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「爺様!」リリベルは懐かしい祖父の姿を見つけて走って行く。
「おぉリリか?帰って来ると聞いてたから。ほら!」
爺様は立派なキジを捕まえていた。林の中にワナを仕掛けていたようだ。
「爺様スゴいね」リリベルが目を輝かせると、
「白菜も大根もゴボウあるから今日はキジ鍋だぞ〜」と言った。
「爺様キノコは?」「今から採りに行くか!」
「わーい」
「なあ二人共、戻って来ないな」
「多分、ミイラ取りがミイラになったな」
「いつものことよ」
と言いながら婆様が椅子を揺らした。
冬の日の入りは早い。しかし日が暮れ始める頃に二人は何だか物をたくさん抱えて戻って来た。
「わりと早かったな」
「早い方なのか?」
「そうね。だって1時間くらいでしょ」
ベルオットはもう何も言うまいと思った。
ここは子爵領だった。
「たくさん獲れたな。キジ持つよ」「父様ありがとう」
「まあ今日はキジ鍋ね」
「ああ無事に獲れて良かったよ。おぉ前侯爵ようこそ」
ベルオットは立ち上がり挨拶をするが、やはりタンクトップなのか…と思った。冬なのに。
皆で屋敷に戻る。北の王子の件を聞きそびれたが、まあいいか。リリベルが祖父の横ではしゃぐ姿を見れば、後でいいかと思えた。だが確かに1時間でよくそんなにキノコを採取できたものだと感心した。
リリベルは夕飯の前にもう一度、父から渡されたマラカス1世の物らしい手帳を見る。北の言語は元々一つの国だったとされるので東と西、ほぼ一緒なのだが北は方言と訛りが強く聞き取りが難しい。
北の人はこちらの言語をほぼ聞き取れるらしいが喋りが苦手で互いに逆の事を苦手としている。
マラカス1世の日記は3年は続いているように見える。だが気が向いた時に書いているようで最後の日記は何だろう?カスタネット?呪いが〜??読めないだけじゃなく文章は最後まで書いて欲しい。
呪いとか気になるじゃん!大体、1ページ目から何て書いてるの?
「おいだば女神の婿さ嫌で捕まりだぐねがら女神の馬がめでけだ?」字も汚いから合ってるのか?ほぼ北の言葉だなこれは。
脱北者の人なら読めるかも。村人に聞く機会をもらわないといけないなとリリベルは日記を大事に仕舞った。
「あー本当に美味しい。鍋とすごく合う!」
父が米酒を飲んで絶賛している。
「確かザックさんが、うちの湧水で作りたいと言っていたアレか?」と爺様も米酒を飲んで「美味いな」とこぼした。
「お祖父様もお父様も気を付けて。米酒は美味しいから進んじゃうけど酔いやすいの」
「確かに進むな気を付けよう」
夕飯は皆でキジ鍋をつついている。大きな鍋でたくさんの具材を入れて煮込むのだ。
ララ姉がお土産にくれたショウユという調味料で味付けしたが、これがまたベストマッチング!
おたまでスープ皿によそってフォークとスプーンを使っていただくが、リリベルは箸が使える。
箸もララ姉ちゃんが家族分お土産でくれたのだ。
「まあリリベル器用ね。箸ってそうやって使うのね」と母が言う。
「お母様、学院で練習しました」と言うと、
「今はそんなマナーも教えて下さるのね。すごいわ。ねえお母様」と感心していた。
少し違うがまあいいかとリリベルは思った。
爺様は少し酒が入って弛み始めたか?とリリベルは祖父の様子を見て本題に入る事にする。
「ねえお祖父様、モバイル5世とカルピス2世、バカンス3世の中で誰が北の国の王子なの?」
伯父がガバっと顔を上げた。父も鋭く祖父を見る。婆様はお酒とお鍋で身体が温まったのか眠そうだ。
婆様いつも早起きだもんな。




