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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第二章 動き出す
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美少女が行く!3

15年前に私が見た不確かな事。

拓也が教えてくれた、事件の大まかな内容。

碧さんが少し語った、事件と彼との関係。



奈緒はそれを、黙って聞いていた。

私が話している間、相槌は打つものの一言も喋らなかった。



話終わった後、しばらく私達は沈黙をした。



「・・・ありがとう。」


奈緒がテーブルを見つめながら呟いた。

私は、自分が彼女の台詞を聞き間違えたのか、彼女が自分の台詞を言い間違えたのか、と思った。


「・・・何が?」

「・・・話してくれて。15年前に見た事。」


彼女はまだ、テーブルを見ている。

テーブルの上に置いた手を、組んだりさすったり、綺麗にネイルされた爪をいじったりしている。


「・・・随分、怖かっただろうね、7歳の綾香は。忘れられないくらい怖かったから、

 忘れてしまったんだね。・・・かわいそうに。」


やっと、少しためらいがちに私の顔を見た。


「大変、だったね。」


そんな彼女の見慣れない表情に、私は心底驚いてしまい、なんだかドキマギしてきた。

彼女の大きな瞳が、私を切なそうに見る。何だ、何だ、何だ?


「えっと、そんなハッキリしたモノを見れた訳ではないし、第一、何を見ているのか自分でも分からなかったし、目が悪かったし、あ、それは今でも悪いんだど、そんなトラウマになる程の記憶でも無くって・・・」


ああ、何?何を言い訳しているの、私?

親友相手に、何をそんなに焦っているの?と言うか、ドキドキしている?


「・・・分かっているわよ、綾香にシリアスなトラウマなんて無い事くらい。」


途端に、いつもの奈緒に戻った。

半眼で椅子の背もたれに座りなおす彼女。


「15年前の一人の幼い女の子が、物凄く可哀そうだって、話。今のあんたじゃ、無い。」

「・・・それ、私と同一人物なんだけど・・・。」

「ほんとー?昔の自分と今の自分、同じ人間だって言えるー???」


・・・いきなり、哲学の話ですか?

