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前世も異世界転移もありません!ただの子爵令嬢です!多分?  作者: 朱井笑美


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 「ソフィーナ、何か最近、変な目で見られている気がするんだ」夫のライオットが朝、王城に登城する前に唐突に言ってきた。

 「まあ、そうなのですか?」と言いながら、ソフィーナは生後半年の娘を抱えて夫の見送りに屋敷の玄関ホールに来ていた。

 しかし「やっと気付いたのか。もう例の本が出てから2ヶ月ほど経っているというのに」と思う。


 「何かお心当たりは?」

 私は嫌と言うほど知っているが教えてやんない。

 「さあ、全く分からないな。まあいいか。じゃあ行ってくる」

 「まあいいのか…」夫は私の額にキスをして娘の頭を撫でてから登城していった。

 

 夫の愛情溢れる仕草や態度はイヤじゃない。

 むしろもの凄く嬉しい、いやこっちは結婚して毎日照れまくっている。

 あんなに愛情過多な人だったなんて!


 それはさておき、あんな鈍感でよく近衛の隊長が務まるな。

 それに当の王太子殿下も侍従殿も全く気にしてないそうだ。

 鋼の心臓だな。それとも鈍いのか?

 

 アイリーンから話を聞いた時は驚いた。出来上がった作品が送られて来た時はもっと驚いた。作成者は実家の侯爵家と従姉妹の令嬢だという。

 マリベルの妹のあの妖精だ“緑色のベル”

 虫も殺さないような顔をしているのに、なんて事だ。

 でもソフィーナも何気に最初の話からハマっている。特に13禁のほうの侍従と王太子のもどかしさ、切なさ、互いの気持ちに気付いた時の驚きと動揺!つい感情移入して二人の仲を応援したくなってしまった。

 次作では二人が良い感じで終わっていたのに護衛の横槍と要らぬ嫉妬で二人の仲が再燃してしまうのだ。今、良いところまで読み進めている。

 「はー早く続き読まないと」ソフィーナは娘が寝たのを確認して乳母に託し、自室に読書へと向かうのだった。



 「お母様!また泣いているの?」

 「だって、だってアイリーン!護衛のせいで二人が別れないといけなくなるなんて…」さっきから母はエグエグと泣いている。

 何度も読んだ本なのに。

 13禁のほうは本当に読者の心理を突いてくる逸品だ。

 義妹が監修しているらしいが、本当に15歳か?

 経験豊富な未亡人が書いていると言われてもおかしくない。

 義妹に言わせるとライターさんの文才と感性が素晴らしいらしいのだが、これも男性だと言うのだから驚きだ。

 まあ制作側の秘話なのでトップシークレットとして誰にも言えないのだが。


 18禁のほうは、ただただ侍従の怪しい魅力に堕ちていく新たな獲物という感じで、少しサスペンスめいている。これもこれでいいが、真に泣けるのは13禁だ。

 モデルである当の本人は全く気にしてない。これまでも注目を集めてきた人なのだ。今更、好奇の目が加わったところで何も思わないらしい。それは王太子殿下も同じらしい。

 「強いな」ある意味良かったと思う。


 「そう言えばアイリーン、また侯爵家から手紙が届いたわ」

 母から手紙を受け取る。

 中身を見ると13禁バージョンの舞台化の話だった。


 「待って!それっ」アイリーンは急いで外出の支度をする。

 まだ娘を産んで2ヶ月だが外出の許可は医者から降りている。

 娘を母に頼んで急いで王城に馬車を出す。マレシアナは自分が出産している時に自身の二人目の妊娠が判ったそうだ。

 しかも気付くのが遅れて既に4ヶ月だ。それに一人目の時より悪阻で苦しんでいる。

 そんな彼女に、あれを舞台化なんてされたら!アイリーンはマレシアナの事が心配でとりあえず彼女の元に向かう。


 王太子宮に到着しマレシアナの部屋に通されるとマレシアナはベッドに横たわって本を読んでいた。

 しかも泣いている!

 「マレシアナ!」ってアイリーンが駆け寄るとマレシアナは、

 「どうしたの?」と驚いた顔で涙を手で拭っている。

 「あなた泣いて、何があったの?」

 「ああ、この本泣けるわね。妊娠で特に感情が昂っちゃっているから余計にね」とアイリーンに13禁第二弾本を見せてきた。


 「マレシアナそれっ」

 「フフッ暇潰しに読んでるの。侍女も面白かったって言っていたから」

 アイリーンは力が抜けてソファに座り込む。

 「アイリーン?どうしたの何か急用かしら?」

 そうだ!これを言わないと。今ならまだ止められるから。


 アイリーンは気を取り直して、

 「実はマレシアナが今読んでる本の舞台化がされるの。今なら止められるから、マレシアナの体調が心配で」

 「まあアイリーン、これが舞台化されて更に広まったら、私の体調に影響が出るかもと心配して来てくれたの?」

 アイリーンが頷くとマレシアナは、

 「でも構わないわ。制作側に伝えてちょうだい。俳優選びに手を抜くなと。あと柿落こけらおとしのチケットは王族席ボックスではなく最前列の中央を3枚でって。あと初日につまらなかったら、その後の公演は許さないから、そのつもりでと」と言った。

 アイリーンはその通りに侯爵家に伝えたのだった。


 そして、その半年後“美しい侍従に囚われた王太子”の舞台が上演され、その柿落としの最前列に目立つ三人の高貴なご婦人が陣取り話題となった。

 一人は妊婦なのを隠してもいなかった。

 

 「よく見つけてきたわね。あの俳優」

 「オーディションだけで3ヶ月はかかったそうですよ」

 「では舞台は残り3ヶ月で仕上げてきたの?」

 「しばらく主役達を代役で頑張ったそうです」

 「なるほど。お陰で俳優だけでも見応えあるわ」

 「オペラグラス要らない距離って凄い!」

 三人のご婦人方は俳優達にチップを弾み、サインの入ったパンフレットを小脇に抱え、とても満足して帰って行ったそうだ。

 そして残りの公演続行が決定した。

 翌日の新聞の見出しは“噂のモデルの奥方も大絶賛”だった。

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