何ですか!?それは 4
やっぱり、会話ばっかり・・・。
「じゃあ、車出すから。12時半でいいかな?」
「すいませ「じゃじゃーんっ」
奈緒達が話している所に、純さんが飛び込んだ。
私はその後ろから、未だ脳内整理できず、って感じでついて行く。
「見て見てー、綺麗に落ちたでしょー。」
純さん両手をあげてバンザーイ、で、みんなに正面ご披露。
「うわ。ホントだ、跡がない。」
碧さんが目を丸くする。
「うふふ。綾香ちゃんが一生懸命、神業を披露してくれましたーっ」
「神業って、一生懸命披露するもんなの?」
屁理屈男が小声で呟く。
「すげー、どうやったんだ?」
お酒が入った碧さんは、すっかり姿勢も口調も態度も砕けている。
とても、色々背負っている人には見えない。
「こうやってね、お水と石鹸使って、表と裏から、トントントントン、とね。」
「表と、裏。」
藤田さんが、真顔で繰り返す。
「そう。表と裏から、ひたすらトントントントン、トントントントン・・・」
「どうやって、裏やんの?」
碧さんが、真顔で聞く。
って碧さん、それ、聞きますか。
「どうやって、って、こうやってよ。」
純さんが自分の目の前に、手のひらを指を揃えた状態で縦にする。
「これで、スカートの下から手を入れて、トントントント「へぇ~?」
碧さんが、まるで勝ち誇ったかのようにニヤッと笑った。
「女の子が、二人で、トイレの中で、スカートに手を入れて、ねぇ?へぇー。みーたかったなぁ。」
「・・・塚本さんのイメージ、予震無しで直下型に崩れた。」
奈緒が嫌そうな顔をしたんだけど、碧さんは意外にもそれを、皮肉っぽい瞳でさらっとかわした。
「先程たっぷり沢山嫌って言う程のリクエストを頂いたんで、お返しです。」
するとこれまた純さんが、あんなに可愛らしい人なのに、
ニヤ~と碧さん以上に(やっぱり似ている、この人達)皮肉っぽい顔して答えた。
「そのお返し、貰った。純のリクエスト聞いてくれるんなら、見せてあげるよぁ。見たいなぁ、藤田さんとのチュウ。」
「・・・・・。」
「っちょっ、純さんっ、当事者の確認無しに何、貰ってるんですかっっ」
「あ、でもあたしも見たいな。綾香、やって。」
「俺はもう見たくないけど、女の子が屈んでスカートに手を突っ込んでいる所は見たいな。」
あんた達には訊いてないっ。
純さんが、藤田さんを見てにっこり笑った。
「多数決?」
「却下。」
藤田さんが、にっこりと言い放った。
よ、よかった、魔王と利害関係が一致してて。この人なら一人でも拒否権も発動権も持っていそうだもん。
「なーんだ、つまんない。面白いのにぃ。」
そういって唇を尖らせた純さんは、なんと、拓也と奈緒の間・・・つまり私の席に座ってしまった。
「お席こうかーん。可愛い子達に囲まれまーす。うふふ。奈緒ちゃん、ヨッシーくん、よろしくね。」
「吉川です。」
え、ちょっと、そしたら私は、ひょっとして・・・。
「どうぞ。」
何をどう思ったのかはしらないけど、碧さんが端に横移動して、私はなんと、元ヤンと(違うか)魔王に挟まれて座る羽目になってしまった。
「・・・ども・・・。」
イケメン二人に挟まれて座っているのに、ああ、随分と息苦しい。一般人には空気薄いよこのポジション。
特に碧さんが、私の周りの酸素を殆んどさらっているに違いない。息苦しさの8割方はこの人のせい。
おまけに私の体内にアドレナリンを大放出させているのも、この人のせい。
それを、逆隣の魔王に見透かされそうで、怖い。
と思っていたら、私を見つめる拓也と目があった。
「で、なんのお話してたのー?」
純さんが奈緒を見て訊くと、拓也が私から視線を外して純さんを見て言った。
「藤田さんが、田中さんのマネージャーをするんですって。」
「ふぇ?」
純さんがビックリして、拓也を見た後奈緒を見て、そして藤田さんを見た。
藤田さんは少し笑って言った。
「別に、単なるお世話係だよ。むしろこちらの我儘でね。ね、田中さん。」
「そんな事ないです。お世話になります。」
頭を下げる奈緒。
「どう言う事?」
私が奈緒に聞くと、奈緒がチョッピリ苦笑した。
「うーん、マネージャーみたい、っていうか、なんというか。
私、今回は引き受けたけど、普通の会社員したいし、あんまりこういうの興味ないから、事務所みたいの入るのは、いいかな、と思ったの。面倒臭そうだし。」
この仕事は、続けないって事?
