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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第三章 反撃
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物憂げな妄想

お正月っていうのは、ウキウキとその到来を待った割には、すごくつまらない。

除夜の鐘も初日の出も、寒いし眠いし混んでるし、で、ここ数年行った事が無い。

大晦日に衛星で、某アイドル集団のカウントダウンを見ながら、こたつに入ってボーっと考えた。


奈緒ってすごい。

「いい男は観賞用」とか言ってアイドルの追っかけをやっていたのに、いつの間にやら、

人気俳優にスカウトされて、デートまでしちゃうんだから。すっごいなあ。

そう考えると、彼のお誘いをお断りするハズないわよね。初詣デートっていつ行くんだろう?やっぱ変装とかってするのかな?でもあの子、今、地元に帰っているわよね?じゃあ、元旦じゃあないのか。


なんてまったく、大きなお世話。



たまに実家に帰ってもすることないし、テレビも見飽きたし親も既に寝ているし、私ももう寝よう。

時計の針が深夜一時をまわって、考える。




両親のいない碧さんは、今頃何処で、何をやっているんだろう?

小学生の高学年?で親を失って、毎年お正月はどうしているんだろう?そもそも兄弟はいるんだろうか?


いるといいな、と考える。

神様、少しでもあの人の寂しさを、減らしてあげて下さい。




するとこたつの上の携帯がなった。ミッキーさんのボイス着メロ、メールのお知らせ。

みると拓也からだった。


・・・あけおめメール?・・・なんだかなあ・・・。

・・・マメ、というか、諦めが悪い、というか・・・

・・・ああ、一途って言うんだ、こういうの。奈緒が言ってたわ。



ところが、開けてみるとメールには一言。


二日。朝10時半。御茶ノ水駅聖橋口。


なんだ、コレ。




しばらく眺めた後、ポンっとこたつ布団の上に携帯を放り投げる。

ついでに自分もゴロン、と仰向けに寝転がる。


あけおめメール。欲しいかも知れない。ううん、本当はメールでなくて、話がしたい。


隣の携帯を睨みつける。あの中には、一度も使っていない番号とメアドが入っている。メアドは何故かPCの方だったけど。なんでかな?


待ってるんじゃなくて、使ってみようかな、あの番号。

でも、拒否られたらどうしよう。ていうか既に拒否られているけど、私。



あれ、何だっけ?傷つけたくないから、だっけ?

あれって、私が「傷つきません」って言ってもダメなのかな?

「触れずにいられない」って、「じゃあ触って下さい」って言えば、ああそれはエロか、私が。


一体あの人の何が私を傷つけるんだろう?嘘をついていた事?それなら充分傷ついたけど、更なるネタがあるのかしら?それはそれでゾクゾクするぞ。

実は俺は殺し屋だ、とかさ、スパイだ、とかさ、スパイ繋がりでスパイダーマンだったんだ、とかね。

だから君とはいられないんだ、愛していても、ってやつ?わはは。

で、大概、女の子は「そんな貴方でも構わない」って言って付いて行くんだけど、私やっぱり、



「蜘蛛は嫌いだな・・・。」


「・・・え?何?」


隣でうつ伏せに寝っ転びながら雑誌を見ていた弟秀真(しゅうま)が口を開いた。


「さっきから携帯睨んで、スゲー不気味なんだけど。」


雑誌を読みながらよく観察していたわね。

殆んど喋っていなかったけど私の性格をイヤと言う程良く知っていて、だから私が思考の途中で(この子はそれを妄想、という)口を開いても、あんまり驚かない。


ジロッと生意気にも片眉を上げて私を見ると、さして興味もなさそうに雑誌の続きを読みだす。男の情報誌?彼女でも連れていくんかい、受験生のくせに。



仰向けで天井の蛍光灯を眺めて、ああ、これって白くてお月さま見たい、そう言えばかぐや姫も「地球人ではありませんので、貴方とはいられません」って言って月に帰っていったよな、とか。


