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「何ですって?リリベル嬢が聖女?」
「ああマレシオン。まだ王家の誰にも言ってないんだ。これまでの植物の事も兄上以外知らない。多分、陛下には言ってはいけない気がして。だが義姉上には言うべきだと思ってる」
「王太子殿下には報告されなくても良いのですか?」
「兄上には義姉上から伝えて欲しい。なんとなくだけどリリベル嬢も“緑色のベル”だから俺から言うよりいいかなって」
「殿下、今、姉は悪阻のせいで、王太子殿下の匂いも受け付けないそうで部屋を分けられております。伝えるなら今がチャンスかと」
「そうだな。隠密で義姉上に面会を申し込むか」
「そう、リリベル嬢が。確か植物のタネの芽吹きとか、育成を早めたり止めたりできるというところまでは聞いていたわね。それとマンゴーとやらの果物が美味しかったのも、あの子のお陰なんでしょう?それが聖女なの?」
「聖女殿とは力の種類が違うんだ。聖女殿が人の癒し手なら、リリベル嬢は植物の癒し手なんだと神殿では言っていた。そして女神様の力はお借りできないが、リリベル嬢は感情を大地や植物と共有するんだ。伯爵領で俺はその力を見たんだ」
「他に見た人は?」
「兄上と伯爵殿、ライオット卿とアドリアン卿だ。あと俺の侍従のフィリップもいた」
「口が固くて安心できそうな者達で良かったわ。聖騎士2人は何と?」
「アドリアン卿は特に。兄上も俺が聞くまでは特に何も。ただ神殿はリリベル嬢を見守るだけだって。兄も彼女は自由でいいと」
「分かったわ。アイザック様、わざわざ報告くださってありがとう。それに私を気遣ってくださったのでしょう?感謝するわ」
「義姉上が王族の中では一番信頼できるから」
「あら、ありがとう。でも陛下に言わなかったのは正解ね。言ったらリリベル嬢は、あなたの婚約者になったかもね」
「やめてくれよ婚約者を作らないために、あいつを側に置いているのに」
「でもそろそろ殿下にも必要なのでは?」
「俺にはまだいい。ちゃんと自分で納得して慎重に決めたいんだ。マレシオン、オリベル王女や兄上みたいな人を増やしたら駄目だろ?それに“緑色のベル”達のせいで義姉上まで大変な目にあったんだ」
「そうね。実は心配していたのだけど、むしろマレシオン、あなたはリリベル嬢はどうなの?あれが妹になるのはちょっとだけど、聖女であるなら強力なパートナーになるわ。それにバックは筆頭侯爵家よ。あなたが公爵家を継ぐのに悪くないわ」
「姉上…ちょっと考えさせて下さい」
「そう。慎重なのは良いことよ。しっかり学院にいる間、見極めるといいわ」
「マレシオン、速攻で拒否るかと思ったのに意外だな」
「殿下こそ本当によろしいのですか?」とはマレシオンは口にできなかった。
自分から見てあんなに息の合う二人なのだが。
リリベル嬢にもその気がないなら、自分がリリベル嬢をというのも悪くない。
勉強会を見ていても彼女は賢い。恐らく期末は相当努力しないと殿下の主席は厳しいだろうとマレシオンは考えている。
それに加え聖女であり、あの美しさだ。
学院では殿下がいるから誰も手を出せないが、学院から出れば違うだろう。
「殿下、後悔しないで下さいね」とマレシオンは心の中で思った。
いつもリアクションやブクマ、誤字脱字報告ありがとうございます。
1話が短いせいか60話に突入してしまいました。
これからもパッと読めるスタンスで投稿させて頂きますが、リリベルちゃんのお話は、
どうやら本編を越えて長くなってしまいそうです。
どうぞのんびりお付き合い頂ければと思います。
重ねて、いつもご覧いただきありがとうございます。




