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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
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理想的感情?

「目の前で、大切な人間が二人もあいつに奪われたんだ。俺、今度会ったら、確実に正気じゃいられない。」


表情は冷たく、声は穏やかに。彼は落ち着いて言った。

大切な人間、という言葉に今度はドキン、とした。



「つーか、ぶちこめよ、塀の中に。あんな変態野郎、野放しにすんなよ。」


拓也が、不満爆発、と言った表情で藤田さんを睨み上げた。

魔王藤田さんに拓也がこんな言葉使いをするなんて、相当キテいるんだろうと思う。

藤田さんは、一呼吸置いてから、あの無表情な瞳で言った。


「悪かった。」

「あんたが謝る話じゃないだろ。」

すかさず碧さんがそれを遮る。

どういう意味だろ?藤田さんは謝る必要はない、悪くない、って事?

それとも、今更藤田さんに謝られたって、どうしようもない、口も開くな、って事?



・・・この人は、いつから気付いていたんだろう?お兄さんの事。

私を海で助けてから、それなりに私達を監視していた、みたいな事を河島が言っていたけど、

一体、藤田さんは何を、何処まで気づいていたんだろう?


お兄さんが、人を殺していた、と分かった今は?

この無表情の下には、どんな心が隠れているんだろう?



「あの人、どこ行ったんですか?」

私は、目の前に立つ男性3人を見回した。


「知らない。俺が来た時はもう・・・。みどりちゃん?」

拓也の碧さんを呼ぶ名前が、以前に戻っている。

碧さんはすこし眉根を寄せながら、視線を空中に漂わせていた。


「あいつ、俺と眼を合わせた。」


それから、私を見下ろした。


「その後、彼女を突き飛ばしたんだ。」


え?意味が分からない。

私は碧さんを見た後、拓也と藤田さんを交互に見た。拓也が口を開いた。


「お前が突き飛ばされた時・・・車、いなかったけどね。」

「え?」

「ほら、見てみろよ。反対車線は下りだから結構車が走ってるけど、こっち車線は・・・な。」


拓也が車道を指さす。

そこには、確かに拓也の言うとおり、手前車線の車通りは殆んど無かった。

・・・だから、何なの?


まじ、と拓也の眼を見る。この表情、何かを言いたそう。

碧さんを見る。藤田さんを見る。車道を、見る。


碧さんが来たのを確認してから、車の通らない車道に私を突き飛ばした・・・?



え?つまり殺す気が無かったって事?



・・・うっそだぁー。



「健一は・・・多分・・・。」


藤田さんが呟くように言った。


「戻ってこないだろうな。」

「・・・逃げたって事?」

私は彼を見上げて聞く。

彼もさっきの碧さんの様に、空中に視線を留めて、何かを思っている様だった。


「ああ。今頃・・・。」

「心当たり、あるのか?」


碧さんの問い掛けに、

「ん。」


と言って、彼は空を指差した。



「・・・飛行機・・・?」


夜空を見上げて、私が呟く。

海外逃亡?今から??



視線を戻すと、何故だか拓也と碧さんが、息を飲んで驚愕したかのように藤田さんを見ていた。


海外逃亡が早技すぎで?


星空。空。・・・・


え?まさか?


夜空と彼らを交互に見ちゃう。首が痛くなってきた。


藤田さんがお空を指さしていて、

それを拓也と碧さんが蒼白の顔で見ていて、


それってまさか、あの、・・・天国?



「あいつは昔から、すべてを投げ出している奴だった。俺から見て、自分の意思、と言うものがまったく感じられなかった。それが最近、特に顕著だったから。」


藤田さんは淡々と、まるで教科書の説明をしているかのような口調で話し始めた。


「君に見つけて貰った今、もう、生きている理由が無くなっているだろう、きっと。」


ほらやっぱり天国だっ!!


「・・・な・・・何、それ・・・。」

「先輩、それ、最初っから知っていて・・・。」

「・・・・。」


私の絶句と碧さんの驚きを、藤田さんは無言で返す。


「なんで私があの人を見つけると、生きてる理由が無くなるんですかっ。」

「知らないよ。生きがいの様に見えていたから、そう思っただけだ。」


私は、相変わらず無表情で、兄と同じように何も映していない様な彼の瞳をみて、段々腹が立ってきた。



この人、さっきから、ううん、最初っから、どうしてこんなに落ち着いているの?

自分のお兄さんが起こした騒動なのに、どうして落ち着いていられるの?

いくら以前から、河島に対して多少思う所があったとしても、この無機質な表情って何なの?

少しは焦りとか、痛みとか、あったっていいんじゃない?

あの変態俳優もそうとうネジが飛んでいたけど、

この人だって、ある意味彼よりヤバいんじゃないの?



「・・・藤田さん。それでいいんですか?」


私はどうしても言わずにはいられなかった。

彼にはあまりにも、酷かもしれない言葉。でもこの能面男には、これぐらいハッキリ言わないと通じないって、私は学んだから。


「自分のお兄さんが人を殺して、自殺するかもしれなくって、それでもいいんですか?」



藤田さんは、私を見下ろすと、やっぱり無表情に言った。


「俺とあいつは別の人間だ。兄弟でも人生は関係ない。今更15年前に人を刺した、と聞かされて、俺にどうしろって言うんだ。」



・・・こーのーやぁーろぉー・・・っ!!



