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王妃様は「あなたは驚かないのね?」と仰ったが、リリベルは「別にどっちの子孫でもいいので」と正直に言うと、王妃様はクスッと笑って「あの野生馬は気性が荒く性格が悪いでしょう?」とそう仰った。
リリベルが「その通り!」と目を見開くと、王妃様は「ユニコーンは純潔の証でしょう?だから繁殖はしなかったのよ。北での言い伝えでは性格も穏やかで大人しい馬だったそうよ」と仰った。
確かにあいつらは穏やかさとは真反対の馬だなと思っていると、
「だけどスレイプニルは違うの。戦う馬だから気性も激しくて荒々しいし、従う人間を見るのよ」と仰った。
まさにそうだ!と思ったリリベルは「王妃様はよくご存知なのですね」と言うと、王妃様は子爵領と野生馬を取り戻すのは北の悲願に近いから王族の教育に必ずこの内容が盛り込まれるのだと仰った。
そして「長い歴史の中で西でも東でも、随分と伝わっている内容が違うでしょう?」と仰った。
確かに西には北の国は少しイメージが悪いように伝わっている気がする。神殿で聞いた話は特にそうだ。
だが王妃様の話が事実なら野生馬に関しては神殿で信じられている話を書き換えないといけないだろう。
更に王妃様はリリベルに「オリベル王女の本当の父親である北の国の王子は、その後どうなったか知っている?」とお尋ねになった。
それはリリベルが聞いて良いことなのだろうか?と考えていると、王妃様が「あなたはアイザックと仲が良いそうね?」と話を変えた。
それは絶対、言われるかなとリリベルは思っていたから、
「学院で同じクラスなので第三王子殿下の側近をしています」とお伝えした。
王妃様が「令嬢なのに?」と仰ったので、それはこっちのセリフです!と思ったが「殿下の令嬢避けだそうです」とこれも正直に言っておいた。
王妃様は「あの子は王家の特徴を受け継いだ容姿をしているでしょう?だからあの子を産んだ時、私はやっとこの国の人間と認められたのだと感じたの。だからあの子のこと宜しく頼むわね」と仰り、リリベルに青薔薇の鉢植えを一つくださった。
「あなたは緑の癒し手なのだそうね。唯一残した最後の鉢なの。あなたにあげる」と仰って。
そして王妃様は立ち上がり、公爵を連れて去り際に、リリベルにそっと耳打ちをされた。
「もしかしたら王子の肖像画があなたの領地にあるんじゃないかしら?彼は王妃とは終わってなかったの」と爆弾発言を落として去って行かれた。
リリベルはしばらく青薔薇の鉢を抱えて呆然としてしまった。
「ちょっと、あなた大丈夫?リリベル嬢?」と言われてハッと我に帰る。
お茶会のテーブルにはリリベルと王太子妃様だけが残っていた。
「一体、王妃様に何を言われたの?」
と聞かれたので「いえっあの青薔薇を大事にと…」リリベルは慌てて嘘をついた。
「そう。あなたの家はまさか北の王家の流れを汲んでいたとはね」
「王妃様の話を全て信じられるのですか?その…疑うのは無礼だとは思うのですが」とリリベルが消極的に言うと、
「今回の茶会の機会は王妃様から、あなたが北の隣国に迷惑を掛けられた事と、それをあなたが賢く対処したことに対する労いなのよ。最後の青薔薇もいただいたでしょう?嘘を語る理由も王妃様には無いわ。北との決別も決められたのだし」と。
そして「王妃様の茶会に呼ばれた貴族は、ほとんどいないわ。光栄に思うことね」と仰った。
北の王子の件はさておき、野生馬のことは神殿にも、あと一応、父にも報告しておくかと、リリベルは王太子妃様に挨拶をして城を辞した。




