いっしょに
泣きながら合格した試験だけれど、セリの身分はまだ航宙士研修生だ。
研修生に施される航宙士訓練を終了し、実務経験を二年積んではじめて、正式に航宙士として認められる。
「2年もポポと離れるなんていやだよー!」
泣いたセリに、ポポが胸を張った。
「わしは起業しようと思う!」
セリの顔が、ひきつる。
「……起業って、借金苦と冒険と危険と涙と借金苦と借金苦だぞ!」
宇宙船を購入するには莫大な費用が掛かる。ふつうそんな手持ちはないので、借金に踏み潰されるのが、起業だ。
ひとりで自由気ままな宇宙の旅とか、新規航路開拓の冒険とか、開拓できたら大儲けとかが吹き飛ぶほどの借金苦が待っている。
「おっきなところで研修を積んだ方がいいんじゃないかな」
「行きたいところがあるのか?」
首を傾げるポポに、セリはうなる。
一番安定していて最も人気の高いのは、星属航宙士だ。冒険はないが、ほぼ潰れない。
次に安定していてそこそこ人気なのは、企業航宙士だ。冒険か安定かは企業による。宙賊に襲われて、突然倒産することがあるので注意だ。
最もおすすめできない就職先は、宙賊だ。捕縛も裁判も何もなく、問答無用で爆撃される。宇宙法にも書かれている。『宇宙で爆発したい人だけが宙賊になってください。発見次第、即刻撃ち落とします』って。
『危険大すき!』『宇宙船を爆撃したい!』攻撃的な人におすすめなのが宇宙警察航宙士だ。超絶技巧な宇宙船操縦術を求められるため試験は最難関だ。爆撃するだけでなく結構爆撃される。
「星属と警察は、試験に通らないと思う。滑りこめるなら企業かなあ」
「行きたいところがある訳じゃないんだな」
こくりと、うなずくセリに、ポポがちいさな胸を叩いた。
「一億年前の化石な船を、現代宇宙を航行できるように改造した! 借金苦はない!」
あんぐり口を開けたセリの鼓動が跳ねる。
「ポポならやっちゃうかなあって期待してたけど……やっちゃったの?」
「やっちゃったのじゃ!」
むふふんとポポが胸を張る。
「遺跡の宇宙船が、ぼよよよん起動が、まさか現実になるなんて──!」
セリよりも小さくなってしまったポポの手が、セリの手を握る。
「はじめて宇宙に飛び立つのは、セリとがいい」
セリの顔から、血が失せた。
「……はじめて?」
「はじめて」
「……爆発しちゃったりとか……」
「あるやもしれん」
残念そうに、うなずくポポの白い髪が揺れる。
「そ、そんなことになって、いいの? ポポ」
澄み渡る青の瞳で、ポポが笑う。
「セリと一緒なら、緊急脱出も楽しい」
目を見開いたセリは、ちいさなポポを抱きしめる。
「はじめて宇宙に飛び立つのは、ポポとがいい」
輝く夢を、現にする。
「ポポと一緒に、宇宙を見るんだ」