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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第四章 Recollections  思い出・記憶・回想
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Can't stop helping

最初は柔らかく、ふわっと。確かめる様に。そして次はしっとりと。味わう様に。その後はもう、欲望にただひたすら、任せるかの様に。


一回目の試す様なキスや、二回目の哀しいキスと違って、三回目のこのキスは、息も継げなくなるほど激しく、優しく、愛しく、とろける様なキスだった。


気付くと彼の唇は私の耳たぶを掠り、吐息とともに熱い舌で舐めあげられた。

「あっ・・。」

思わず声が出てしまって恥ずかしすぎるのに、彼の唇は私の首筋に下りていって優しく吸いつき、軽く舌でなぞるものだからそれだけでもう、恥ずかしいどころではなくなってしまった。

甘い電流が体を貫く。痺れるような感覚が、全身を粟立たせる。

「あ・・・んっ・・・。」

ヤバいヤバいヤバい、収拾つかない、つけられないっ。

彼の手が私の胸にまで伸びてきて、ダメっ、ここで本格的に触られたら、


私、抵抗できない自信があるっ!!


胸の上にある彼の手をガッと掴む。なのに彼はキスをやめてくれないものだから、頭はますます痺れてきて息は詰まり、でも腕の力は抜けて流されそうになるんだけど、

ここ、飲み屋だし!個室とはいえ!!まさかと思うけどっ!!!


口内に戻ってきた彼の甘い舌を、やっとの思いで引き離して、キスでクラクラ、多分弱冠潤んでいる目で彼の事を睨みつけた。

でも、精一杯睨んでいるつもりでも、かなり参っている自覚はあるから、媚びてるような目つきだったらどうしよう?自信ないっ。


彼はそんな私を、やっぱり熱っぽい瞳で見つめてきた。モデルやアイドル顔負けの綺麗な瞳と長い睫毛で、そんな惑わす様な眼で見られたら、誰でも落ちますって、私が男でも。

目が反らせないじゃないですか。


すると彼は私の肩に両手を置いた。そして急に顔を落とし、はあー・・・と長い溜息をついた。


しばらくして、一言。


「拒否権、無し。」


なっちょっなんですかっそれっ。


「だめっ。発動しますっ。」

「無理。無効。俺、これ以上我慢できない。もう二度と、絶対に手放したくない。」


私の肩を掴む手に、力が入る。


「無理だから。諦めて。ここにいて。」

「ここはダメっ。」

「よし。」


彼は立ち上がった。二人のダウンとか鞄とかを掴み始める。

「出るよ。」

「え?お会計は?」

「そんなもん、とっくに済ませちまってるよ。」


そういって個室の出口に立った。私を振り返って、真顔。

「行くよ。」

「どこに?」

「・・・・。」


私を見つめて、無言。色っぽい目。だからヤバいんですって。

彼は、立ち上がった私にゆっくり近づいてくる。そして、私を囲むように両手を壁についた。

からかう様な眼差しの奥に、惑わす光がある。皮肉っぽく一方の口角が上がった。

艶っぽくって危険な瞳が、私を捕らえて離さない。動けないでいると、ふいに彼が唇を私の耳元に寄せてきた。

低い声で、溶かす様に囁く。


「男と女がするところ。決まってんだろ?お決まりのセリフ。・・・今夜は帰さない。」


帰せない。そう呟くと、体ごと壁に押し付けられて、再び激しくて甘い口づけが降りてきた。

廊下の店員さんとか、多分お客さんまでに見られているのに、碧さんは一向にお構いなし。熱く、長く、私の全てを絡め取るよなキスをいつまでも続けてくる。

ああ、ダメだー・・・。私、やっぱり、流されるの卒業できてないー・・。

こんな恥ずかしいシチュエーション、耐えられないハズなのに、やめられない。

みんなが私達を見ている。碧さん目立ち過ぎ。その容姿風貌を自覚して?そんなに酔ってないのに、どうしたの?


ああこの人って、実はこんなに強引で、愛情表現のオープンな人だったんだ・・・。

しかもキス魔だし。

これは苦労するなぁ。







「ねえ、ちょっと。いつまでトリップしてるのよ?」

奈緒の不思議そうな顔と声。

え?トリップ、していましたか?ちょっと思い出していただけです。はい、ちょっと。


「ああ、ごめん。ボーっとしてただけ。」

「そう?・・・それにしても証拠のコインは、塚本さんのねつ造であったか。」

「ねつ造でなくて、ハッタリ。」

「おんなじでしょ?」

おんなじかな?そうかもな。そうかもね。・・・そうだよね。


「あの人も食えないのねぇ。一筋縄じゃいかないタイプなのね。祐介さんとつるんでいるだけの事はあるわよね。」

「その藤田さんを騙していたし。」

「彼が騙されていたのかどうかはわかんないけど。そこの所すら、二人の間では無言の了承なんでしょ?・・・油断ならない関係ねぇ。」

「もやっとするでしょ?」

「もやっと?」

思わず二人で笑ってしまう。


「でもそれで河島の自供を引き出せたんだから、大した人よね。目的を、半ば強引に達成した訳だ。私達、振り回されたわよね。特に綾香が。」


笑いながらも、しみじみと言う奈緒。優しい目をして、私を見ている。


そうですね。

人生どん底の大変な時期に出会って、散々振り回されて、

おかげで自分を見つめる事が出来て、前に歩きだす事が出来ました。


これが無ければ、今の私は何をしていたのだろう?

どういう人生を歩もうと、どんな選択をしていたのだろう?



