61
今回の生徒会主催の講演会にはマリィ姉ちゃんの伝手で、なんと聖騎士様に学院に来て頂くことになった。
しかも三人もだ。神殿!奮発してくれたのね。次の休みは神殿の手伝いに行こうとリリベルは固く心に決めた。
講演会会場は入学式などもあった学院の講堂の大ホールだが、もうすでに人で溢れ返っている。
まさかの入場3時間前から並ぶ席取りの強者達もいた。実は誰が来てくれるのか事前に大体明かしてあった。
年配のベテラン騎士様と独身の若手騎士様、そして女性の騎士様だ。これは保護者からも講演会の入場はできないのか問い合わせもあったくらいだ。
生徒会のイベントは残念ながら対象は学生だけだ。しかしこの反響を前にして生徒会では様々な対策を立て直さねばならなかった。
警備以外に学生の誘導と整理、熱烈ファンの暴動も防がないといけないし、個人的なプレゼントやサインなどは事前にお断りを告知し、希望者は寄付をするという形で神殿から借りた寄付金箱を数カ所設置することにした。
生徒会長、ザック殿下、リリベルの3人で学院の裏口から静かに聖騎士様方をお迎えする。
「リリベルちゃん」「キャー!トルテ様だぁ」二人で抱きしめ合う。
「おいコラお前が一番騒いでるだろ」ザック殿下がお怒りになる。
速やかに講堂の控室に移動して、マレシオン様が生徒会長として挨拶をした後、聖騎士様方も「呼んでくださってありがとう」とにこやかにザック殿下にも挨拶なさっていらした。
リリベルもニコニコで側に控えている。
ベテランの聖騎士様は日に焼けた、ちょいワル風のイケオジだ。カッコいい。独身の若手聖騎士様は今年騎士になったばかりでトルテ様に付いてリリベルの子爵領に行っていて昨日戻ったばかりらしい。そんなお疲れの中来てくださるなんて!
リリベルはふと気付く「騎士様、手、その手首、馬の歯型!」若手騎士様の手袋と上着の袖との間から見えた素肌の手首に、歯型が一瞬見えた。
間違いないあいつらの仕業だ!
若手聖騎士様が狼狽える「あ、これっ」
「分かってます。あいつらがやったんでしょう?全く人見知りなやつらなんだから」
「リリベルちゃん、これでも彼は1メートルまでは近寄れるようにはなったのよ」
「おぉそれは凄い。騎士様、腕見せて」リリベルは若手聖騎士様の腕を取って治癒の魔法をかける。
騎士様の腕の歯形がキレイに消える。
「わあ帰ったばかりで治してもらう時間が無かったんです。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「そろそろ時間なので会場によろしいでしょうか?」生徒会長が時計を見て移動を促す。
会場に入るとすごい声援だった。改めて聖騎士様の人気は凄いなと思った。
講演内容は聖騎士様達のお仕事についてや、仕事先で経験したこと、なぜ聖騎士になったのかなどのエピソードや質問コーナーも含め1時間半だったが、あっという間に過ぎてしまった。
最後“帰らないでコール”まであって更に30分も引き留めてしまったが、彼らは最後までにこやかに対応し、重くなった寄付金箱をご機嫌で抱えて帰って行った。
リリベルも個人的に子爵領のこと聞きたかったけど、トルテ様は、まだしばらく大神殿にいるらしいので、次の休みは絶対に神殿に行くと決めた。
生徒会長とザック殿下はイベント終了後、リリベル嬢が他の役員と聖騎士様の見送りに行っている間、講堂の備品の整理をやっていた。
「殿下、リリベル嬢の治癒魔法」「ああ俺もあれは初めて見た」
「やはりリリベル嬢が聖女に近い存在だというのは間違いないのですね。彼女を生徒会に入れておいて正解でした」
「ああ危なっかしいヤツだろう?」
「あの場に我々と聖騎士様達だけで良かったです。それにしても彼らはリリベル嬢が治癒魔法を使っても全く驚かないのですね?」
「ああ皆あいつのこと知っているみたいなんだ」
「聖女様の妹だからですかね?」「かもしれないな」
彼女を縛り付けるのも、きっと無理なんだろうなと俺は思った。




