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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
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街2

「・・え、いや、ちょっと・・・ブラブラと歩いていて・・・。」


何を言ってるんだ、あたしは。

何を動揺しているんだ、あたしは。

釈明しなくてはいけない事なんて何もないハズなのに、この後ろめたさは、何?!

大体、別れて半年も経っていて、昨日の同窓会でだってロクに口もきいてないのにっ。


「ブラブラって・・・デート?」

拓也はその丸い目で塚本さんをもう一度見た後、

その人懐っこそうな顔とは裏腹な冷めた表情でボソッと言った。


「には、見えねーな。」

「なっ・・・なんで?!」


思わずムキなる。

あたしが、こんなイケメンと歩いているのが悔しいってか!?


「色気がないもん。」

「・・・は?」



喧嘩売ってんの?パート2。




「こんにちは。塚本さん、ですよね。東都大でバスケ部だった。」

拓也は私を無視して、塚本さんにいつもの爽やかスマイルで挨拶をした。


そう、この子は他人にはすごく、人当たりがいい。男でも、女でも。

でも、中々壁の向こう側には入れてくれなくて、目がね、笑ってないの。時々。


「え?ああ。俺の事、知ってる?」

一方の塚本さんは、私達二人を観察してたのにいきなり話を振られて、ビックリしたようだった。


「はい。僕もバスケ部なんで。藤崎大です。って言っても、マネージャーですけど。」

「・・ああ、あの時の。」

更に驚いたように、彼の目が見開かれた。



ええーっ!??ちょっと待って?この二人、知り合い!???



「あの時は、ありがとう。世話になりました。助かりました。・・・って、もう3年くらい前の話か?」

「はい。俺が1年の時だったんで、それくらいです。」

「そっかー。・・・えっと、確か、古川くん?」

「吉川です。」


拓也がかぶせ気味に答えた。楽しそうにあはは、と笑う。


「ビミョーに惜しいですっ。でも覚えてくれていて嬉しいです。」

「いや、だってマジで助かったし、あの時。」

「・・・何の話?っていうか、何の知り合いの?バスケ繋がり!???」


私は思わず話に割って入ってしまった。


だって、だって、あり得なくない??

元カレと、今日知り合ったイケメンが知り合いだったなんて、世間狭すぎない?


・・・狭すぎて、息が詰まるわ。



「・・・俺が1年の時、バスケのインカレ試合で知り合った人。」

拓也があたしの方を横目で見て、ボソッと答えた。

「そうなんだ。俺、ちょっとヘマやっちゃって、まあ話せば長いっていうかややこしいんだけど。その時、古川君が「吉川です」、そう、吉川君が応急処置してくれたんだよ。」


塚本さんが屈託の無い笑顔で、キラキラといった。


「・・・なんで大学違うのに、拓也が応急処置・・・?」

「だから、話せば長いっていったでしょ。」


拓也は少し口を尖らせるような表情で俯きながら、肩をすくめて言う。


・・・つまり、説明するのが面倒くさいから聞くな、と、そう言う事ね。ムッカ。

じゃあ、目の前で話さないでよっ。


「塚本さん、昨日こっちに来ていましたよね。俺、同窓会だったんです。見ましたよ、塚本さんが俺らのクラスの女子に話しかけている所。」


オイ、あたしの事は無視かい。


「え?あ、じゃあ古川「吉川です」吉川君は、綾香(あやか)ちゃんと同級生なんだ?」

「・・・はい。高3のクラスが一緒だったんで。・・・っていうか塚本さん、どうしてこいつの事、知っているんですか?」


少し不服そうに拓也が、私にではなく塚本さんに聞く。

ここにきて、やっと私も話にはいれるのですか。ふふん。

あんたの思い通りにいくもんですか。


「話せば長いんです。」


私も少し口を尖らせて、拓也からそっぽを向いて答えてやった。

隣で拓也が少しムッとしているのが伝わる。


塚本さんは、左手で右腕を抱き、その右腕で少し口元を押さえるようなお決まりのスタイルを作って、

私達をしばらく観察すると、おもむろに言った。


「君達・・・付き合ってるの?」


え?飛んでもない、もう、終わってますっ。

っていうか、終わった、つまり以前何かあった、という事ですら、塚本さんに言うのが躊躇われるのは何故かしらね?


「えっ、それはっ・・。」

「んなわけ、ねーな。」


私が慌てて弁解をしようとした時、目の前の塚本さんがニヤッと怪しく笑って、長身を少し屈めるように私達を眺めた。


そして今までの屈託のない表情が一転、なにかを企んでいるような悪戯っぽい、

それでいてやけに艶っぽい瞳を、長い前髪の下から覗かせるようにして言った。


「色気が、ない。」


・・・は?




一瞬頭が真っ白になり、それから一気に恥ずかしさが込み上げてきた。


か、か、からかったわねえ、あたしをっ。

しかも、拓也の台詞の真似をしてっ。

半端ないイケメンが下手に色っぽい表情をするんじゃないわよっ!

えー、えー、私は、貴方様よりもうーんと色気がありませんよっ。年不相応かもしれませんよっ。

それに、男が二人、寄ってたかって何よっ。

色気ない、色気ないって、年頃の娘をつかまえてあんまりじゃない?

あたしはねっ、今、人生色々迷ってんの!悩んでいるよっ。

そんな年がら年中発情している女とは違うのよっ。




と、頭の中で息まいて、さあ、どうやって反論してやろうかとふと隣に目をやり、私はポカンとした。


なんと驚いた事に拓也が、少し悔しそうな表情で、少し顔を赤らめて、

気のせいか、塚本さんを睨んでいるのだ。


何?どうしたの?どういう展開?



