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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
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街1

かつての馴染みの街で電車を降りた。

私の母校は隣の駅だ。

駅を降りて、バスで高校まで通っていた。

ちなみに男子はほとんどが、駅から自転車に乗り換えて高校まで来ていた。

途中の急な上り坂を、青春真っただ中の彼らは、その体力に任せて毎日登っていた。

そんな彼らは学校帰りに、よくこの隣駅の繁華街に押し寄せていたんだと思う。

私はバスだったせいもあって、利便性も悪く、なんとなく遠のいていた場所だけど。


それでもやっぱ、懐かしいな。

あの頃は、友達とデパ地下でスイーツを食べる事すら、刺激的だった。


「思い出す?」


私の少し前を歩く塚本さんが振り返り、綺麗な瞳を細めてクスッと笑った。


「・・え?」

「なんかすっごい楽しそうな顔してるから。」


私の隣に立ち、ポケットに両手をつっこみその長身を屈めるように横から私の顔を覗き込み、

塚本さんの方がなんだか嬉しそうに笑っている。


そのかっこよさに、またまたドキンとしてしまう。

ヤダなー、ツボを心得ている人って。自分の見せ方熟知しているよ、この人。


「・・・暑い、です。」


文句を言う事で軽い抵抗を見せたい気分になって、私はそっぽを向いて答えた。


だってさ、この強引な展開。

これ、どう考えてもデートでしょ。

見ず知らずのイケメンと地元デート。なんか、おかしいでしょ、全体的に。

なんでこんな事になるの?

この後あたし達、どこに行って何をする訳?

本来の目的はどこにいった?


そりゃあ、文句の一つも言ってやりたくなりますよ。

私、流されっぱなしは、色んな意味で卒業したいんです。


「そうだよなー。確かに暑いわ。どっか入るか。まずは昼飯でも。奢るから。」

「当然です。でも、お腹空いていません。」

「え?そうなの?だって、お昼過ぎてるよ?」

「・・・朝、遅かったんで。」

「ああ、夕べ、遊びすぎたって訳ね。」


じゃあ、軽く食える所ー、なんて言って彼はあたりをキョロキョロ見渡した。


「あ、これ、ここいいんじゃない?」


彼が指さした先は、ビルの3階にあるお蕎麦屋さん。

・・・・ってか、お蕎麦屋さん?!


「・・・お蕎麦、ですか・・・?」

「うん。だって腹減ってないなら、蕎麦なら軽くいけるっしょ?」


心なしか砕けた口調になっている塚本さんはさておき、お蕎麦って・・・どうよ?

うら若き22歳の乙女(でもないか。それなりにやっちゃったし。)をつかまえて、

初めてのデートで連れてく先がお蕎麦屋さんって・・・。


そこまで考えて、ああ、と気付く。

そうか、これって別にデートじゃないんだ。少なくとも彼にとっては。

いや、私にとってもどうでもいいけどね。



・・・でも、でも、でもやっぱり!

いくらデートでなくっても、社会人が学生の女の子にお昼奢る時に、

見るからに色気も無ければ値段も安いお蕎麦屋さんに誘うって、やっぱりどうよ?!


あなたっ!やっぱり自分の顔の良さにあぐらをかいた人生送ってきてるわねっ。

何ていうか、全体的に、努力が足りないっ!



「あ、なんか一人で怒ってる。」


塚本さんが、キョトンとした表情で私を見下ろした。


「・・・なんか俺、悪い事言った?」

「・・・別にっ。いいですけどっ。」


ここで思った事を言うと、彼氏に駄々をこねている女の子の様だわ。恥ずかしいし、みっともない。狙ってる感アリアリだし。

この人は、私に関係ない人、関係ない人。今日限りの人。中学校まで案内したら、それっきりの人。

無視、無視、無視・・・。


「だって、マックとかはあんまりでしょ?イタリアンとかって昨日食べたんだし、和食屋って言う程がっつり白飯食いたい訳じゃないんでしょ?ラーメンってのもなんだし、そしたら、近場で目に付いたのって・・・。」


顎に手をやって、親指で頬を撫でながら少し困ったように塚本さんは言う。


・・・わがまま過ぎたかも・・・。


「どっか、行きたいとこ、ある?どこでもいいよ、マジで。」

「いえ、別にそういう訳じゃないんです。すみません・・・・って、あれ?」


私は何かが引っかかった。

あれ?あれ?

確かに、私の事を考えてくれているのは嬉しいわよ。

でも、・・・・あ。


「え?」

「塚本さん、何であたしが昨日イタリアンにいた事、知っているんですか?」


だって彼と出会ったのは、確か二次会が終わった後。居酒屋を出た所だった。

それに私は、一次会がイタリアンだった事を、彼には言っていない。


「・・・え?あれ?違った?」

珍しく彼が、少し焦ったように私を見た。

「違ってませんよ?だから聞いているんです。」

「・・・うわー。綾香(あやか)ちゃんってやっぱり直球勝負だなー。

 ほら、同窓会って言ったら、イタリアンが必ずどっかで入るでしょ?」


ちょっぴりタレ目の、モデル顔負けのハンサムな顔でニッコリ笑われたんだけど、なーんかひっかかるのよねえ、その笑顔。


「・・・ウソっぽい。」

「そんな事ないって。」

「だって、タダでさえ一般人に見えないその綺麗な顔が、余計に胡散臭そうに見えます。」

「・・・うっわ、きっつー。それ、褒められてるの?」

「けなしています。」



塚本さんの笑顔が更に引きつった時、

私達の目の前のビル(つまりお蕎麦屋さんのあるビル)から人が出てきた。

そのビルは一階が本屋になっていて、私達はその入り口で話していたのだ。


なんとなくその人の方を見て、

その人も入り口前に立っている私達が嫌でも目に入り、


お互い唖然とした。



「あ・・・・。」



絶句。なんてこった。


拓也は一瞬目が点、になったようにポカン・・・と口を開けて私を見て、その後塚本さんを見た。

そして私に視線を戻して言った。


「・・おま・・・何やってるの?」













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