⑤番外編
「リリベル嬢、王妃様とお茶会を開催するそうね?」
リリベルは王妃様にお茶会の手伝いを依頼されてから、その足で王太子妃様にも呼ばれて執務室に来ている。
「はい。私では役不足でございましょうが、恐れながらお手伝いに駆り出されました」
令嬢的には駆り出された気持ちなのだな。
王妃の茶会の手伝いほど貴族令嬢にとって名誉な事はないはずだが…しかし今はその事ではない。
「青薔薇が咲くまで時間はあまりないでしょう?だから急ぐ必要があるわ」
「何をでしょうか?」
「あなた貴族の事、何も知らないでしょう?本当はもう少し後でもと思っていたのだけど時間がないわ。とりあえず、これを2日後までに覚えてきて」
リリベルに渡されたのは分厚いこの国の貴族名鑑だった。
リリベルが驚愕に震えてると「そうねぇ。王妃様のお茶会に呼ばれるのは高位貴族だけだから、とりあえず伯爵家以上でいいわ。でもご婦人や令嬢がいる家門にも限定されるから、誰が呼ばれるのかも予測してきて頂戴。これは宿題よ」
リリベルはゴクリと唾を飲み込んで聞いてみる。
「もしや…貴族の講義は…」
「そうね。私が教師を担当するわ。この忙しい私がするのだから覚悟をして受けるのよ」
リリベルは青薔薇に永眠してもらおうかと一瞬で思ってしまった。
リリベルが貴族名鑑の暗記を戦々恐々とこなし、王太子妃の講義を受けている間にも容赦なく青薔薇は蕾を綻ばせていく。
王妃様はその様子を楽しみながら青薔薇に毎日話し掛ける。
「お兄様、ザックが結婚するわ。でもあの子ったらプロポーズを忘れちゃったのよ。可笑しいでしょう?今は王太子と婚約指輪の石を選んでいるところなの。先日、火山の国から質の良いルビーをたくさん貰ったからルビーになるのかもねぇ。ウフフ」
それからリリベルは無事に王太子妃様から何とか即席の及第点をもらって、王妃様の青薔薇のお茶会は無事に開催された。
初めて青薔薇が公にお披露目される事と、第三王子の婚約者のお披露目のお茶会を王妃直々に開催すると、社交界では開催前から凄い話題だった。しかしお茶会ではリリベルが再び分厚い令嬢の皮を出し切り、大盛況のうちに終了した。
王妃様は第三王子の婚約者を“ビーバーちゃん”と呼び、とても可愛がっていたと評判になり“子爵令嬢ごときが”と考えていた極小数の高位貴族も、ほぼせん滅したそうだ。
そしてお茶会開催後に北の国から使者が来て、第三王子の婚約に北の国の王から早めの祝いが届けられた。
「アイザック、これは見事なブルーダイヤだな!」
「本当!お兄様が私の話を聞いて下さっていたんだわ」
「母上一体何を?」
「ねぇでもこの手紙…アイザック殿下は北に新婚旅行に行く事が前提となっているわよ?」
「義姉上、本当ですか?でもきっと本命は彼女かと…」
「そうだな。間違いないな。だがザック、お礼の返事を出しておけよ。必ず伺いますってな」
「兄上…分かりました」
そしてブルーダイヤは無事に指輪となって舞踏会でリリベルに渡される事になる。
「リリベルちゃん!王家からお届け物が届いたわ!」
「もしかして!」
「そうよっもしかしてよ!」
伯母と侯爵夫人が大騒ぎする中、夫人達の期待通りお届け物は納涼舞踏会用のドレスだった。
「青だ!青よ、お義母様」
「第三王子殿下の瞳の色ね?!」
「着てみてリリベルちゃん!着てみて!」
「そうよサイズも確認しなきゃ!」
リリベルは一言も発する暇もなく伯母達の言いなりにされている。
そもそも、お茶会からもうずっと心が追い付いていない。
もう、いつもの“なるようになれ!”だ。
「キャー!ピッタリ」
「ピッタリよ、お義母様!」
「まあ!第三王子殿下はリリベルちゃんのサイズまで把握済みなのね?!」
「やだーちょっとヤラシイわ」
「本当ね。もしかして!」
「もしかして…」
伯母達が疑いの目でリリベルを見てくる。勝手に勘違いしてろ!
リリベルはザック殿下にお下がりの衣服を何度も貰ったり借りたりしている。サイズはずっと前から把握されているのだ。
やましい事は何もない。だけど言い訳ももう面倒くさい。
そして舞踏会当日、リリベルは青いドレスに火山の国から頂いたパリュールを身に付けゴージャス丸出しで参加して、ワルツの後、ザック殿下にプロポーズされた。
心がどっかに行っていたお陰で直ぐに頷いた。
でもプロポーズ、まだだったんだ!と気付くと同時に心も戻ってきて「スンっ」となった。
だけど周囲がまた盛大に盛り上がり大注目を浴びてしまったので、また心が出て行った。
しばらく帰ってこなくて良いよ。




