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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第二章 動き出す
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美少女が行く!2

目の前の美少女は、ケーキなんてものを注文し始めた。

カフェモカでも充分甘いのにケーキとは。本腰入れて食べる気ね。これはまだまだ話が続くって事だわ。

私もやっとホットチョコに口をつける。いい感じに冷めていた。


私、これ一杯で粘れるかしら。



「・・・そして田中さんは、その熱烈ラブコールに応えるべく、CM出演を決心した、と。」

「うん。迷ったけどね。何だか面白そうだし。経験かな、と思って。」


そう言って笑う奈緒は、全然迷ったようには見えない。


「・・・奈緒、ゲーノージンになっちゃうんだ。」

「うん?そんなバカな。全然面白くなさそうだし、絶対やりません。」


確かに。

奈緒は美少女ではあるけど、芸能人が務まるタイプには見えない。

それをするにはあまりにも、冷めている、というか、物事を斜めに見ている、という所がある。

それに、彼女お得意のブリっこの継続時間はウルトラマンの地球滞在時間並みに短い。

(実際には、タロウが戦って、それをセブンが引き継いで、そしてゾフィー兄さんがトドメを刺すぐらいの時間は続けられるかもしれないけど。)


そして奈緒はいかにもわざとらしく、口に手を覆って私を見た。


「はっ!まさか日下部さん、あなた、私に嫉妬しているんじゃあ・・・。」

「・・・え?それはノるべき?つっこむべき?」

「ダメね、そんな事ではあなた、私のライバルにはなれない・・・。」

「・・・え?続くの?その台詞、俯きながら言うものなの?」

「悔しかったら、ここまで這い上がってくるのよっ!」


奈緒が斜め45度の空中を見上げながら、切なげな表情にバラの花を散らすような雰囲気で、握りこぶしを胸の前に作る。


・・・・ウザい・・・・。


「・・・と言う訳で、綾香も撮影に呼ばれているから。」


奈緒が椅子に座りなおしながら真顔で言った。

・・・って、はあ???!!


「・・えー!!?何で???」

「知らないわよー。何か、河島(たける)が綾香の事をお気に入りみたいよー?『一緒にいた色白のカワイコちゃんもよければ是非、見学に』って。」

「・・・何でー?どういう流れ???」


何をどう思い返しても、彼との出会いの中で私が気に入られる要素が、何一つ見つからない。

それはどっから聞いても、ただの社交辞令でしょう?奈緒の機嫌を取ってCMに引き入れたいが為に、オトモダチにまでお世辞をいっているだけじゃないの。


「さあ?興味でも持たれたんだじゃない?」


奈緒はさほど気にも留めない様子で答える。



「・・・ハンサムに、興味を持たれる覚えは無い。」

「・・・いつかも同じような台詞を聞いたわよね。しかもそれ、標語みたい。」

「行かないよ、私。忙しいもん。」

「関心もないし、でしょ。解ってるわよ。断っといた。」


何、断ってくれてたの?じゃあ、わざわざ脅かさないでよ。


彼女は椅子の背もたれに寄りかかると、私を眺めるように見つめた。


「綾香ってこういう事、興味ないもんね。どっちかっていうと苦手そうだし。」

奈緒は興味ありそうだよね、と考える。だってアイドルの追っかけしてるものね?

「でもさ、天下の人気俳優、河島健に覚えてもらって声をかけられるなんて、綾香もなかなかのモノじゃない?やったね。」


「・・・スカウトされた女が、よく言うよ。」


私は少し呆れて言った。

だって相手の心を射止めて、強引な手を使われてまで声をかけられたのは奈緒の方じゃない?

私はそれの、ついで、よ?


「私はいいの。割と強烈なタイプだから。CMとか、そういうモノに向いている外見なんでしょ、きっと。」


でも、と奈緒は私の眼をまっすぐに見て言った。


「綾香は、人の心に残るタイプだから。そういう印象を与えるから。」


じっっと私の眼を見る。

私は、カップを持つ手が止まってしまった。


・・・何、この雰囲気?


「・・・言ってる意味が、わかんない。というか、同じに聞こえる。」


私がカップを持って固まったまま答えると、彼女は少し笑った。


「・・・まあね。」




奈緒とは。

時々こうやって、私相手にも謎めく時がある。





「そんな訳だから、時々状況報告をするわね。それがまず話の第一点。

 それでは、次の話題。」

「は?まだあるの?ビックな話が?」

私は呆れ半分、身構えてしまった。

何なの、この爆弾娘。


「今度また飲み会をしましょう、と祐介(ゆうすけ)さんから誘われております。来週の金曜日あたり、ヒマ?」

「・・・ユウスケさん?誰、それ?」


まさか既に芸能人と知り合いになって誘われた、とかじゃないわよね?

ユウスケさんって誰よ?そんな名前の芸能人、ユースケ・なんとかっていう日本だかイタリアだか分かりにくい名前の俳優さんしか知らないわ。え?彼って芸人?


