Hangoverと余韻
翌日。
私は拓也とカフェにいた。
「・・・・頭いてぇー・・・・。」
「・・・・だから言ったのに・・・。」
結局あの後2次会まで進んで、お開きになった時は日付変更線をとっくに超えていた。
拓也のペースはいつになく速く、私が碧さんから離れて席に戻ったあの時には既に、かなり出来上がって半分潰れていた。
奈緒はそれを、珍しくからかうでもなく、憐みをもって眺めていた。
私に向けては、なんとも微妙な、少し笑みを含んでいるように見えなくもない視線を投げかけてきた。
私はと言えば、そんな奈緒の心の内を読む余裕も無く、相変わらず飄々と何事も無かったかのように笑顔で振る舞う碧さんに、ドキドキしながらも無視する事で精一杯だった。
純さんの笑顔にわずかな後ろめたさを覚えた。
「・・・・まだ気持ち悪い・・・・。」
「・・・よくそれで受けれたね、テスト。」
テーブルに突っ伏している拓也を、半分感心して眺める。
テストと言っても軽いものだったらしいけど、一時間半もまあ、よく耐えたものだ。
「・・・水がない・・・。」
「私の、あげる。」
拓也の目の前に、私の飲みかけのグラスを移動する。今更間接キスなんて言う間柄じゃないし。
・・・って、ああ。拓也が碧さんと間接キスじゃん。
・・・ごめん、拓也。一生言えない。
元々、今日は会う予定でいた。例の事について、お互いの中間報告の為。
「この間さ、山下から電話があったの。」
まだまだ調子の悪そうな拓也が、頭を抱えながらテーブルに突っ伏した状態で、私を上目遣いに見上げて言った。
「目撃者の一人がさ、都内に住んでいるらしいんだわ。」
「え?そんな事、もう分かったの?どうやって??」
目撃者の特定どころか、今住んでいる所まで分かっちゃうなんて、凄くない?っていうか、怖くない??
「・・・あいつのねーちゃんの友達のにーちゃんが・・・って、どうでもいいじゃない、そんな事。」
拓也は心底かったるそうに、眉間に皺を寄せて答えた。
「とにかくそれで、あいつが連絡取ってくれてさ、俺、ちょっと会ってくるから。」
「え、いつ?」
「んー、それはまだ決めてない。」
「ちょっと待って。拓也が行くの?いいよ、そんな事まで頼めない。」
「いいよ、別に。」
「よくないって。自分の事だもん。拓也に悪いよ。」
「いいってば。」
「だめだってば。そんなの迷惑かけ過ぎだし、第一拓也、専門学校の授業とか勉強で忙しいじゃない。」
「大丈夫だよ、2、3時間くらいだろ。一コマくらい大した事ねえって。」
「じゃあ、私も一緒に行く。」
「いいって言ってるでしょ。」
「行くよ。だって私の事でしょう?」
ここで拓也は初めて、盛大な溜息をついた。
やっとこさ体を起こして、呆れた様に私を見る。
「あのねえ。俺が一緒にやってる意味、わかってんの?」
「・・・え?」
「多少なりとも、危険かもしれない事に首、突っ込んでんでしょ?だったら簡単に、お前を連れて行けないでしょうが。」
「・・・・?」
「相手がどんな奴かもわからないし、どんな奴と繋がっているかもわからないんだぜ?」
「・・・?」
「・・・だーかーらー、お前自らが関係者に顔を売り込んでどーすんだって話っ。面が割れるだろがっ。何かあったらどうするんだよ。その為に俺がいるんだろ?」
「・・・・あ・・・・。」
彼の言わんとする事がやっと飲みこめて、私は言葉を失ってしまった。
拓也は、私をなるべく水面下に隠したいんだ。
私が、何かよくない事や人目に曝されるかも、と心配してくれている。
相手の気遣いを理解出来ない馬鹿さ加減と、そこまでしてくれる申し訳なさと、そして本当はやっぱり優しい彼の有り難さが胸に染みて、
私は少し顔が赤くなり、俯いてしまった。
すると、そんな私を見て、彼が優しく微笑んだ。
「やっとわかった?ん?じゃ、待ってなさい。終わったら報告すっから。」
「えっと、あの・・・!」
「ん?」
顔を上げた私を、少し得意そうに、含み笑いで見る彼。
・・・拓也は、昔からそういう人。
心の奥には、いつでも引き出せる優しさが準備されている。
それを人に見せる事は滅多にないのだけれど。
「・・・あの・・・気をつけて・・・。」
「大丈夫。心配しないで。」
「・・・あの・・・ありがとう・・・。」
「・・・・・・・・。」
他に言葉が見つからず、しょうがないからシンプルすぎるお礼を告げた後で、なんだか自分が本当に責任放棄をした甘えた女に思えて、少し不愉快になった。
そんな私を拓也は、ジッと観察するように、人懐っこくて丸い、澄んだ目で見つめてくる。
今度はこっちが上目遣いで彼を見上げると、彼は含み笑いをして尊大な態度で言った。
「・・・何を今更、と、お礼は何?と、何でも言う事聞いてくれる?と、どういたしまして。どれがいい?」
「・・・・・。」
今は何も言い返せません。色んな意味で後ろめたすぎて。
お好きな言葉を仰って下さい。誠心誠意対応させて頂きます。
という思いを込めて、目で物を言ってみる。
そんな私を見た拓也は小さくふふ、と笑うと
「じゃね。また後で。」
と言って、立ちあがってカフェを出て行った。
自分は飲んでもいないのに、コーヒー代をテーブルの上に置いて。
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