95
「リリベル、確かマラカス1世は女神の夫になるのが嫌で、この国に逃げて来たのだったろ?」
伯父の言葉にリリベルはハッとする。
「そうか!じゃあ爺様の父上も北の女神の夫になりたくなくて?」
「そうなんだろうな」
「村長、それで王子は?」
「ああ、それで王子は妻の冥福を祈りながらバスタブが2歳になる頃に亡くなったな」
「村長!彼は娘のことは?オリベル王女のことは何か言ってなかったか?」
「娘もいたのか。俺は初めてそれは知ったから言ってないかもな。バスタブは姉の存在を知ってたか?」
「私には父も母も兄弟もバカンス3世達だけさ」
「村長、王子のお墓はどこに?」
「領内の共同墓地だよ。彼は自分はこの子爵家の系譜に入れないでくれ。子爵家に迷惑をかけるから、ただの村人として葬ってくれと言ったんだ。本当は妻と一緒に墓に入りたかっただろうな。だが王女の墓は流石に無理だろ」
「村長!彼から貰った宝石はどこだ?持ってるか?持ってるなら売ってくれ王子の形見になるだろう?」
伯父が村長に縋る。
「え、あんたが形見欲しいの?バスタブは要らんって言ったのに」
「私は、私ならその宝石をきっと妻の墓に入れてやれる!売ってくれ頼むぅ〜」
また伯父が泣き崩れた。
ちょっとライ兄が泣き崩れる時と似てると思ってしまった。
村長から買い取った宝石は見事な大粒の水色の宝石だった。何カラットあるんだろ?アクアマリンかな?
まさかブルーダイヤじゃないよね?
伯父が「アクアマリンかブルートパーズのようだな」と言う。
村長はお金じゃなくて代わりの宝石を2個貰って「倍になった」とホクホクしてた。可愛い人だ。
伯父がそんなのポケットに何個も持ってるのもビックリだ。
伯父は「田舎や外国では貨幣や紙幣は使い物にならん。金か宝石だ」と言うが、知られたら誘拐されるぞ!と思った。
そして村長からは北の外交官達を、村ではなく貴族の屋敷で世話して欲しいと頼んできた。
伯父は父と爺様を見て「いいよな?」って言ってたけど、何がだろ?
父は「しゃーねーな」って言ってた。
貴族が剥がれているのは多分、リリベルだけじゃないな。父も分厚いのを被っているみたいだ。
リリベルはマラカス1世の日記も北の人に解読できないか頼んだ。村長は手帳を開いて「こんな昔のもん、まだあったんかー。わっ字汚な!」と言いつつ依頼を聞いてくれた。
村を去る時に伯父は村長に「あなたのお名前を聞いてもいいか?」と言うと村長は「俺はモバイル6世さっ」と言っていた。
その夜リリベルはタップリ寝て、ちゃんと回復してから早朝、礼拝に行く婆様と共に子爵領の神殿に向かった。
そしてアルテミス様と神官様に村で聞いた事情を説明した。
しかし今朝は普段より女性が多い。どうしたのか?と思ったらベルトラント様のせいだった。
さすが一番人気の聖騎士様だ。リリベルはもしかしたらマリィ姉ちゃんの任期終了の前に、彼は売約済みになってしまうかもと、ちょっと心配になった。
昼前には伯父を連れて野生馬の森に入った。
明日は王都に戻るから彼らにも挨拶しとかなきゃ。
伯父もオリベル王女の孫だから多分、大丈夫なはずなんだ。
「タロウ〜、ジロウ〜!」
リリベルと特に仲良くしてくれた双子の馬達を呼ぶ。
伯父が「ノースポール探検家の犬達の名前を付けたのか!」と呆れていたが、浮かんだのがその名前だったのだから仕方ない。
タロウとジロウは双子で母馬の出産が大変だったのだ。
ある日リリベルが爺様と竹の子採りで入った森で、他の馬に呼ばれて母馬のお産を助けたのだ。
それからリリベルも野生馬達に受け入れてもらってる。
ガサガサと音がしてタロウが出てきた。あ!お嫁さん連れてる!ジロウも。そう言えば父の手紙に“嫁が来た”ってあった。野生馬も近親交配が進んで数を減らしていたから、お嫁さんが来てとても良かったよ。
リリベルは持って来た野菜をあげる。爺様の野菜だぞ!伯父にも野菜を渡す。馬達は伯父をチラッと見たが多分偉い人は分かるんだ。大人しく野菜をもらって食べていた。
そして次の日、伯父とリリベルは爺様からのお土産のリンゴと野菜を抱えて馬車に乗った。
伯父は「近いうちに建築家と大工を入れるから」とご機嫌だった。子爵領に別荘建てる許可がやっと降りたらしい。湖の側に建てるぞ!と嬉しそうに言っていた。北の外交官家族を雇うんだって。
彼らも王都では顔を知られてしまっている。だからこの地の方が過ごしやすいだろう。
雇用は大事だね。




