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クラスの男女比率はどのクラスも男子が多い。貴族女性は男性に比べると一般的に進学意欲が高くなく、早くから高位貴族の家に淑女見習いや王族の侍女見習いに入っている事も多いからだ。
「貴族は全員、貴族学院に進学するものだ」と父に言われて、うちの兄妹はそうなんだと信じていたが実は違ったのだ。
すっかり父に騙されていたぜとリリベルは思う。でも知っていたらリリベルは間違いなく進学せず子爵領に残っていただろう。
そもそも何で姉や兄があんなに警戒する王都の学院に行かねばならないのか?行かなきゃ警戒も要らないのに。
我が家の方針はイマイチ分からんなとリリベルは思った。
特に下位貴族の女性は早めに進路を考える傾向が強いから4組、5組の女子はもっと少ない。
だから令息の練習に令嬢は何度も付き合うことになる。しかし、いくら何でもこれは難しくないか?
「リリベル嬢!相手を頼むよ!」3方向からいっぺんに言わないでくれるかい?「手は2つあるが相手は一人しかできんだろ」と思っていると、シャーロット嬢が
「リリベルさんのお相手は、あなた方じゃないわ。私がお相手するわ」と3人を連れて行ってくれた。
「おぉ、ありがとう!」シャーロット、たまには役に立つんだな。いや役に立ってない!!いつの間にか殿下が隣りでエスコートの手を出していた。やっぱその手、エスコートだよね?
3度見したところで殿下のスマイルに変化が起きそうだったから、恐る恐る手を乗せてみる。
本来なら自慢するところだろう。だって王子様だよ。「殿下にエスコートされちゃった!」って、小説の中のヒロインなら浮かれるところだな。
でもリリベルの心はホラーだ。ダイアナ様以外の侯爵令嬢や伯爵令嬢が睨んいでる気がする。
「シャーロット!もう一度戻って来て!」いやアイツは逆の立ち回りだった。
リリベルは心を無にする。
エスコートの練習には種類がある、普通に歩く時、階段の昇り降り、馬車の乗り降り、ドアの開け閉め、食事の席の着き方等々、男性は大変だね。
でも女性側も知っていないとスマートにエスコートを受けれない。女性もこの授業で新たに学ぶマナーも沢山ある。
で、今、殿下にエスコートされようとしているのは、初歩の“普通に歩く”だ。これは男性がエスコートする女性のペースに合わせて歩くのだが、“急ぐ” “反対から人が来る” または“自分より高位貴族とすれ違う”とか応用編が色々あって、心配な人は事前にマナーの教科書を読んでおかないといけない。
殿下の場合、“自分より高位貴族とすれ違う”は、ほぼ無いなと思っているうちに終わった。
なんせ教室なので10メートルも歩いたら終わるのだ。しかし良い汗かいたわ。冷や汗というやつだが。
あっちではシャーロット嬢が3人の令息達のマナーを仕込んでる。謎の発言さえ無ければ実はすごい人なのかもしれない。