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フラワーショップへようこそ

作者: WAIai
掲載日:2026/10/29

春の穏やかな陽気の中、家田清はスマホを持ちながら歩いていた。

「…確かこの辺にあるはず」

独りごちると、スマホのマップを見る。

20代の彼はもちろん社会人であり、自分でスマホ代を支払っていた。

スーツを着ているので、仕事中なのは誰が見ても明らかで、刈りあげた頭はすっきりとしており、若干、学生を思わせる匂いがするのだった。

「ーあ、あった」

目的の場所を見つけ、清は喜ぶ。

目指していたのはフラワーショップで、清が買いにいくには少し恥ずかしいことだった。

ーこういうのって、女の人が行ったほうがいいよな?

大陽を見上げれば、ゆっくりと日を差しており、のんびりしている。

自分も太陽みたいに自由でいたいなと思いつつ、息を吐き出す。

ー下っ端は辛いな。まずは使い走りからだから。

よし、と気合を入れると、清は店に近づいていく。

大きな看板があり、ストロベリーキャンドルと書かれていた。

ーストロベリー…? 苺か?

首を傾げつつ、自動ドアをくぐると、花の香りが一気に襲いかかってくる。

清は花粉症ではないが、強烈だった。

ー香水よりは臭くないけれど。

清が頭をかくと、店主の女性が振り向いてくる。

「いらっしゃいませ」

可愛らしい感じの雰囲気で、長い髪をまとめている。

見惚れてしまうくらい美人で、清も一瞬、時を忘れてしまった。

「お客様、何にいたしましょう?」

「あ、は、はい」

慌てて自分を取り戻すと、店内をぐるりと眺める。

どうやら花の種類は豊富なようで、赤にビンクに紫と、色とりどりだった。

「えっと…3000円くらいで花束を作れますか?」

「3000円くらい…。大丈夫ですよ」

「そうですか!! 良かった」

清は胸に手を置き、息を吐く。

実は急に辞めることになった人がいて、その人のために花を買いに来たのだった。

ーまさか辞めることになるとは思わなかったんだけど。

パソコンの資格もたくさん持っているし、重宝すると喜んでいただけに、がっかりだった。

真面目なタイプで優しく、清もよく話しかけていたのだった。

ー人間、明日、どうなるか分からない。

辞める理由は健康上の問題らしく、長く休むと皆に迷惑をかけるからと、退職願を出したらしい。

「それで? どんなお花がいいですか?」

「え、花…? 俺、詳しくないのでどうしよう」

「私と一緒に見ていきましょうか」

店主は村山というらしく、ネームプレートが胸にあった。

「何歳くらいの女性ですか、男性ですか?」

「えっと…40代の女性なのですけれど」

「そうですか。それなら」

村山が動き、1本、差し出してくる。

「カキツバタはいかがでしょう? 花言葉で、幸運がくると言われているんですよ」

「カキツバタ…。幸運がくる。いい!! いいです、それで」

「はい、あとは…そうですね。デージーはいかがでしょう? 別名ヒナギクといって、花言葉は慰め、感謝です」

「この紅白の花ですか。へえ…可愛いですね」

「はい。お花はどれも美しく、可愛いです。…醜い人間よりも」

後半は小声で聞こえなかった。

清は香りを嗅ぐと、春の風を感じるような甘い香りを感じる。

「これ、お願いします」

「はい。あと1つお花を追加しましょうか」

「よろしくお願いいたします」

村山は口の下に手を当てると、「ああ」と呟く。

「フリージアはどうでしょう? 別名アサギズイセンといい、花言葉は慈愛、親愛の情といいます」

「慈愛…。あの人にぴったりだ!! 新人の俺にも優しかったんですよ!!」

興奮して言うと、村山がくすりと笑う。からかう笑いではなく、姉が弟を見るみたいな、そんな優しい笑顔だった。

「それじゃあ、これから花束を作っていきますね」

「はい。よろしくお願いいたします」

村山は花を選択していくと、カウンターに運んでいく。

包む紙は春の桜を思い出すピンク色で、長さや形を気にしながら作っていく。

「ーこんな感じでいかがでしょう?」

「わあ、素敵だ!! それでお願いします」

「はい。リボンをつけますね」

シルバーのリボンをくるりと回すと、村山はあっという間に花束を作ってくれたのだった。

「ーはい、どうぞ」

「ありがとうございます!!」

礼を言って受け取ると、香を焚いたようなふわりとした香りに包まれる。

ーこれなら、喜んでくれるかな。

渡す人の顔を思い出し、少し涙ぐむ。

清は感受性の強い人間で、感動したり、悲しいと思うと、すぐに涙腺が緩むのだった。

「すみません」

そう言うと、村山は背中を向け、ハンカチで涙を拭う。

清は仕事に慣れるのが遅く、よく叱られていたのだが、花束を渡す人だけが、一緒にランチに行ってくれたり、「大丈夫」と励ましてくれたのだった。

ーそんな人間、今、少ないのに。

良い人ほどいなくなると言うが、その通りだと思う。

清は涙を拭って振り返ると、村山は優しく微笑み、1輪渡してくる。

「おまけです。これは、あなたに」

「え…? 俺に?」

「スノーフレークといいます。別名スズランスイセン。花言葉は純粋、汚れなき心といいます。あなたをぴったりだと思って」

「い、いいんですか…?」

清が躊躇していると、村山はもちろんと明るく笑う。

「どうぞ。白い花はあなたの心みたいに、純粋ですから。汚れないように、ご注意を」

「汚れないように…か。あいつらのことみたいだ」

社内にいる憎い相手を思い出すと、清はふんと払いのける。

そいつが辞めればいいのにと思うのだが、社会は上手くいかないものである。

そういう相手に限って、しぶといのである。

ー仲間が1人いなくなるのは淋しいな。

もらったスノーフレークをいじっていると、村山は言ってくる。

「根本を水の含んだスポンジとアルミホイルで、花が萎れないようにしてありますが、どうか早く渡してくあげてください」

「あ、すみません!! ぼうっとして」

清は財布を出すと、会計を済ます。

「ありがとうございます。またお越しください」

「はい!! お花、ありがとうございました」

色も形も匂いも違うのに、花束は最初から団結していたように、包まれている。

ー俺も、仲間と団結しないと。

強く思うと、花をそっと持っていく。

「ーあ、そういえば」

「はい? 何でしょう?」

「あの、店名のストロベリーキャンドルって何ですか? 苺の1種ですか?」

「ああ、それなら」

村山が動き、赤い花を指差す。

「これです、ストロベリーキャンドル。別名ベニバナツメクサといい、花言葉は素朴な可愛いらしさといいます」

「この花が…」

苺を逆さにしたような赤い花であり、可愛らしかった。

「可愛いんですね。お店と村山さんにぴったりです」

「まあ!! ありがとうございます」

村山は純粋に喜んでくれたようで、清は嬉しくなってくる。

「また何かあったら来てもいいですか?」

「どうぞ。いらっしゃってくださいませ」

村山は店の外まで出てくれ、手を振ってくる。

清は何度も手を振り、別れを惜しむ。

ーいいお店だったな。俺にも花をくれるし。

枯れないように気をつけようと、太陽の光線から隠す。

「よっしゃあ!! 頑張るぞ!!」

顔を引き締めると、清はスキップするかのように、歩いていくのだった。


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