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さすが伯父の馬車だ。いつもの4頭立ての馬車なら王都から一週間かかる道のりが5日で着いた。
冬休みは2週間程しか無いから年が明けたら、直ぐに戻らないといけない。でも1年ぶりの子爵領に喜びの方が勝る。早く爺様、婆様に両親に会いたかった。
「皆、ただいま!」リリベルが子爵邸のドアを開ける。
「まあまあ!リリベルお嬢様、よくお戻りで」子爵家のメイドや下働きの者が出迎えてくれる。
「リリベルお嬢様?年末にお戻りになるって本当でしたのね」とメイド長が奥から出てきた。
「前侯爵様もようこそ。お疲れでしょう」と執事も迎えに出てくれた。リリベルはメイド長に、お土産のお菓子と恋愛小説を渡し、伯父と居間に向かう。
居間には母がいて「まあリリお帰りなさい」と出迎えてくれた。
「お父様は?」と聞くと、間もなく婆様の神殿の礼拝から戻って来るらしい。婆様は相変わらず信心深いのだなと思っていると、ちょうど父と婆様が帰って来た。
「リリベル?まあよく帰って来たわね」
「お祖母様、お元気でしたか?こんなに寒い日も、まだ礼拝を欠かさないのね」
「フフフ。サボると気持ちが悪いのよ。もう習慣だから。あなたの健康も毎日祈っているわよ」
「ありがとうお祖母様。お祖父様は畑なの?」
「ええ。私も休憩したら向かうから一緒に行きましょう。前侯爵様もようこそ。お疲れでしょう?ぜひご一緒に休憩致しましょう?」
「それは光栄ですな」伯父も祖母が大好きだ。
父も馬車を御者に頼んで戻ってきた。
「リリお帰り、兄上も」「ああベルまた世話になるよ」
「で、今回は何?リリまで」「その言い方!」
「全くだよお父様、子爵家の秘密たくさんあるでしょ!」
「別に秘密にしてはいないが?何が知りたいの?」
「ねぇお祖母様、お祖父様のご両親ってご存知ですか?」
「さあねぇ。私がここに来た時はもうお二人共お亡くなりだったのよ。それにご兄弟もいなそうだったわ」
「そんな事、聞きに来たのか?」
「お父様、実はオリベル王女の実のお父上は子爵家で最後を迎えたみたいなの。しかも王妃様と続いてたらしいと聞いたのよ」
「それは初耳だな。誰だろ?モバイル5世か?カルピス2世?バカンス3世辺りか〜」出た!またその変な名前。
子爵家の先祖は少しおかしいとベルオットは思う。それにやはり名前を覚えているのか?
「なあベル。バスタブ1世はなぜ出てこない?」
爺様がジュニアなら1世は?
「それは…」婆様の顔が曇る。父が立ち上がり、
「義母上、大丈夫です。後で兄には僕から」と祖母に寄り添う。
「そうねお願いね」父も大概、婆様が好きだな。
母がお茶のワゴンを押して居間に戻って来た。うちは使用人が少ないから普通に自分達でお茶を淹れる。
「お母様、リリとお義兄様が王都の美味しいお菓子をお持ちくださったのよ」
父はどこかホッとしている。
バスタブ1世の件は母には内緒なのかもしれない。
「ねえお父様、他に私達兄妹が知らなそうな事で何か言ってない事ない?」
リリベルは聞いてみる。
「お前は子爵家を継がないからな〜」「えっ何それ?!」
「聞いたら継がないといけないぞ?」
「ダメだ!ナル兄が継ぐでしょ!?」と言ってリリベルは慌てる。
「ベルモント!」お祖母様の厳しいお声。
「ハハハッ。リリごめん。冗談だ。でも何に関してか言ってくれれば話すけど」
「父!後で拳で勝負だ!」相変わらず父は本気でムカつく!
「えー父は歳取ったから、もう辛い。ごめんリリ勘弁な」このノリ!誰かさんと似てる!ナル兄か!殿下か!どっちもだ!
「リリベルはまだそんな事をしているの?令嬢が拳だなんて」お祖母様がいた!忘れてた。
でも婆様にも反撃してやる。
「お祖母様、ご実家の伯爵様がお祖母様に会いたいみたいですよ」リリベルが流し目で言うと、婆様は、
「あら?今は誰が当主かしら?」とシレッと言う。
「お祖母様の妹さんみたいですよ」と言うと、
「まあ、だったら連絡取ってもいいかもしれないわねぇ」と仰った。
そして「伯爵家の野郎共は爺様の事を、田舎者の色大根とか結婚詐欺師とか、偽貴族の男娼とか言いやがったのよ!」とフィナンシェを握り潰している。
ヒェー!婆様の暴言初めて聞く!おっかない!
「それは許せないな義母上」「確かに許せんな夫人」
父!伯父も大概だな。絶対思ってないだろ。




