しゅっぱつ!
「パパラパーラーリリーリーパッパパッパ──!」
喇叭は吹けないので、口で歌ってみたセリの隣で、ポポが肩を揺らして笑ってる。
ポポ戦艦は生まれ変わった。もう化石じゃない。最新鋭の機材を積んでる。ポポのおかげで!
食糧は持った。おやつも持った。肉まんも持った。お茶も持ったよ、準備万端!
楽しく肉まんを積み込むセリの隣で、ポポがあやしい真っ暗な箱を積み込んでいる。
「……それ、なに?」
「いひひひひ」
いけないものが詰まっていることは、理解した。
一億年前の古き良き流線型の船体は、渾身のセリの磨きでぴかぴかだ。艦長室の全面を覆う強化硝子も、透きとおってる。
硝子の向こうに透ける青空のうえに映しだされるのは宇宙図だ。航宙士席の前に広がる制御盤と壁面と強化硝子を、正常動作を表す青い光が駆け抜けてゆく。
「おぉお……! 最新鋭っぽい──!」
打ちふるえるセリに、ポポはちいさく笑った。
現在の宇宙船は全てを機械制御で航行できるようになり、強奪に遭いやすくなってしまうが全自動航宙も可能だ。必須の人力は航路選択くらいなので、ひとりでも宇宙の果てまで航行できる。
もちろん、セリの初航行は、ポポとふたりだ。
「核融合炉起動!」
凛々しいポポの声に、セリはふるえる指をポポ戦艦の制御盤に滑らせる。
「核融合炉起動! 動力回路正常、異常なし、本艦に動力充填開始します!」
「おお! 航宙士っぽい!」
ポポが手を叩いて喜んでくれる。どきどきする胸で、セリは笑った。
「ポポが、俺を航宙士にしてくれたんだよ」
「セリが頑張ったんだ」
もうセリよりちいさくなってしまった手が、頭を撫でてくれる。
くすぐったくて、照れくさくて、胸がぎゅうぎゅうするくらいうれしくて、熱い頬で笑った。
「核融合炉臨界! 動力充填完了です、ポポ艦長!」
セリの声に、ポポは首を傾げる。
「艦長はセリがよいのでは?」
「ポポが造ったポポ戦艦だ。
俺、ポポについてく!」
くしゃりとちいさなポポの顔が歪んだ。
ちいさな唇が、ふるえてる。
「……特大の、うれしいじゃ」
揺れる青い瞳で笑うちいさなポポを、ぎゅうぎゅう抱きしめた。
もごもごしたポポの頬が、ふうわり朱い。
「ではセリ、宇宙へと旅立とう」
「はい、艦長!」
ふたりの指が、宙を指す。
「蒼星宇宙局に通信、こちらポポ戦艦、現在地座標送信、只今より蒼星より離陸します!」
なめらかに繋がった通信の向こうで、白い制服の胸に徽章をつけた宇宙局員が困ったように眉をさげた。
『……ポポ戦艦……? ……航宙士に問う。……目的地は?』
ポポと顔を見合わせたセリが、吹きだして笑う。
「はじめてだから、ちょこっと蒼星の周りを周遊?」
眉をあげたポポが、ちいさな拳を掲げた。
「折角だから夢は大きく、新規航路開拓と行こう!」
「蒼星宇宙局、こちらポポ戦艦、新規航路開拓に向かいます!」
『いやだから行く場所の座標と航路の詳細な計画を提出して──食糧は持ったのか!』
わたわた心配してくれる局員に、手を挙げる。
「目的地座標と航路を提出、肉まんも積んで万端です! 離陸します!」
ずっと行きたかった、もふもふに進化した人類がいるという星系への航路を、さくっと送信したセリの笑顔に、局員はちいさく笑った。
『初航宙の無事を祈る』
「ありがとう! いってきます!」
ずっと飛び立ちたかった星を背に、ポポ戦艦が青い光を放ち起動する。
「推進機構起動! 動力25!」
「推進機構起動! 異常なし、起動します、動力25! 衝撃まで10!」
「均衡維持装置起動!」
「均衡維持装置起動! 正常動作確認、衝撃まで4!」
この間はもうこのあたりで、あぎゃギゃギャになってたけど、今度こそは!
「3!」
どきどきする。
「2!」
口から心臓が出そうだ。
「1!」
さあ!
「しゅっぱ──つ!」
ふたりで手を繋いで、宇宙を見あげる。
ガゥウン──!
青白い炎をあげ、ポポ戦艦は飛び立った。
宙へ。