「・・・宇宙人かもしれない・・・。」

「・・・・・。」


秀真無言の圧力。当り前に、それを無視。

だってミカドは、それでもいいっていったのに、かぐや姫は勝手に一人で帰っちゃって、

それはつまり、私が「傷ついたっていい」って言っても勝手に


「・・・月に行っちゃうのかな・・・?」


「・・・俺にどうして欲しいの?」



秀真が困ったように眉毛を下げて私を見た。

雑誌を読むのを諦めたらしく、その上に腕を組んでうつ伏せになり、顔を私の方に向ける。


「月に行きそうな宇宙人がいて、姉ちゃんは蜘蛛が嫌いなのに我慢をしなくちゃいけないの?」


「・・・だってこっちは、それでもいい、って思ってんのに、向こうがそれじゃダメだ、って言ってんだよ?」


私もクルッとひっくり返ってうつ伏せになり、秀真と同じ体勢で話をする。

秀真ははあ?という顔をした。困っている。当り前か。


「そんで姉ちゃんは何て言ったの?」


「・・・それじゃいいわよ。欲しいモノあげるから、とっとと行きなさいよ、・・・みたいな事を言った。」

あれって、そういうコトだよね。


「出たー。真っ直ぐなプライドー。しかも伸びてる方向が人と微妙に違うー。」


秀真がいかにも呆れました、みたいな顔をして、私をからかう。生意気なコね。エラくなったじゃない?


私はジロッと秀真を見返したいけど、そんな元気もあんまりなくて、

うつ伏せの体制そのまま、眼を閉じた。


あーあ、やっぱ秀真の言う通り、あそこで短気を起こさなきゃ良かったかなあ。

あの手この手を使って、碧さんが離れていくのを止めれば良かったかなあ。

でも、あの手この手、って何?


「ホントは姉ちゃん、どうしたいの?」

「・・・・。」


そりゃあ、あなた、もう一度会いたいんですよ。

もう一度とは言わず、もう二度三度、出来ればずっと、会いたいんですよ。

彼が過去に何をしちゃったのかなんて、今の狂った私の頭には、なんのブレーキにもならないんですよ。

自分勝手で独りよがりで、私を騙した人なのに、

時間が経つとそんな事より、彼の笑顔しか思い浮かばないんですよ。



「・・・珍しいねー。姉ちゃんがそんなに誰かの事で思い悩むなんて。」


秀真の感心したような声が聞こえてくる。


「その人、好きな人?だよね。月に行かれたら困るんだから。」


・・・そだね。困るね。

でもそしたら、今はロケットがあるから追いかけられるよね?って電話もかけれない人間が何を言ってるか。


「いいじゃん、追いかけちゃえば。月でも、どこでも。」


秀真には私の妄想が聞こえるらしい。流石だね。弟はいいものだ。彼女と上手く行く事を祈っているよ、でも二浪はしないでね。


私が目を開けると、秀真はよっこらせ、と起き上がった。

私と似ているけど、明らかに作りが男っぽい顔で、ニコッと笑う。


「そんなに好きなら、相手の迷惑省みず、突っ走れば?売った喧嘩なんて、いつでも撤回出来るんじゃない?しかも何回でも。」

「・・・少年はいいなあ。素直に単純で。」

「・・・大人ぶってると、損するよ。」


恋愛マスターは不満げな表情で立ち上がると、急に思い出したように私に言った。


「そう言えば吉川さん、元気?」

「・・・このタイミングで、それを聞くか。」

「俺、あの人結構好きだったけどなあ。」


じゃ、おやすみ、と言って部屋を出てってしまった。




私はしばらく携帯を眺めて、眺めて、眺めて、

考えて、考えて、考えて、


結局、未送信BOXが一通、増えただけだった。




とりあえず、あさって、てもう年が明けたから明日か。

御茶ノ水駅聖橋口って何線よ?


何か情報を掴んだのかもしれない。私もこたつから出た。


色々と頼みこんでいる身としては、肩身が狭く心苦しいので、とやかく言わずに行きましょう。







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