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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
19/67

そして、過去を知る

部屋に戻るとシャワー浴びた。手当てされた傷口は、ちゃんと濡れなかった。

そして頭を乾かしていると、携帯が鳴った。見ると拓也からだった。

駅前で別れてから、一時間ほど経っている。

ちょっと気分が下がってしまった。


「・・・もしもし。」

「・・・もしもし。俺。」


少し遠慮気味の声が聞こえてきた。レストランでの彼の匂いを思い出す。

彼のキスを思い出し、続けて碧さんの唇も思い出す。キスじゃないけれど。

自分が凄く、身持ちの悪い、貞操観念の薄い女に思えてきて、正直気持ちが悪くなってきた。


もう、お酒を飲むのはしばらく控えよう。



「うん。」

「今・・・いい?」

「うん。」

「・・・一人?」

「・・・用件は?」


質問には答えず、私は切り返す。

多分、私が碧さんと一緒にいるかどうかの確認をしたかったのだろう。

でもね、それはもう、貴方には関係の無い事なのよ。お願い、わかって。


「・・・15年前の事件。昼間、調べたんだ。」


それでも雰囲気を読むのが上手い彼は、私が一人だって事を見抜いたのだと思う。

彼が話しだした内容は、結構重くて、時間のかかるものだった。



拓也は、ネットと地元図書館の過去の新聞などを駆使して調べたらしい。

ファミレスを一人出た後、すぐに行動に出たようだった。

自分が聞いても返事をはぐらかす、いかにも怪しい碧さんに、私が彼の側にいる為に余計、憤りや不安などを感じたからだと思う。


碧さんが関わっている「15年前の前浜東中での生徒殺人事件」は、地元で知らない人はいなかったけど、その内容となると、当時小学低学年だった私達にはさっぱりだった。

ただ、「あそこには幽霊が出る」だの「だから学校が取り壊しになったのだ」など、そんな怪談話が中心で、だから私達は皆、事件があった事は知っていた。



それは15年前。

当時中学3年生の男子生徒が、学校の裏庭で刺殺された。

犯人は同じ中学に通う3年生。

少年Aは不起訴となった。

もみ合った末での正当防衛。目撃証言もあったらしい。

刺殺された相手は、学校ではかなりの問題児で、度々警察沙汰を起こすような不良少年だった。

凶器となったナイフは被害者のものであり、彼はそれを常に持ち歩いていて喧嘩相手を脅していた。

加害者少年Aは、比較的おとなしくて問題もない良い子。


胸にナイフが刺さった事が、致命傷。



拓也が話し終えても、私は言葉が出なかった。



知らなかった。今まで誰も、こんな話をしてくる人はいなかった。

私も自分から、調べようとか詳しく知りたい、なんて思わなかった。

そう言う事は全て、大人の世界で正しく処理されるものだと思っていたから。



アレ、は、

その事件の、

どのワンシーンだったのだろう?






拓也は、碧さんと一緒に何を調べたのかを聞いて来て、私は、何も調べていない、中学跡地に行って海に行ったら拓也と会っただけ、と答えた。

「ふーん。じゃ、ホントにただのナンパだったのか。事件と何の関わりがあるんだろ、あの人。」


私は、答える気になれなかった。



「じゃ、またな。俺の事、無視するなよ。」

電話の向こうで拓也が軽口を叩く。私はそれに乗っかる事にした。

そうすれば、私が今どんな状態なのか、鋭い彼にバレずに済む。

「拓也が今まで無視してたんじゃん。」

「傷心を癒すのに必要な時間だったんだよ。」

「よく言うよ。可愛い後輩ちゃん達にいっぱい慰めてもらえるじゃん。」


「・・・それ以上言うと、ホントに怒るから。」


低い声で、拓也が言った。


「・・・はい。」


私は素直に返事をした。でも、謝らなかった。






15年前の記憶。

当時私は小学一年生。

自分が何を見たのかも、よく理解出来なかった。


だって私はあの時、まだメガネをかけていなかったのだから。



見えないなりに、分からないなりに

何か異様なものを感じた私は、そのまま家路を急いだ。

そしてなんとなくその日を終えてしまった私は次の日、あの近所の前浜東中で人が殺された事を知った。




どうしよう。どうしよう。

わたしはなにをみたんだろう。だって、よくみえなかったもん。


でも、もし、あれが、みんなのはなしている「ひとごろし」なら、どうしよう。

おかあさんが、ものすごくしんぱいする。おかあさんがないちゃうかも。

おかあさん、ごめんなさい。



自分が何を見たかよりも、あの頃夜中に布団の中で泣いていた事の方がハッキリと思いだせる。

母に打ち明けようかどうしようか、不安で不安で堪らなかった。



ところがいつまでたっても、誰も何も訊きに来なかった。

そして、「ひとごろし」は捕まったらしい。事件の解決を、私はそう、解釈した。


そして、いつしか忘れていった。

そもそも、記憶に残るのも怪しい程の、ぼやけた視界のビジョン。











携帯の音がうるさい。時計を見れば9時前だった。

結局、夢うつつの状態で朝の数時間をうとうと過ごした程度。

気は、限りなく重い。


電話の相手が奈緒である事を確認してから、ようやく、通話ボタンを押せた。


「遅ーい、電話出るの遅いってば!」

「・・・・はい。」

「あ、綾香今起きたんでしょ?」

「・・・そう、かも・・・。」

「もー、寝ぼけてるなあっ。隣には誰がいるの?吉川君?王子?」

「・・・なっ!!誰もいないよっ!!」

「あ、起きた。はい、おはよう。」

「・・・・・(怒)」


現実はこうも明るい。

これが私の今。

親友は、私を陽の光の下へと引っ張り出してくれた。


「さあ、今日も遊ぶわよ!何処に行く?」

「・・・お墓参り。」

「・・・おやすみ。」



だって、過去巡りで地元(ここ)に戻ってきた、が当初の名目だったのだから。

と、笑って奈緒を引き留めた。

おじいちゃんおばあちゃんのお墓参りをして、高校にも顔を出してみたいし・・・・。



私は可笑しくなってしまった。



つい3日くらい前までは、人生どん底で、何も上手くいかず、やる気だって起きなかったのに。

そんな状態に焦って、自分をリセットしたくて、同窓会がてら帰郷したようなものだったのに。



今は、そんな事を言っている気分ではない。

過去は、変わらない。

変えたくっても変えたくなくっても、目を背けても懐かしんでも、

変える事は出来ない。


碧さんが言ってくれた「前を向いている」私は、これから何をすべきなんだろう?




『要は未来(さき)に繋げるものだもんな、過去なんて』と言った彼の言葉が蘇る。

意味が少し、分かった気がした。




第一章、終了です。

予定外に、長くて読みづらい小説となりつつあります(涙)。読んで下さっている方々、本当にありがとうございます。


次章で解決予定です。

お付き合いいただけますと、大変嬉しいです。


この小説が皆様の気晴らしのお役に立てたら、幸いです。



*ご注意


この第19話で少年の殺人事件が出てきますが、これは全くの作り話です。

作者が適当につづったものであり、何かの事件が元になったり下調べをしたり、と言った事はありません。起訴不起訴など、全くの素人です。

(そもそも、不起訴になればよし、というモノでもありません。)

未成年の犯罪、殺人は作者が忌み嫌うものです。

娯楽作品のスパイスに使う程度の内容である事をご理解下さい。

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