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【完結】ポポ戦艦、発進!  作者:  0 
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あぎゃぎゃ




「あぎゃぎゃぎゃギャァアぁあァアア──!」


 はじめての宇宙への旅は、爆発しそうな振動に、やむなく中止された。


 セリがゴミ捨て場から拾ってきた機材がポポの苦闘により引っ張ったり縮めたりしてくっつけられた、あちこちつぎはぎだらけの一億年前の化石船は、蒼星から飛び立とうとするだけで崩壊しそうだ。


 煙が出てる

 焦げくちゃい。


 ボコンと落ちたガラクタが、火を噴いた。


「おっかしいのー、飛べるはずなんじゃがのー」


 ばっさばっさに逆立ってしまった髪で宇宙船を直してくれるポポだけが頼りだ。


 ふたたびゴミ捨て場を漁る前に、セリは実務経験を二年積む研修先を登録に宇宙局へ赴いた。


 遺跡しかないおんぼろ星で唯一の近代的な白亜の建物で、大陸にひとつの陸都に聳える。宇宙船の登記や航行の制御、宇宙図の作成、新規航路開拓や新規惑星入植など、宇宙に関わるすべてを司る機関だ。


 宇宙航行の許可などは通信で行えるが、登記の際だけは出頭を求められ、個人の遺伝子情報とともに宇宙船や資格、就職先を登録してくれる。起業する申請も宇宙局だ。

 陸都に行くのは孤児院から街へ出れば陸都行の高速船が空を飛んでいる。一刻で到着だ。


 ピカピカの宇宙局に怯むことなく、セリは誇らしく事業者名を書きこんだ。



『ポポ戦艦』



 えへん。反り返る胸で、白い制服の胸に徽章が輝く職員に提出する。


「……ポポ戦艦……?」


「戦艦って、宇宙警察しか持ってないんじゃ……」


 戸惑う宇宙局員に、セリは拳を掲げる。


「乙女の夢です!」


 顔を見合わせた職員たちは、半笑いだ。


「な、なるほど」


「……まあ、自営業はなんて名をつけてもいいからさ……」


「戦艦ってのは、通すと俺らが叱られるんじゃ?」


「自営業のおんぼろ船で、戦艦なわけないだろ」


「ほら、少女戦隊とか、ああいうのだよ」


「あぁ、あれね」


 生温かい微笑みに見送られ『ポポ戦艦』は登記された。






「ポポ、申請してきたよー!」


 誇らしく胸を張って電子証明書を呼び出したら、ぼさぼさの髪のままのポポが、ひきつった。


「……ポポ戦艦……?」


「かっこかわいー名前! 最高!」


 踊るセリに、青い目が遠くなる。


「……ポポ戦艦……」


「ほしい物資があったら、遠慮なく言ってね!

 実務先をポポ戦艦に登録しておけば、よそで派遣でも働けるって教えてくれた。お給料もちゃんと出るみたいだ。ゴミ捨て場を漁らなくていいよ!」


「おお! やっぱりのー、推進機構をガラクタで組んだのが、やばかったと思うんじゃ」


「均衡維持装置がガラクタ製だから、ガタガタするんじゃないの?」


「セリ、それを言うなら、ぜぇんぶガラクタ製じゃ!」


 青い目が遠い。


「そ、そんなことないよ! 一億年前の化石でも、ポポ戦艦はすごい船だよ!」


 拳を握ってみたセリに、ポポは首をかしげる。


「セリは戦艦に乗りたいのか」


「酷いことする輩をぽこぽこにするの、かっこいー!」


 くねくねするセリに、ポポは肩を揺らして笑った。


「自衛のためにも必携じゃからのう、ふむ、ちょこっと積んでみるかのう。

 セリ、踏ん張って稼いでくれるかえ?」


「頑張るよ! ポポのおかげで、俺、もう一人前だから!」


 胸を叩いて、笑った。






 ポポ戦艦を今の宇宙を飛べる船にするため、セリはあちこちの企業の短期派遣募集に片っ端から応募し、地上任務で懸命に働いた。


 宇宙船の不浄掃除から外壁にこびりついた汚れ落としも精密機器の埃払いも、洗濯、調理、精密機構整備、核融合炉調整、宇宙図で航路確認まで、苦手なものこそ喰らいついて働いた。


 常が宇宙勤務な航宙士は、たまの地上勤務の宇宙船整備でも衣食住を支給してくれる。給料から経費を天引きされることもあるが、おまけしてくれるところもある。

 月にひとつ、大すきなお菓子を買うだけで、給料の残りはすべてポポに渡した。


「ポポ、最近ちょこちょこ内職してるよね。ごめんね、俺の稼ぎが少なくて」


 しょんぼり肩を落とすセリに、ごそごそしていたポポは笑った。


「これはのう、セリが戦艦に乗りたいというから、ちょこっとな。

 ほら、必殺兵器があると楽しいじゃろう」


「ひ、必殺兵器!?」


 期待にはち切れる胸で跳びあがるセリに、声をたててポポは笑った。


「一億年前の化石じゃが、わしを造っておったここには、やばい施設が集まっておるでな。できるか解らんが、やってみようと思っての」


「応援するためにも、俺もっと働くよ!」


「無理せんでいい。身体を壊しては大変だ。それにな」


 セリが渡したお金を見つめたポポは、わるい笑みを浮かべる。


「元手があるということは、投機ができるのう。イヒヒヒヒ」


 笑ったポポは現代ではありえないすさまじい人工知能の能力を遺憾なく発揮した。

 株を売買する速度も金融市場と宇宙情勢を読む速度も処理能力も、量子計算機を操る人間さえ遥かに超えた。


 あぁっという間にガラクタ製ポポ戦艦が、宇宙船らしくなってゆく。


「ポポ、すんごい!」


「むふふふん」


 胸を張るポポの手によって、化石だった宇宙船は、見事に現代の宇宙船へと変貌を遂げた。



「今度こそ、宇宙に出発じゃ!」


「おおー!」



 重なる拳に、わくわくする。










ずっと読んでくださって、ありがとうございます!


どうしても書きたくなった宇宙戦艦のお話なのですが、読んでくださる方がいらっしゃることに、ブックマークしてくださった方に、感謝の気もちでいっぱいです。

ありがとうございます。


セリとポポの宇宙旅行を一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。




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