「そんな事、自分たちで考えなさいよっ!!」


あ、抜けてた腰が、立った。



「家族でしょっ!!兄弟でしょっ!!いくら関係無いっていっても、相手が死にそうな時くらい慌てなさいよっ助けなさいっ!」

「理想を他人に押し付けるな。」

「理想じゃないわよ、常識よっ!そうしないと、世界は滅びるのよっ!!」

「・・・でた。」


拓也の呟き。うるさいわよっ。

当り前でしょ、家族が助け合わなくて、どうやって人類助け合うのよっ!


「世界まで、俺の肩に乗せるな。」

「あなたの肩に今乗っかってるのは、あの変態お兄さんよっ!!」

「お前、それ、助けたいの?追い詰めてんの?」

「家族否定したら、自分も否定することになっちゃうのよっ。自分の人生辛くなるのっ。おんなじ遺伝子でしょっ!」

「半分だけだ。」

「先輩も・・・。」


拓也と碧さんのなだめ(?)も効かずに、私はなんだか、河島(たける)の前ではちっちゃくなった種火の炭火が、藤田さんの前でまた燃え上がってしまったみたい。

今日はこの人に向かって怒鳴ってばかりだわ、と思いつつも、体が怒りと悲しみで熱くなるのを抑えられなかった。



「否定と克服は違うのよっ!犯罪犯しても、変態でも、克服しなさいよっ。相手の顔を見なさいっ!」


無機質で無表情な彼の顔に、切れ長で涼しげな瞳に、思いっきり感情をぶつける。



「あなたに兄貴の犯罪を償えなんて思っていなければ、負い目に感じろとも考えていないわよっ!

 だけどね、最初っから全部解ってて、だから無駄な行動は取らなくって、だからいつも合理的でって、人間そんな風にお互い絡んじゃいないのよっ!!

 だから、だからそんな、いつも諦めてる死んだ眼になるんじゃないっ!!」



あああ、やっぱり今回も、何を言いたいのか分からなくなってきた。

興奮しすぎて、もはや支離滅裂だわっ。



「そんなの頭良くもなんともないのよっただのバカよっ!!頭ばっかで考えてないで、たまには心を使ってみなさいよっ!自分の気持ちも分かんないのっ?」



関係ない、だなんて。

憎んでる、の方がマシじゃない。



鉄火面が、少し剥がれた。

彼はわずかに眼を見開いて私を見つめ、しばらくして溜息をついた。


「どうしたいんだ、君は。」

「私はね、私のせいで自殺されるなんて、まっぴらごめんよっ!!何が何でも止めてやるっ。どこにいんのよ、あの人っ!!」


答えなさいよ、考えなさいっ、さあ、教えろっ!


私の剣幕に拓也と碧さんがたじろいだ。

そして碧さんが、少し困ったように言った。


「つってもなあ。どこを探せばいいんだか。」

「あっちの方に行ったよ?」

「そりゃ俺も見たけど、あっちのどこだよ?見当つかねえだろ。手分けするか?」

「危なくない?」

「だよな。」

碧さんと拓也で、額を突き合わせて考え込み始める。


「首つりっ?飛び下りっ?飛び込みっ?入水っ?毒薬っ?それとも、それとも・・。」

「いいから黙れ。わかったから。落ち着け。」

拓也に頭を小突かれた。その勢いで再び座り込んむ。

歩道にいた見物人は、徐々にその波が引いていく。

興奮冷めやらぬ私は、頭の片隅でしっかり考えていた。


ああ、殴った次はバカ呼ばわりしてしまった。

もうダメ、報復が恐ろしすぎる。事が終わったら、すぐにでも逃げよう。



藤田さんが再び、軽く溜息をついた。


「そんなに遠くには行っていないだろう。この辺りはタクシーも走っていない。きっと、あいつが目を付けていた場所があるんだ。」

「目を付けていた場所?」

「この日の為にね。衝動的な性格も持ち合わせているが、計算高い奴だからな。」


自分の死に場所を考えていた人を計算高い、とは言葉が過ぎない?


と彼を睨みかかって、ふと、引っかかるものを感じた。


あれ?胸の中がなんかもやもやする。なんだっけ?



あっ!



「あそこっ!あの建物かもしんないっ!」


私が叫んで、みんなが驚いた。

碧さんが聞く。


「どこ?」

「来る途中、連れて来られる時に、あの人言ってたの。この建物から見る星が綺麗なんだ、って。」

「ほし~?」


拓也が訝しげに片眉を上げた。

「どこまでも気味が悪い奴だな。」

「あいつらしいな。」


藤田さんが顎に手をやり、考え込むように言った。

碧さんが、彼を少し覗きこむようにして、短く言った。

「どうする?」


藤田さんが顔を上げた。


「ここで考えていてもしょうがない。行ってみるか、そこに。」


そして彼が、多分初めて、私を真っ直ぐに見た。

以前も彼と目があった事はあったけど、今の藤田さんは、私の瞳をしっかりと捕らえていた。



「日下部さん。案内してくれるかい?」



はい。あなたへの仕打ち、全部忘れてくれるなら。

これ、バーターにしてはダメですか?




あと少しです。読んで下さっている方、大感謝です!頑張ります。


番外編をUPしました。拓也君が高校一年生の時のお話「SMスイッチ」です。

作者のマイページから飛ぶか、下記アドレスをコピーして開けます。


http://ncode.syosetu.com/n0493q/


一話完結短編です。こちらも、是非。


このお話達が、皆様のお暇つぶしに役立っていますように・・・。


戸理 葵


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