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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
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手当

話すって、何をどう話せばいいんだろう?

聞かれてもいない事を、どう話せばいいんだろう?

そもそも、私はあの事件の事を殆んど何にも知らないし。

それに、おかしな事って何だろう?

ダメだ私、知らない事が多すぎる。

碧さん(あいて)ばっかり私の事を知って(いるらしく)て、私は彼の事はもとより事態を全く把握していない。

そんな中で迂闊に行動は起こせないわ。

何も知らないで周囲に踊らされるのは嫌よ。


とか、物凄く真剣に考えて歩いていたら。


私はいつの間にか、水中に沈んでいた。



「え??ちょっと、大丈夫か??」

「いっっっっ」


いったぁいー!!!


頭が状況を理解するのに軽く10秒。痛みを感じるのに更に5秒。


あ、あり得ないでしょっ私、噴水池に落ちたっ!!

穴があったら入りたいってここは水だからじゃあもう一回潜るっ?!


「え?どうしてこうなるの?綾ちゃん、実は相当酔ってる?」


流石の碧さんも相当焦ったようで、(そりゃそうでしょ。普通落ちないでしょ。大人が落ちないでしょ。)

慌てて私を引っ張り上げてくれた。


「・・・そんな酔っては・・・実は、先ほどコンタクトを外したんです。お店を出る時に。」

「何で??」


碧さん大驚愕。

ああ、これで彼の頭の中の私の思い出は、全身ずぶ濡れ鼻血ド近眼女、ね。

ホラーだわ、もはや。


「・・・サイコーに眼が乾いてしまったもので・・・。」

「・・・足。うわ。血が出てるよ。」


プラス足から流血女。貞子のお笑い版か、っつーの。

ここは一つ、開き直ってトボケよう。


「え?ホントですか?全く見えませんが。」

「・・・鳥目ド近眼酒で痛みなし。最強だね。凶器だね。」

「・・・・・。」


だめだわ。烙印を押された。もうダメだ、回復見込みなし。HP100000くらいトータルでくらったわ。

戦闘不能だわ。



クスッと笑った彼は

「ほら、おいで。」

と言うと、私の手を握ってゆっくりと歩き出した。

え?何で私の手を勝手に握っているんですか?なんちゃって貞子のどこがいいんですか?

とか思って、ああ、ド近眼だから再び池に落ちるのを防いでくれているんだわ、と気付く。


もう、やだなあ。ハンサム相手は疲れるよ。



顔に似合わず大きくてゴツゴツした手で、まるで子供の手を引くように彼は歩く。

私はその後ろを、まるで小さな子供のように、引かれて歩く。

でも私が子供で無い証拠に、胸はうるさく、顔は熱く、手は汗をかいてきそう。



「ちょっと待ってるんだよ。」


彼はそう言うと、私の手を放してコンビニへ向かって駆けだした。

そして5分もせずに戻って来た。

「はい、消毒と包帯買ってきた。どこか座る所、捜そう。歩ける?」

・・・それは、どこかに座って、足の手当てをしてくれる、と言う事なのかしら?


「・・・歩けはするんですが、全身びしょ濡れで・・・先に着替えたいです。」

「・・・そっか。そうだよな・・・。」


なぜか碧さんは、困ったように立ち止まってしまった。

そこで私は、この状況が果てしなく彼の迷惑以外の何物でもない事に気づいてしまった。


「すみません、私、一人で出来ますから、これくらい。ありがとうございます。」

慌てて頭を下げると、彼は少し眉根を寄せて言った。

「それじゃ、俺があんまりにも酷い男だろ。流血した女の子をそのまま帰すなんてさ。」

・・・流血。

せめて、「怪我をした」ぐらいの表現に留めておいてくれませんかね?一応、女子なので。

・・・時々この人の表現って、容赦ないわよねえ・・・。


とりあえず、こうしよう。

「部屋戻って、着替えたら出ておいで。廊下で待っているから。」

よし、決まり。


彼は私にそう告げると、極上の笑顔でニッコリと笑った(って私、見えないんだった。目で見なくとも見えちゃうなんて重症だ)。


「歩ける?おぶろうか?」

「え?そんないいですっ。」


だってそっちの方が恥ずかしいっ。あれって、後ろからのビジュアルがとんでもなく間抜けだし(特に上にいる女の子の方が)、お約束の胸が背中にあたるとか、って当たらないようにすればいいのか、難しそう。


じゃなくて、碧さんが濡れちゃいます。


と後者の方を口にする。



「じゃあ、こっち。はい。」


彼はそう言って、もう一回手を差し出してくれた。

一瞬ためらわれたけど(これが昼間の私なら、『断られるっていう発想無しに躊躇無しに女の子に手を出すなんて、ハンサムだからと図に乗っているわねっ、とか何とか)

今度は私からその手を握り、

私達はそのまま、ゆっくりと歩いてホテルまで戻った。


明るい所に入っても彼の手は離されず、そのまま私の部屋の前まで連れて行ってくれた。

その間、ずっと無言だった。



「これは明日腫れるなあ。」

碧さんは眉根を寄せて、ため息をついた。

自業自得です。でもこれ、全然得じゃない。


着替えた後部屋を出ると、碧さんはすぐ前の廊下で待っていてくれた。

本当はスウェット姿なんて見せたくなかったんだけどね、他のお洋服は着れなかったの。

・・・だって血だらけになるんだもの。


「ん。完了。多分シャワーも大丈夫。・・・跡が残らないといいな。」


防水まで考えてくれて、綺麗に手当てをしてくれた。

本当に申し訳なくなる。


「・・・色々、すみません・・・。」

「こちらこそ、色々ありがとう。」


彼が柔らかくふっと笑うのを感じた。

私はメガネをかけていない。慌てて部屋に忘れてきたから、やっぱり彼の表情はよく見えない。


「・・・ダメだよ。そんな眼して、こんな状況で、女の子が男を見ちゃダメ。部屋に戻りなさい。」

「・・・・。」


どんな眼をしていたって言うのかしら?

碧さんは少し困ったような声を出した。

私は裸眼ですべてがぼやけている為、遠慮なく彼の顔を見つめ続けた。


「・・・おやすみ。」


彼はそう言って私の後頭部を優しく抱き寄せた。

そして、私のおでこに唇を押しあててくる。

その唇がそっと離れると、ちょっと沈黙があり、その後再び苦笑しながら私の頭をクシャクシャと撫でた。


「だからそんな顔で見ないのって。さては見えてないな?」


うん、まあ、確かに見えてはいないのだけど、ね。

すんなりと離れがたいのも、まあ、事実で・・・。


でも数時間前に拓也とあんな事があったばかりだし、私と碧さんの関係は過去も絡んでスッキリしないし、

だからあまりグズグズするべきではない事は、分かっているんです。



「ほら、部屋まで連れて行ってあげるから。俺はもう一回吐こうっと。」



彼は、男女の駆け引き、と言うモノに長けているように感じた。



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