「藤田祐介、よ。あのホスト系の。」



私は再び、思考が繋がるのに時間を要してしまった。今日のシナプスは通りが悪いらしい。



「・・・ええええ??!!!奈緒、連絡取ってるの??あの人と!!!」

「うん。飲み会から帰る時、タクシーの中でメルアド交換したもの。綾香もしたでしょ?王子と。」


何と何と何と。そういう事でしたか。



私は碧さんと帰ったあの夜の事を思い出した。(池に落ちた事も芋づる式に思い出した。クッソ!)

確かにあの時、彼は私にメルアドをくれたけど、あれは交換って言うのかな?

だって、あれから連絡は取ってないし・・・・。というか、取れないし。


あ、ちょっと胸が痛む。


「奈緒は、あれから藤田さんと連絡を取っているの?」

「うん。たまにメールでやり取りをしているよ。あたしのCM話も知っているよ。だからそのお祝いをしてくれるんだって。」


・・・じゃあ、二人でしなよ。


「・・・付き合ってるの?」


私が少し上目遣いで彼女を見ると、彼女はビックリしたようにこっちを見つめ返した。


「・・・・まっさかぁ!!そんな訳ないじゃん。だってあたし、あんなのタイプじゃないもん。」


・・・あんなの???

天下の美形色男を『あんなの』と称しますか。さすがは田中様。


「ハンサムは見て楽しむものよ。おまけに彼みたいな性格はあたしと絶対合わない。

 おまけに彼みたいなお家と関わるのは絶対ゴメン。

 おまけに彼はあたしみたいなのはタイプではない。

 でも話が面白いし、付き合いがあれば何か得な事があるかもしれないと思って連絡を取り合っているだけ。」


ああ、マシンガンの様に繰り広げらる奈緒ワールド。

私は久しぶりに頭がくらくらとして来た。解ったから、もう少し手加減してよ・・・。


「何?綾香、王子じゃなくて、あっちの方がタイプだった??」

「・・・なーんーでー、そーなるー・・・・。」


疲れる。ほんっと、疲れる。


「やめときなよ、彼は。あの性格、ある意味王子よりタチが悪いよ?」


自分の事は棚に上げて、よく言うよ・・・。

って言うのもメンドくさいから黙っておこう。



そっか。でも奈緒は、藤田さんの事、そういう意味では好きではないんだ。

あんなにカッコよくて大人の人なのに、それでもダメなんだ。

そう言えばこの子は、高校の時も誰とも付き合わず、大学に行ってからも彼氏の話って聞いた事がない。

(大学が違うせいかもしれないけど。)


・・・やっぱり、奈緒の好きな人って、・・・・拓也だったりするのかな?


私は少し、ドキドキしてきた。


そうだとしたら、私はどうするんだろう?

奈緒に対して、今までそれに気付かなかった申し訳無さがどっと押し寄せる。

そして、私達が付き合っている間の彼女の心の辛さを思うと、自分の胸が痛くなる。


なのに、もし二人が付き合う事にでもなったら、きっと、心からは祝福出来ない自分が、いる。


自分が情けなくなってきた。

ああ、嫌だ。心が狭くて醜い私。

逃した魚を諦めきれていないのは、彼だけではなくて、私も同じらしい。


だから、あんなとこでキスなんてされちゃうんだ。




「だから来週金曜日ね。東京のいいトコ、連れて行ってもらおう。お金持ちだからきっと色々知っているよ。王子も一緒だよ。」

「・・・・拓也は?」


おずおずと聞くと、彼女は少し溜息をついた。

「吉川氏は、誘っても来ないんじゃない?どうせあんた達、大学でも気まずくって口きいて無いんでしょ?」


あんな事があった後じゃね、とまるで見ていたかのように呟く奈緒。

そしてふっと顔をあげ、じと・・・と私を見つめ出した。


「・・・な、何・・・?」

「王子が来る事よりも、吉川氏が来ない事の方が気になる?」


私はたじろいでしまった。

えっと、この場合はどう答えるのが正解なんだろう?

拓也の事が気になるのは、それは奈緒の事が気になるからであり、

もちろん拓也の事自身もかなり気にはなるんだけど、

拓也と碧さんとどちらが気になるかと言えば正直碧さんの方だったりして、

でも私にはそんな不確かなちっちゃい恋愛感情より、実際、目の前にある友情の方が大事でだから奈緒が大事なんだけど、



ああ、でも、そうだ。

私、自分の事も解決しないと、碧さんと会えないんだった。


思い出した。あっちもこっちもハチャメチャだ。




奈緒には、まだ何も話していなかった。

でも、彼女が藤田さんと通じている以上、藤田さんと碧さんが通じている以上、

私が、奈緒に一連の事情を話さずにいるのは不自然に違いない。

奈緒は私と碧さんの出会いから関わってもいる。


その上彼女は、ありがたい事に、私の一生の大親友。



私は決心をした。

その決心は、思ったよりも簡単に出来るものだった。



「あのね、奈緒。実はね・・・。」


この流れと勢いに、乗ってみよう。

今まで胸に持ち続けていたものを、彼女に渡してみよう。


思わぬタイミングではあったけど、初めて人に打ち明ける。



家族にも言えなかった、15年前の話を。



すみません。本日中にもう一話、upします。


明日、拓也くんが登場しますからね。

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