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「第三王子殿下、リリベルさん、ようこそお越し下さいました」と姉の侍女のユリアさんと神官様、聖騎士様が出迎えて下さった。
聖騎士様は多分、ザック殿下の警護かな?リリベルだけの時はいつも侍女さんと神官様だけだ。
でも今日の聖騎士様は「ミネルバ様だ!」
「リリベルちゃん、よく来たわね」ミネルバ様は抱きついてくるリリベルを抱き返しながら微笑む。
ミネルバ様は数少ない女性聖騎士様だ。よく子爵領の神殿に派遣されてくる聖騎士様なので顔見知りで、姉が聖女になってからは特に可愛がってもらっている。
「第三王子殿下、今日は私が護衛を務めさせて頂きます」とリリベルを一旦離して礼を取る。
「ああ世話になるな。宜しく頼む。君の母君にもいつも感謝している」と仰った。
ミネルバ様のお母様は伯爵家の当主で王国騎士団の副団長をされている。
「リリベルさん今日も薬草園からお願いしてもよろしいですか?」神官様が仰り、リリベルが頷くと先導しようとされるが、
「あれ?ザック殿下は?どうされるの?」とリリベルが殿下に聞くと、
「俺もお前と同じ場所でいいわ」と仰りながらミネルバ様を見る。
ミネルバ様はなぜかリリベルの手を取りエスコート体勢だ。
「あちゃーミネルバ様のせいで殿下まで付いて来ちゃったか」と思ったが、まあいいか。ミネルバ様とも一緒にいたいし。
皆でぞろぞろと神殿の薬草園に向かいながら、リリベルは、
「ところでザック殿下は本当はどちらに行かれる予定だったのですか?」と尋ねる。
「大神官と聖女殿に挨拶したら、どこか適当に人手の足りなさそうな所を手伝う予定だった」と仰る。
「聖女様は今、国の防御壁の点検中でらっしゃいますわ」とユリアさんが仰る。
マリィ姉ちゃんはいつも午前中は防御壁を点検している。だから神殿に行くと、いつもお昼ご飯の時に一緒して、また夕飯の時に一緒するのが常だ。
姉ちゃんのお休みの日はオヤツも一緒している。
それにしても殿下が手の足りない所と仰っても、さすがに下働きはなさそうだし、意外と使えなさそうだ。とリリベルが失礼な事を考えていると、
「聖女殿の仕事を邪魔するつもりはない。後で少し挨拶できたらよい」と仰った。
「ミネルバ様が大神殿にお戻りということは、今、子爵領にはミルフィーユ様が?」とリリベルがミネルバ様に聞くと、
「トルテじゃないかしら?」ザッハトルテ様か。
「そのお2人は確か聖女様の?」と殿下の侍従さんが仰ると、
「ええ2代前の聖女ティラミス様の双子のご息女様です」と神官様が仰る。
「フィリップ、よく知ってるな」と殿下が仰ると、
「ザック様、だって数少ない女性の聖騎士様達ですよ!」と興奮気味に殿下の侍従のフィリップ様が仰り、
「それにしても子爵領には女性の聖騎士様の着任が多いのですか?」とフィリップ様がお尋ねになる。
リリベルに聞いているのか?とも思ったが、リリベルには分からないので首を傾げていると、ミネルバ様が、
「子爵領は気候も良い、領民は穏やかで治安も良い、ご飯も美味しいので、新人向けでもありますし人気の赴任先でもありますね」と仰った。
「害獣や外からの流民や盗賊被害も無いのか?」と、これはザック殿下がリリベルに聞く。
「?うちの森にはヤツらがいますから」とリリベルが言うと、
殿下が「ヤツら?」と。
「ああ気性の荒い野生馬が棲みついているんですよ」とリリベルが言い直す。
ミネルバ様も苦笑いだ。
ザック殿下も「野生馬?」と不思議そうだ。だが事実だ。
ミネルバ様が「普段は森に入っても何もしてこないのですが、悪意のあるものが入ると容赦なく襲いかかる馬なんですよ」と説明して下さる。
「馬がか?!」そんなに驚くことかな?と思うほど殿下が驚いている。
森にはクマやオオカミなどの猛獣もいるけど、うちの領地の森は間違いなく彼らが生態系の頂点なのだ。草食だが。
しかも知性もあり賢い。なんせ悪人を見分けるし馬鹿が嫌いなのだ。
ララ姉ちゃんは絶対近寄らなかったし、リリベルはなかなか認めてもらえなかったが、治癒魔法を使えるようになったら認めてもらえるようになった。
そこが認めてもらえるかの境目なのかな?とも思ったが、爺様のことは大好きだった。
多分、正確には爺様の育てる野菜だ。




