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ミズバシラ  作者: 高瀬凪
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【#6】乙女は可憐な少女を夢想する。




「まりん……良かった……本当に良かった……」

めぐは麻凛の細い体をきつく抱きしめていた。小柄なめぐに似合わないほどの力で締められ、胸が痛くなってきた。物理的に。

「いつの間にか街が沈んでて……まりんの家が見えなくなってたから……」

「お兄さんを呼んでくれたんだね……ありがとう、めぐちー」

震えるめぐの声を聞くうちに、いつしか麻凛の声も痙攣けいれんを起こしていた。寒さのせいか、それとももっと感情的なものなのか。それをぶち壊すかのように、後ろから「さ、蓮チャン、行こう。乙女たちの戯れにオレチャン達は不要だ」という張之助の言葉が届いてきたが、聞こえなかったことにした。横目で蓮が戸惑いながらこちらと張之助を交互に見るのが見えた。

「……てかめぐちー、お兄さんいるならもっと早く言ってくれればよかったのに……」

「えっ?」

めぐが涙を浮かべた顔を上げた。頬も赤くなっていた。

「いや、めぐちーにお兄さんがいるってわかったの今日だからさ、なんで今まで言わなかったんだろうって……」

めぐが一瞬キョトンとした。

「わかんないけど、多分たまたまだよ……それよりも本当に良かった……」

そしてめぐはさらに強く抱きしめてきた。やはり痛かったが、その痛みが麻凛に生を実感させた。

「……てか、麻凛、濡れなかった? 着替えたら?」

しばらく経った後、めぐが手を離して急に神妙な顔で言った。それで麻凛は自分の着ている制服を見た。もうかなり乾いていたとはいえ服の内側がごわごわしていたし、どこかに引っかけたのか、ブレザーの右腕部分が大きく縦に裂けていた。こちらを見てくるめぐを見て、顔が少し赤くなった。

「あ、うん……でも」

「わたしの部屋に来たらいいよ! 着替えならいくらでもあるから!」

完全にいつものテンションに戻っためぐは麻凛の手を引いて、自宅である暖河亭の廊下を駆け抜けていた。




延々と続く廊下の一番奥にある扉の先、さらにそこにある階段をのぼっていくと、めぐの部屋がある。前に来たときは裏口からこの隠れ家的な部屋を訪れたため、暖河亭でこれほど長い距離を歩いたのは初めてだった。裏口からなら、階段をのぼるだけで済む。

「服はタンスの中にあるから好きなの着てね!」

めぐはそれだけ言うと、白いドアを開けてすぐにその場を去ってしまった。めぐが部屋の外に出てドアが閉じられると、あとは静寂だけが残った。

だが、家族の安否もわからず、先程まで死にかけていたにも関わらず、麻凛の心臓は鼓動を速めていた。表情も少し柔らかくなっていたと思う。

前に来たときもそうだが、この部屋はまさに、麻凛が目指している「かわいい」が詰まった場所だった。左に目を向ければ、パステルピンクの壁紙に同一化するように配置されている本棚とタンス。右には麻凛の来訪を予期していたかのように机の上に移動させられたぬいぐるみ達の社交場。その円の真ん中で皆を盛り上げているように見える猫のぬいぐるみは、きっとめぐだろう。自分は───円の外側にいる熊がお似合い、といったところだろうか。

……。

こんなことをしている場合じゃない。

麻凛は気を取り直してタンスを開け、めぐの服のストックを確認した。卵色のセーターに薄紫のコート、若葉色のポロシャツ。どれも柔らかい色だった。それで満足げに頷いた。めぐは何を着ていたか。そうだ、確かこの壁紙と同じ薄桃色のパーカーだ。

しかし、もう良い匂いのするタンスの中には薄桃色の服はなかった。ペアルックということはできないようだ。代わりに、水色のパーカーを選んだ。

ズボンは困ったことに半ズボンしかなかった。麻凛がいつも家で着用しているような長ズボンは全く見当たらなかった。そういえばめぐも半ズボンをはいていた気がする。麻凛は白い半ズボンを選んだ。足を通すと、一層寒く感じられた。スカートだって足を出しているのに。

靴下はすぐに決まった。黒をベースにくるぶしの少し上あたりにハートが描かれているものだ。

最後にタンスの右に隠れていた姿見を見て、小さくガッツポーズをした。

……しかし、この後どうすればいいのだろう?


「え! まりんかわいい! 似合ってるよ!」

どうやらめぐは部屋の外でずっと待っていたらしく、麻凛が戸惑いながら部屋から出てきたところに陰から出てきて彼女を驚かせた。そして麻凛が怒る暇もなく、黄色い声を次々と飛ばした。

「え、わたしよりずっとかわいいよ! まりん! もうその服あげようか?」

「え、いや、そこまでしなくて大丈夫だよ……! それに、めぐちーの方がずっとずっとかわいいよ!」

「えー、そんなことないけどなあ……」

そうして2人で少しばかり互いを褒め合う時間が続いたのだが、しばらくしてめぐが何かを思い出したように、あ、と言った。

「そういえばさ、まりん、『みんな』に会ってなかったね」

麻凛は首をかしげた。

「『みんな』?」

「うん。蓮くんとか、張之助さんとか……あとは……」

「「とーー!!」」

次の瞬間、麻凛の両肩に岩のように重い物がのしかかった。それで麻凛は膝を曲げて後ろに倒れ込みそうになったが、めぐがとっさに手を掴み、それは免れた。

「ちょっと、めぐねえ!! じゃましないで!!」

「いやいやいや、駄目でしょ、愛鈴えりん佳鈴かりん!」

え……「まりん」? いや…聞き間違いだ。

犯人は女の子2人だった。背が低い。多分小学校低学年くらいだろう。黄色のセーターに白いスカートと、麻凛ができなかったペアルックをしていた。

そして何よりも、顔が似ていた。間違い探しの絵のように。どうやらジャンプして麻凛の肩に手をのせたみたいだった。

「えっと……この子達は?」

靄然あいぜん愛鈴と佳鈴。小学2年生の一卵性の双子だよ!」

「「へっへーん!」」

2人の女の子が腕を組んでこちらを見た。

これは……2人とも、わんぱくすぎないか?

麻凛は2人から出てくる謎の力に圧倒されていた。

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