当の塚本さんは、というと、

飄々とした感じであさっての方向を見上げて、なんだかニヤニヤ綺麗に笑っている。

いやー、かわいいねえ、とかなんとか言いながら。


何の事だろ?



なんだか少し勢いが削がれた気がして、私が二人を眺めていると、今度は拓也が私の方をチラッと見て、

それからギョッとしたように言った。


「わっ!おまっ!!何やってんだよっ!!」



あ、初めて私の方をまともに見た。


と思った瞬間に、喉の奥に、感じ馴れたあの感覚。

・・・ゲッ。これって・・・・。


私が気付くより早く、拓也がティンバーランドの黒いカバンのポケットの中を、慌てて引っかきまわし始めた。

そしてポケットティッシュ(もちろんどっかの広告入り)を素早く取りだして、私の鼻を摘む。


「・・・痛いー・・・。」

「ったく、なんだよ。道端で簡単にのぼせんなよ。」

「・・・いやー、綾香ちゃんって、本当に血の気が多いんだねー・・。」


塚本さんが苦笑いをしながら私の背中を押して(私は拓也に鼻をつままれた状態で)本屋手前のビルの入り口まで連れて行ってくれた。


「ごめんね。暑いって言っていたのにね。炎天下の中ずっと立たせちゃって。大丈夫?」


うっとりと、とろける様な笑顔。・・・大した心配していなさそうね。


「・・・何、お前、この人の前でもう前科一犯なわけ?」


拓也が呆れた様に聞いてきた。何よその、前科一犯ってっ!


奈緒(なお)が夕べ、クーラーつけっぱなしで寝たから・・・」

鼻を摘まれっぱなしで喋りづらく、私は自分の鼻から拓也の手を放した。


「あいつと寝たの?」

「うん?(なんだ、その言い方?)ありがと、ティッシュも。大丈夫だから。」

「知ってるよ、そんなこと。丸ごとやるから持っとけ。」


はあ。スミマセン。

今日は自分でもよく鼻血が出る日だわ・・・。


「だめだよ、途中でやめたら。ほら、また垂れてる。」


ああ、今度は塚本さんに摘まれた。もう、嫌っ。


「こういうのはね、大人しく最低3分。諦めてギュッと摘むの。止血だよ。」

「わかってますぅぅ・・・。」

「ごめんね。俺、からかいすぎた?」

「・・・手、放して下さい・・・。」

「やだよ。だって綾ちゃん、すぐやめちゃうじゃんか。」


ああ、面白そうに笑われている。おもちゃだ、私。綾ちゃんだ、既に。

ホンっと馴れ馴れしいなあ、もう疲れてきた。



塚本さんに鼻を摘まれた私を、拓也は少し離れた所から見ていた。

チラッと横目で伺うと、彼はなんとなく黙っている。

そこへ何とも明るい、ともすると能天気そうな塚本さんの声が降ってきた。


「綾ちゃんってさー。蕎麦、嫌いなのかなあ、古川く「吉川です」


拓也の声がかぶる。


「・・・弱冠、悪意を感じるのは俺、性格悪いからですか?」


わ、珍しい。拓也が噛みついている。

あのかったるい拓也が誰かに噛みつくなんて、滅多にない事だわ珍しい。


「悪意だなんてとんでもない。恩人に向かって。」


拓也に噛みつかれても声色一つ変えずに楽しそうに喋り続ける塚本さんも・・・

・・・うわー、やっぱこの人、食えないわ。

・・・腹黒系?。


「むしろ好きだけど?」


私の鼻を摘みながら拓也に向かってチョッピリ挑戦的な笑顔。

正直、かなり色っぽいです、先輩。


拓也もさすがに少し顔が赤くなり、視線を反らしつつ、それでも反抗的に言った。


「何すか、蕎麦って?」

「ああ、綾ちゃんがね、そこの蕎麦屋に入ろうって誘ったら、なんだか急に怒りだしたから。」


彼はそう言いながら、このビルの3階の蕎麦屋の看板を空いた腕で、後ろ手で指す。

拓也はそれを見上げて、ビックリした顔になり、

それから私を見て、本当に呆れた顔をした。


なによう。



「・・・こいつ、蕎麦屋って安いとこしか知らないんです。」

「そっか。」


今度は何の話?


「お前、また、なんかこう、一人で色々盛り上がっちゃったんじゃないの?こんなの違う、とか。」

 

うん?それはお蕎麦のお話ですか?


そう言われれば、そんな気がします。社会人はもっと、奮発したところで奢ってくれるべきですよね?

だって、年下の女の子を連れてるエリート商社マンなんですから。

いえ、私が贅沢をしたいってワケではなくて、相手の誠意を見たい訳なんですよ。

分相応の誠意ってもんがあるでしょう?



拓也があきれ果てた、冷たーい視線を私によこして言った。


「あそこ、高級蕎麦屋の分店よ?一人軽く、昼飯でも5千円は超えるよ?」


・・・げ?なんですって??



「でも、酒が入らなければそんなにいかないだろう?」

「いきますよ、きっと。小さな盛りで2千円弱、海苔乗っけたザルで2千円超えますから。三口で食い終わります。」

「知ってるよ。少ないよな。」



そんな高級蕎麦屋がこの世にあるの?しかもこんな田舎に?

呆然としちゃって、拓也を見上げる。


「・・・なんで拓也が、そんな高級(とこ)知ってんのよ・・・。」

「高校の時、親父に連れて行かれた事がある。つーか、そこ、常識。」



・・・つまり、私は常識無しです、と・・・。


高級蕎麦屋知ってる事が、常識ですか??

私に無いのは、常識じゃなくって、経験よっ。


って口に出すのはやめておこう・・・。



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