」

「・・・・。」

「私、碧さんに一生ドロドロしてもらえるように、頑張りますっ!!」

「・・・そうくるか。」


やっと顔をこちらに向けると、彼は綺麗な瞳をすこし艶めかせて、苦笑しながら言った。

「じゃあ俺は、君が一生離れられなくなるように、努力します。」

「私ね、本当は無難に、年金と保険が入れる仕事と人生を捜していたんです。理想とは別に。」

「・・・・。」


しばし無言。


「わかった。そっち部分は俺が引き受けるから。君は一生、好きな事をし続けなさい。」

「やったっ。」

これってプチプロポーズ?


軽くベッドの上で飛び跳ねる私を、彼はふわっと引き寄せた。

引きしまった胸板に頬が触れて、その感触と香りに心臓が激しく反応する。

彼は低い声で、優しく囁いた。

「・・・好きな事をし続けるって結構大変だぜ?」

「碧さんの為なら。そんな私がいいんでしょ?」

「・・・マジ、負けた。」


楽しそうな笑い声。私の頭をクシャクシャと撫でまわすと、私はぐるんって回転させられて、視界反転、天井を見上げる形になってしまった。間に碧さん。


「じゃ、せいぜい俺は、ベッドの中で君を負かす事にします。泣かせるから。それぐらい覚悟して。」


挑戦的な瞳。色っぽくってドキッとする。

こんな危ない動物には食べられても本望なんだけど、私、そんな趣味は・・・。

「・・・痛い事・・・」

「まさか。」


クスッと笑うとますます色っぽい。もう、ゾクゾクする。

彼は私に甘ったるいキスを落としてきた。

そして唇をそっと離すと、至近距離で見つめて、私を溶かすように怪しく囁いた。


「気が狂う事。俺ばっかじゃ割にあわねえだろ?・・・壊しちまうかも。たまにはいいよな?」








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