って、私の打ち明け話の続きをしたいんですけど。



「とにかく、自分が見た事もハッキリしないうちには、私はみど・・塚本さんとは会いづらいって事なの。」

「ホントは会いたくて堪らないのに、ねえ。碧さんって呼んでいいじゃん、何を言い直しているの。」


・・・ああ、話しづらいっ。


「でもさ、それっておかしな話じゃない?綾香の見た光景、吉川氏の言ってた事件の、どの場面に相当する訳??」



・・・そこなのだ。


そこが、まるで巨大な赤いアラームボタンの様に、チカチカと点滅しながら私の頭上に圧し掛かってきている。

まるで、警告するように、近づくなと訴えるように、

それでいて早く手を伸ばせ、時間が無いぞ、と焦らせて誘うように。




「王子の隣のお兄さんが事件の被害者だとして、それだけで何で今更解決した事件(モノ)を調べようとするの?しかも15年も経った後で。時効でしょ?」


彼女は腕を組んで、眉根を寄せて話し続ける。

今、奈緒の頭の中は色々な理論理屈でフル活動しているに違いない。


「しかも最初から綾香を知っていたって事でしょ?何で?どうやって?大体、綾香が事件を目撃したって事、今初めてあたしに話したんでしょ?」

「・・・多分。そのハズ・・・。」

「なのに、なんで綾香が事件を知っているような素振り、彼が見せるの?」

「・・・さあ。」

「誰かに綾香自身が見られていたって事?それが15年前の王子?」

「・・・さあ・・・?」


私は頭を掻いた。

自分がこの3か月間考え続けていた事と同じ事を奈緒が言うものだから、なんだか嬉しくなってきた。


「すごいね。2時間ドラマのサスペンス劇場みたいだね。」

「当事者が、何を言うか。」

ペシッと軽く頭を小突かれてしまう。


「そっかー。それで日下部さんは浮かない顔つきって訳ねー。それは確かに会いたくても会いづらいわねー。あの人、何か訊いてもタダじゃ絶対に教えてくれなそうだし。」


奈緒はうーんと唸った。

そして私の方を、嫌そうに眺めた。

「あんたの方がよっぽどビックな話じゃない。負けたわ、ちぇっ。」


彼女が、こうして私のシリアス話を茶化す事で、私を気遣ってくれている事がよく分かる。

私は微笑んだ。

色々と他人には誤解されやすい性格の奈緒だけど、やっぱり私の親友。

居心地の良い、私の空間。


そんな私をしばらく眺めた奈緒は、おもむろにこう言った。


「よし、調べましょう。」

「・・・何を?」

「事件や王子を。出来る範囲で、今以上に。」

「・・・でも私、就活や卒論・・・。」

「24時間それに費やしている訳じゃないでしょ。だってこのままでは、何かと不安じゃない?」



そう。不安。

それに、なんだか悔しい。

それに、やっぱり碧さんに会いたい。正々堂々と会いたい。

まっすぐに、向き合いたい。


「まあ・・ね。でも、どうやって?」

「それは、綾香が考えなさいよ。吉川君と一緒に、ね。」

「・・・・はあ???」


私は目を見開いて大きな声を出してしまった。


「何で、拓也と??!!」

「だって、綾香と塚本さんの関係を見て知っているのって、あたしと、祐介さんと、後は吉川君しかいないじゃない。」


そうだけど、そうだけど、そうではあるけれど、だからって何で拓也と???!!


「こういうのはね、味方が多い方がいいとは思わない?」

彼女はすごく真面目な顔つきで、むしろ険しい表情で目の前の空間を見つめた。


「相手がどう出るのか分からない。そもそも、綾香の相手が塚本さんだけなのかどうかも分からない。過去の殺人事件を警察でもない第三者が引っかきまわすなんて、どんなトラブルを招くかも分からないよ?」

 


私はクスッと笑ってしまった。

だから、味方は多い方がいい、と。

そうか、ありがとうね、奈緒。心配してくれているんだ。



「吉川君なら、何があっても確実に綾香を守ると思う。彼は、絶対に頼りにしていいと思うよ。」



緩く私を見る奈緒の瞳は、柔らかくて少し揺れている。

そしてそれは、奈緒が拓也の事を好きなのでは、と再び私を不安にさせる。


「彼は綾香と同じ大学だから、あたしとなんかよりずっと一緒に動きやすいし、それにあの人、頭いいでしょ?鋭いもの。きっととても役に立つよ。」


話し続ける奈緒の目に、徐々にいつもの強い光が生まれてくる。

そして最後にニヤッと笑う。


「いわばあたしの身代わりとしての、派遣ね。いい働きするわよ。」


奈緒の身代わり派遣、か。

それをもし聞いた時の、拓也の悔しそうな嫌そうな顔が目に浮かんで笑ってしまう。



でもね。確かに奈緒の言う通りなんだけど、的確な人材の配置何だろうけど・・・


「奈緒は、それでいいの?」


私が恐る恐る聞いたのに、当の奈緒はケロッとしてあっさりと答えた。

「何が?当然でしょ。最善策だと思うけど。」


そうなると、更に彼女の気持ちを突っ込んで聞く事は流石に憚れてしまう。

・・・うーん、奈緒がそう言うなら・・・でも・・・。


「私は藤田さんに当たって、塚本さんの事をそれとなく訊いてみるから。あ、でもあの二人がつるんでいる可能性は大いにあり、ね。塚本さんがあそこにいる理由を祐介さんが知らないとは思えないもの。」


奈緒は一人でブツブツと言いだした。

となると、どこまで聞けるか、これは望み薄ね。そもそも付き合いやめる方が無難かも、いやしかし、と言う具合に。



私は私で、本筋とは違う問題に頭を悩ませる。

拓也と一緒に行動かあ。出来る事なら避けたかったわ・・・。

あの日以来、結局まともに顔を合わせる事はなく、

見るのはキャンパスの中で、いつもの人懐っこそうな笑顔で仲間と話す彼の姿か、


どこかの女の子と肩を組んで歩く姿。



彼のあのくりっと丸い瞳と笑顔が、彼女の前で崩れて代わりに、拗ねた瞳と甘えた口調が出てくる頃には、


多分、あの腕は彼女の肩には乗せられず、彼女の腰にまわされているのだろう。





「・・・吉川君との行動、居心地悪いんだろうけど我慢しなさいよ。」


私の表情を読んだ奈緒が溜息をつきながら、こっちを睨んで言った。

「この際、焼けぼっくいに火がつこうが目をつぶって、事態を乗り切ってから大人の対処を目指しなさい。」

「焼け・・・何?」

「・・・一般教養。落ちるわよ、就職試験。」


何よぅ。後で辞書で調べるわよぅ。

どうせ本読みが足りませんよー、だ。


「よっし。そうと決まれば行動開始。早速吉川君に連絡を取ってあげる。綾香のスケジュール、教えて。」


奈緒が手帳と携帯を取りだした。



あれ?私って、自分の人生は自分で切り開く、とかって思ってなかったっけ?

他人に支配されるのはゴメンよ、って。



私、今、思いっきり奈緒に支配されてるんだけど。






はい。次回から拓也くん登場です。

綾香ちゃんと一緒に、事件をガンガン攻めていく予定です。

乞う、ご期待❤(自分の首を絞めました。頑張ります。)

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