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【完結】ポポ戦艦、発進!  作者:  0 
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ポポ




「……死、んで、る……!」


 病衣のような白い服が、床にうつぶせに倒れたままの少女の白い髪が、砕けた硝子に彩られるようにきらめいた。


 息をつめ、そっとセリは、自分と同じ年頃と性別だろう少女にふれる。


 ──冷たい。息を、していない。


 ど、どどどどどうしよう──!



 生涯最大の危機に、セリは震えた。


 古代に英華を誇った蒼星の打ち捨てられた遺跡の奥で、七歳くらいの女の子が死んでいるのを見つけるだなんて、怪し過ぎる。


『ぼよよよよんと遺跡の宇宙船が起動して宇宙に飛び立ち、もふもふ獣人に進化したという人類に生で逢うのを夢見ていました』なんて、きっと誰も信じてくれない。


 死体を見つけたって言ったら、絶対、殺人犯にされる!


 わたわた腕を振り回したセリは、動かない女の子に目を落とした。


「……ごめん。ひどいこと思った」


 少女の傍らに屈んだセリは、硝子の粉にまみれた白い髪を、そっと撫でる。つややかな髪を整え、ちいさな身体を仰向けにし、お腹のうえで手を組ませてあげようとしたセリは初めて、異様なことに気づいた。


 遺跡というのは、大変、大変おんぼろで、天井なんて穴だけらで、陽の光が降り注ぐのは当たり前だ。遺跡のなかで目が見えるのは不思議でも何でもない。当たり前だったから、気づかなかった。


 この遺跡に潜り込むためにセリが通ってきた細い道は、真っ暗だった。天井があったのだ。

 なのに今は、目が見える。外に降る春の陽も風もないのに。


 そうっとセリは天を仰ぐ。藍に澄んだ天井の切れ目に、わずかに青い光が走っていた。


「……生、きて、る……?」


 動いている遺跡を、初めて見た。


 ……ちがう。

 ──これは、遺跡なのか……?



 誰かが森の奥に泊めた宇宙船で、セリは不法侵入者になってしまったのかもしれない。


 ──この子はもう、死んでいる。セリにできることは、何もない。何も見なかったことにして、はやく、ここから出なくては。


 立ちあがろうとしたセリの手を、冷たい指が、握った。


「ぎゃあぁアァアアあァアアア──!」


 振りほどこうと暴れるセリの手を、驚くほどの力で掴んだ少女が目を明ける。

 透きとおる青の瞳が、セリを見た。


「ひぃイイイいい──!」


 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったセリが後退ろうとするのを見つめた青の瞳が、瞬いた。


「おはよう」


 澄んだ硝子のような声だった。


「し、しししし死んでたのに、生き返ったぁアァ──!」


 あばばばするセリに、起きあがった少女は長い白髪を揺らした。


「ふむ。全身点検完了、正常動作確認」


 青い目が、赤い光を発射する。


「ぎゃあぁあア──!」


 撃たれたかと思ったが、光はセリの身体を撫でただけだった。


「そこもとは生粋の蒼星人じゃの。七歳か。今は蒼歴何年かえ?」


「……は、はちじゅうななねん……」


 怯えながらも答えたセリに、立ちあがった少女は、ぱふりと衣の裾を払う。硝子の粉が落ちて、虹のひかりを振りまいた。


「略さずに言えるかえ?」


 セリは孤児院で教えてもらった蒼歴を思い出した。


「四、七億、五、九六二万、九九八七年……?」


なご黒に九九花』の語呂合わせで覚えたような気がする。


「うひょお。一億年眠っておったか。眠り過ぎじゃの」


 カカカカカ、豪放に少女は笑った。


「……あ、あのう……あ、俺はセリ。蒼星の孤児院で育ったんだ。き、きみは……?」


 礼儀として先に名乗ったセリは、聞きたいような聞きたくないような問いを口にする。


「一億年前に死んだ天才幼女の脳と当時の最新鋭科学によって構築された、天才幼女機構じゃ」


 ふふんと胸を張る幼女に、セリはそうっと口を開く。


「……機械、なのか……?」


「そうなるの」


「な、名前は?」


 カチカチカチ。かすかな音をたてた少女の瞳がくるりと回った。


「ない」


「どうして!」


 目を剥くセリに、少女は吐息する。


「104937というのは、名ではないじゃろう」


「……ごめんなさい」


 頭をさげたセリに、少女は笑う。


「折角じゃ、名をつけてたもれ」


「お、俺がつけていいの?」


「一億年ぶりに、わしを起こしてくれたよしみじゃ」


 青い瞳で、少女が笑う。

 生きた人ではないと、機械なのだと信じられなくなる、やわらかな笑顔だった。


「ポポ!」


 胸を張るセリに、少女はあんぐり口を開ける。


「…………はえ……?」


「ポポ! めちゃくちゃ可愛い名前だ!」


 機械なのに、透きとおる青い目が、遠くなってる。


「……人選、間違えたの……」


「よろしくな、ポポ!」


 さっきはあんなに恐ろしかった、冷たい指を握る。


 セリの指を握りかえしたポポは、まるで機械らしくなく、照れくさそうに笑ってくれた。







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