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リコレクションズ  作者: 戸理 葵
第一章 長い一日
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追求

奈緒に対する疑惑を振り払っているうちに、随分な時間となってしまった。

気付くと時計は、11時を回っている。

全く妙なメンバーでの飲み会ではあったけど、割と上手に盛り上がったし、牡蠣もものすごく美味しかった(ここ重要)。

名残惜しい気分の中お開きとなり、私達はタクシーを拾う事にした。さすがっ社会人って素敵っ。


・・・ってああ、やっぱ私も就職しなくちゃ。

私はいきなり、こんな所でこんな瞬間に思ってしまった。

このタイミングでそれ思う?

でも人間、働かないと食べれないし遊べないわ、って体全体で自覚しちゃった・・・。


思わず気分が暗くなる。


実家に戻る奈緒と拓也。藤田さんは奈緒を送っていく事となり、拓也はここから一駅だからと、電車で帰る事になった。


「え?お前とみどりちゃん、方向一緒なの?」


塚本さんと私が同じタクシーを拾おうとするのを見て、拓也が驚愕の表情をする。

私は再び、ものすごーく後ろめたい気分になってきた。

でも、私のせいじゃないし!私、何にも悪くないし!


「え?あ、たまたま・・・」

「・・・まさか、同じホテルだったりするんじゃあ・・・。」


あ、何?弱冠怒ってる??そんなビックリした目で見ないでって、やった、タクシーつかまった彼が呼んでるっ。


「そんな訳っある訳っおやすみっ。」

「あ、おい!」


タクシーばたんでピュー。ヨッシーおやすみーって彼の妙に明るい声。




「いやー、いい酒だった。」

タクシーの中で塚本さんが満足げに言った。

「楽しかったなー。ヨッシーが膨れた様に札出す姿も可愛かったなー。でも藤田大明神が来てくれなければ、俺の懐かなりヤバかったなー。」

「・・・すみません、あんな高い所・・・。」

「それは違う。綾ちゃん達のおかげで今日一日本当に楽しかった。ありがとう。」

まっすぐな瞳で綺麗に笑う彼。あ、今の素直な笑顔、いいな。


なんて思った事、恥ずかしいからバレない様に。


「でもさ、奈緒ちゃんお腹弱いのに大丈夫かな?牡蠣・・・。」

「大人ですから。」




ホテルの前には噴水と人口小川のあるだだっ広い公園があり、周囲を一方通行で囲んでいるため、ホテルに行くにはタクシーでぐるっと遠回りをしなくてはならない。

メーターの節約をしたい私達は(主に私)、ホテル側とは正反対の公園入り口でタクシーを降り、そこから園内を突っ切って帰る事にした。

きっとのんびり歩いたって10分もかからない距離の筈。


ホテルに帰りながら、私は思う。

これは、チャンスなのかもしれない。

私は一度も、彼のことをハッキリとは尋ねなかった。

なんとなく目をそらし続け、奈緒と拓也にそれを任せてしまっていた。

でも本当は、私がキチンと聞くべきだった、と言うことはわかっている。


もうお互いに誤魔化せない程に認識し合っているけど、一応今日限りの人。

場合によっては、本当に次は無いかもしれない。



「塚本さん、なんでウィークリーマンションなんかに泊っているんですか?」

(みどり)って呼んでよ。」


やっぱり、すぐには答えてくれない。

今日一日そうだった。


「碧さん。で、なんで?」

「・・・お金がないから?」

豊崎物産(総合商社)で?」

「・・・ホント君って直球。」


彼はこっちを見ると、少し肩をすくめて苦笑した。


「わかってるんだろ、理由なんて。」



・・・つまり、私が泊っているから?


つまり、私の事を以前から知っていたから?


・・・そしてそれはつまり、私があの事件に関わりがある事を、知っているから・・・?


色々な疑問が、今日一日(厳密に言えば午後半日)目を背け続けてきた事実と疑問が、私の頭の中をかけ巡る。

なんで、なんで、なんで、一体どうして?



「15年待ったんだからさ、もう後何年待っても同じだな。・・・ってそう思えたのは、今日一日君と一緒にいたからだと思う。」


私の心を知ってか知らずか(多分知ってて)、彼は自分だけが納得したかの様な事を言いだした。


「君が話したくなった時、それが例え10年後でもいい。その時に話してくれよ。君が知っている事を、さ。」



それは、私が話すまで自分からは何も話さない、と言う事ですか?

・・・それってちょっと、ズルくないですか?



そんな言葉が喉まで出かかっているのに、口に出せない。


私が事件の事を考え出したのは今から、と言ってもいいけど、彼はこの15年間ずっと考えてきたと言っていた。

だから、そんなに長い思いを持った彼の考えの方が重みがあり、優先させるべきではないか、

と咄嗟に、なんとなく思ってしまったのだ。


代わりに別の形で質問をしてみた。




「・・・つか・・碧さんは、私が何を知っていると思っているのですか?」

「君は何を知っているの?」


ほら、やっぱり。


「・・・碧さんは、いつから私の事を知っているの?」

「・・・君を見たのは、昨日が初めて。」

嘘じゃないよ。と彼が呟く。



「さっきから、何も答えてくれてない。」


分かっていても、文句の一つも言いたくなる。やっぱり、ずるいよ。


俺、ストーカーとかではないから。と彼は笑った。


「だから、君が話したくなった時、ね。それが一番正しいタイミングだと思うんだ。」

「・・・正しいタイミング?」

「大事なのは未来。君みたいにひたすら前を向いているコ、俺は今まで見た事がないもの。」

ミステリーハンター?なっちゃいなよ。


ズルイ彼の笑顔は、これまたきっとズルイくらいに綺麗でどうしようもないんだろうな。


と考えて俯いてしまう。


「・・・10年後とか、連絡のつけようが、ないし・・・。」


「じゃあ、ケータイ貸して。」


彼に携帯を渡すと、何かをサクサクっと打ちこんだ。


「はい。これ、俺のメルアド。」

目を凝らして見ると、それは彼のPCのアドレス。


「安心して。君が一生話さなくても大丈夫。それだけ、毎日頑張って生きているって証拠だろ。」


そう言って歩きだした彼は急に振り返って、

何故だか言いづらそうに、こう言った。


「・・・でも、何か困った事とか・・・おかしな事とか・・・気になる事があったら、何でも連絡してな。」


言われた私もビックリしてしまう。


「おかしな事・・・起こるんですか?私に。」


「だから、連絡が来ないに越したことがないって事。」

彼は私の肩を優しく叩いた。




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