前もそう言ってたけど、本当にそれでいいのかな?やってもいないうちから決めつけちゃって。
「そうしたら藤田さんが、自分も、こういう業界に人脈を広げたいから?いい機会なので?経験してみたいんだって、マネージメント。
こっちとしても、たった今回限りとはいえ、プロの集団に言い様にされるよりは、大人の、しかも社会経験が豊富で頭が切れる人に間に立ってもらった方が、安心かなあ、って思ったのよ。」
「それは光栄。頑張るよ、頭が切れる様に。」
藤田さんは上品に、優雅に、完璧に微笑んだ。だからそれが怖いんです。
「あ、しかもなによりね、うちの親が大喜び。地元の名士の藤田家の坊ちゃんに世話になるなんて、繋がりができちゃうなんて、って感じで、まるで娘がその家に嫁ぐかのような舞い上がりよ。」
すると純さんがにこっと笑って藤田さんを見た。
「すっごぉい。だって、先輩。どうする?」
「嬉しいな、喜んで。でも僕には勿体無さ過ぎて、ご両親に申し訳立たないよ。」
「だって。奈緒ちゃん、どうする?」
「お世話になります。でもお嫁には行けません、ごめんなさい。」
「そうだよ、奈緒ちゃん。先輩んとこ嫁に行くのは、普通じゃ全然無理だぜぇ。」
碧さんが私の隣で、テーブルに片肘をつきながら藤田さんを見てニヤニヤ笑った。
「お腹ん中、真っ黒だしな。」
「常に何か、企んでいそうですしね。」
え?ちょっとまって?今誰が言った?
・・・私?!私?!わ、私だーっ!!
しまったーっ。この口がっこの口がっ。ツルっと、ステンっと!
慌てて両手で口を押さえるけど、時既に遅し。
皆が私を見て、そしてまお、藤田さんを見た。
藤田さん、極上の笑顔。素敵です。後ろ、吹雪いています。
「企むなんて、ひどいな日下部さん。そんなことしないよ?」
ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ許して下さいっ。
「・・・おっまえ、怖いもの知らずだなー・・・。」
拓也が心底呆れた様に私を眺めた。
随分と盛り上がって2次会の話も出始めた時、隣の碧さんがスッと立ち上がってどこかに行った。
吐きに行ったのかな?とか思っている間に、テーブルはますます賑やかになる。
見ると、拓也と純さんと奈緒でとても意気投合していた。
次はなんとかバーだー、おー、とかも言っている。
拓也がすごく陽気になっちゃって、だいぶアルコールがまわっているらしい。
「ちょっと、拓也、明日も朝、早いんじゃないの?」
ほっとけばいいんだろうけど世話にもなっちゃってるし、つい心配して口を出してしまった。
「んー。だいじょーぶーよー。」
「・・・大丈夫じゃないじゃん。明日テストあるとかって言ってなかった?」
確か、専門学校のテストが午前中に、とかって。
「へーきだよー。なに、送ってくれんの?」
目の周りが赤くなって、潤んだ瞳でいきなり、見つめられた。
ニヤニヤ笑ってるのに、目が、笑ってない。
「・・・それはっ・・・。」
普通、男は女に送られないだろっとか、そんな下心満載の台詞を人前で言うなっとか、この場に碧さんがいなくてよかった、とか、色々掛け巡って、結局言葉に詰まってしまった。
すると拓也はプイっと視線を反らして、皆の方を見ながら声を張り上げた。
「冗談でーす。あなたにはカンケーありませーん。だいじょーぶでーす。」
「ヨッシーくん、明日テストあるのぉ?大変だねぇ。」
「受験生に土日はないですよぉ。」
「純と一緒だぁ。純も明日仕事ぉ。平社員に土日はなあい。リストラのばかやろぅ。」
再び盛り上がり始めた。
「・・・純さん、何の仕事してるんですか?」
小声で隣の藤田さんに囁くと、彼はクスッと笑って言った。
「総合商社の総合職。碧と会社は違うけど。」
「えっ・・・女性の総合職が商社にもいるんですか?!」
「純ちゃんはああ見えて、バリバリのキャリアウーマンだよ。」
・・・・見えない。そうは見えない。
むしろ、可愛い、柔らかなお嬢様に見える。
私は、拓也達と楽しそうに騒いでいる純さんを、まじまじと見つめてしまった。
・・・エリート東都大を出て、碧さんと同じ商社。何から何まで、同じ道をたどっている二人。
行きつく先まで、同じなんじゃないかしら?
同じ笑顔を持って、同じ雰囲気を振りまいている二人が、
私には、運命のパートナーのように見えた。
例え今は、少し間が離れていようとも。
その道は、近い将来で、もう今から重なっている。矛盾してるけど。それが見える。
やっぱり。私なんて。無理だわ。
私は胸の中で、一人呟く。
何が無理?何をしようとしていたの?
何もしてないわ。だって最初っから分かっていたじゃない。
私と、碧さんの間には、未来に繋がるモノはないって。
「・・・私、お手洗いに行ってきますね。」
実は自分でも情けないくらい、予測不可能な場所で涙腺が緩んでしまう私は、
お酒のせいなのか急に、喉に熱いものが込み上げて来て、さり気なく、でも慌てて席を立った。
藤田さんの視線を後ろに感じながら、死角に入る。
トイレで誰かに見られるのも嫌だから、少し外の風に当たってこよう。
のぼせた頭も感情も、冬の寒さで一気に冷めるはず。
深呼吸とも、ため息ともつかないものを繰り返しながら、私はお店のエントランスを出た。
しばらく迷ったけど、人気のないビルの通路にそのまま立っているのもなんだか目立つ気がして、
目の前のにある、ビルの非常口から外に出た。
ヒヤっとした空気が肺に入る。心地いい。
と、思ったら、視界に人影が入った。
まさか人がいるとは思わなかったので、ビクッとして見ると、それはなんと、
碧さんだった。
タバコを手に、彼も目を見開いて私を見つめて、立っていた。