「吉川くん、相当怒っていたんでしょ?結局塚本さんを殴らずじまい?やっぱりうやむや?」

奈緒がからかい半分、面白そうに聞いてきた。

私はココアのあったかいおかわりを、息を吹きかけて冷ましながら言った。


「それがね。いつの間にかちゃんと殴っていたの。」


「ええ?塚本さんを??」


奈緒がビックリして少し大きな声を出す。

この子の大声で前回、お店の中で散々目立って店員さんに怒られた私は(拓也は逃げた)慌てて口に人差し指を立て、奈緒を黙らせた。


「うん。結構なアザが出来てたもん。碧さんは全然怒っていなかったけど。」

「ええー!あのハンサムな顔にー?もったいないっ!」

もったいない?

「ううん、顔じゃなかったよ。さすがに顔はマズイと思ったんじゃない?」

その顔で会社に出勤なんて出来ないものね。


「あ。じゃどこ殴ってたの?」

「ここ。」


そう言って私は、みぞおちちょっと下辺りを指差した。


「こんなところに(あざ)ができるなんて、よっぽど力が強かったのかなぁ。頭に来てたんだねえ。痛そうだった。」

「・・・どのくらいの大きさ?」

「このくらい。それほどでもないけど。」

両手の指で輪っかを作って見せる。


奈緒は、何故だか目が据わった。

「・・・ほーお。ふーん。そーぉなんだー。」

「・・・何?」

「そぉんな所に、ねえ。あざが。見たんだ?」

「うん。み・・・。」

あ。


げ。


・・・うきゃ!



「・・・うまくまとまったようで?」

奈緒が白い目をした。目が据わった。半眼になった。


「あ、えと、その・・・。」

「楽しくやれているようで?」

「えっと・・・まあ。」

かなり、楽しいです。

「そう言う事は、どうして真っ先に報告しない?」


腕を組んでいる。睨んでる。私、怒られてる?


「だってー・・・別に誰にも言ってないし・・・特に言いふらす事でも・・・。」

「そりゃあ吉川くんが荒れるハズだわ。」


奈緒は急に拓也を持ち出して来て、さも納得、と言わんばかりに頷いた。


「・・・でも拓也だって、私と別れた後、色々な女の子達と付き合っていたよ?」


まるで言い訳みたいな台詞。ホント言い訳にしか聞こえない。


「色々、でしょ?綾香とは違うじゃない。」

「・・・向こうが一枚上、と?」

「バッカ。」


その優しい言い方に、奈緒も私の気持ちに気付いていると、わかる。私がキチンと、拓也に後ろめたい事を。


「・・・私、そんなにひどいかな?」

「うん、ひどい。」


彼女は真顔で言った。

「ひどいわね。」

「言い直さなくっても。」


容赦ない言い方に少し傷つく。でも親友が言う事はいつも正しいから、耳が痛くても反論できない。

私は少し拗ねながら、彼女の顔を横目で見た。


「奈緒はさあ、拓也の事が好きなの?」

「・・・あのね」

「いえ、あの、恋愛感情がない事は重々わかっております。先日、嫌という程教えて頂きました。」


あまりの睨みと迫力に、私は慌てて言葉を足した。

彼女はしょうがなく言いかけた台詞を飲み込み、さらに追加でジロッと私を睨みつける。

「学んだかね?」

「はい。・・・だけど、どうしてそんなに・・・拓也に構うのかなあ、というか、気にかけるのかなあ、と思って。」


すると奈緒は、パッチリとした意志の強い大きな黒目を少し細めて、柔らかいのか切ないのか懐かしむのか、何とも言えない表情をした。


「・・・前も言ったじゃない。似ているのよ、あの人。私と。」

「猫かぶっている所が?」

「口を慎む。・・・まあ、他にも。」


少し私に視線を投げた後、彼女は続けた。

奈緒が自分の気持ちを語る事は、実はあまり無い。いつも人の話ばかり。だからこれは珍しい。


「そんな人がさ、一途に片思いとかしちゃってると、まるで自分がそうなってるみたいで、ほっておけないの。助けたい訳じゃないんだけど、口を出したくなるの。」


それって・・・。

奈緒も、一途な片思いをしていた・・・いるって事?

私はやっぱり、少しショックだった。だって知らない。自分の事に手一杯で、彼女の事を気付かなかった。親友失格だわ。


「奈緒・・・好きな人、いるの?」

「いるよ。」


彼女はなんとあっさり認め、息を飲んだ私にあっさりと言った。

「言ったじゃん、あんたを嫁に貰いたいって。」

「・・・・。」


なんだ、レズオチか。そうきたか。人が真剣に心を痛めかかっていたのに(痛んでなかったけど)。


「じゃ、私、そろそろ。」

「うん、またね。」


寒い空気で席を立った。だってそろそろ約束の時間。

お昼から4時間、今日も話が尽きる事はなかったね。


「ねえ、あの事、あの人達には話したの?」


私がコートとマフラーを着ていると、奈緒が聞いてきた。

彼女は自分がコートを着る手を止めてまで、こっちを見ている。

私は、すこし苦笑した。


「ううん、まだ。」

「そっか。」


そして彼女は、柔らかに優しく微笑んだ。

「上手くいくと、いいね。」


いつもはキツイ印象の日本人形が、可愛い顔で綺麗に微笑む。本当は照れ屋で意地っ張りの奈緒の、優しい素顔。

気付いている?奈緒。裏の裏は表。あなた、表の顔も時々、みんなに見せれているんだよ?

自分で思ってるほど、猫っかぶりじゃないんだから。


「うん。ありがとう。」


私もにっこり微笑んだ。



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