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「北の防御壁に意図的な接触と攻撃があったと?それで北の外交官達の様子が気になっていた。そういうことですか?アイザック殿下」
「そうだ義姉上。多分、母上に配慮して俺たちにはまだ知らされていない」
何て事だ!マレシアナは溜め息を吐きながら額に手を当てる。
自分が妊娠を理由に政務をサボっている間、そんな事があったなんて。 恐らく以前のように、表でバリバリやっていたら自分にも報告が絶対上がったはずだ。
今では王族に上げるべき情報はほぼマレシアナが管理していると言ってもいい。
それを第三王子から聞くなんて。
恐らく子爵令嬢が殿下に相談していなければ、自分達は今も知らないままだったかもしれない。
宰相に掛け合っても、もっと北の関与が決定的になってから伝えるはずだったと言われるだろう。それでは遅い。
残念ながら王族はカテリーナ様によって、重要な事は決定権が無く後回しにされるようになった。もちろん王族の影響力は大きいので無視はされないが、今回の事も、まだ不明点が多い段階ではあるのだろう。
そう、ただ国境の子爵家はそうはいかない。
しかも聖女の実家でもある。リリベル嬢の性分では出てくるのは当然だろう。むしろ同席も必然だったのではと思う。
「アイザック様、あなたは北の外交官達に何か違和感を感じましたか?前回と違うところとか」
「義姉上、考え過ぎかもしれないが文官が春より多かったんだ。だが、その文官も半分は騎士だったんじゃないかなと思う。文官の制服の上から見ても体格の良い者が複数いた。ただ目的は分からない」
「そう」「あと母上に特別な贈り物をすると言っていた。それぐらいかな」
「他の人の意見もすり合わせてみないといけないわね。宰相と外務大臣に面会するわ。連絡を取ってくれる?」
マレシアナの侍女が直ぐに「かしこまりました」と動く。
「アイザック様はリリベル嬢にも気付いた事がないか聞いてみて下さい」
「分かったよ。義姉上」と言って別れた。
放課後、リリベルはザック殿下とまた王族のサロンに来ている。
生徒会長と今日はフィリップ様が一緒だ。
やっぱ変装してても参加してるのバレてましたかね?
「リリベル嬢、北の外交官達を見て何か気付いた事はあるか?」
おっと単刀直入だな。変装して参加したことは怒らないの?リリベルが黙っていると、
「変装も俺に黙って参加したことも怒らないから」
言質取りました!
「前回を知らないから、今回の事がおかしいのか分からないけど、文官に変装した騎士達に違和感があった。あと家族を毎回帯同しないのは人質になってないか心配になった。それと「ちょっと待って!メモする」
「ザック様、メモは私が」とフィリップ様が仰った。
「それと彼らが乗って帰る馬車の護衛騎士も馬車に対して多いんじゃないかと思った。そして馬なんだけど、白馬が多いの。全部杞憂かもしれない。でも外務大臣補佐官のエリオット様には全て伝えてあるよ」
「そうか、ありがとう」リリベル嬢は彼らの馬車まで見に行ったのか。
「ねえザック殿下、王妃様に特別な贈り物って何を想像する?」やっぱりそこも気にかけたか。
「さあ、母上はあまり北の外交官達に興味が無いみたいだ。お土産のお菓子も直ぐに他にばら撒くんだ」
「殿下、青薔薇は?王妃様は青薔薇を嫁いだ時に持参してきたんでしょ?青薔薇は大事にされてないの?お誕生日月に咲かせるって庭師さんも言ってた」
「ああ、咲いたら母上の所に運ばれているみたいだけど」
「青薔薇を使ってお茶会とかしないの?北のアピールになるでしょ?」
「しないな。母上はあまり自分で何かをしない。公爵がいつも助けてくれてるし、今はほとんど義姉上に任せている」
王妃様って何か不思議な人だ。納涼祭で見かけたきりだが王太子殿下と同じ派手な金髪だったことしか覚えていない。
でもまあ王妃様はどうでもいいや。
「それよりザック殿下、もう少ししたら多分もっと分かることがあるよ」
「?、リリベル嬢、それは…」
生徒会長もフィリップ様も「どういう事かと」リリベルに注目する。
「私には騎士団にも聖騎士団にもコネがあるからね」
さすがのエリオット様も今回は後手に回っただろう。




