③番外編
アイザックはリリベルとの婚約成立後、お忍びで大神殿の聖女の元を訪れた。
男性王族がある年齢でかけてもらった聖女の秘技を解除してもらう為だった。
解除の内容としては子孫を残せるよう機能を戻してもらうだけなのだが、解除を依頼する相手が自分の婚約者の姉となると少し気まずい。
秘技をかけてもらう時も…内容もだが、初めて間近で会う聖女に凄くドキドキした。
だが今は違うドキドキを伴っている。
なぜなら対面直後から聖女がずっとアイザックを睨んでいるからだ。
何でだ?理由が分からないが、とりあえず「聖女殿、以前、かけていただいた秘技の解除を願いたいのだが」と申し出る。
「第三王子殿下、分かっております。しかしその前に話しておきたい事があります」
もしかして俺がリリベル嬢を強引に婚約者にしたとか思われている?
「これは聖女としてではなく姉として話すことです。本来、私情は挟むべきではないのですが、でもどうしてもお話ししておきたくて」
「はい。構いません。聖女殿の大事なご家族の事ですから」
「殿下と妹が、ちゃんと気持ちを通わせて婚約した事は分かっております。私も神殿も南の国への出発に協力しましたから」
良かった。お互いの合意である事は分かってもらえていて。
「ですが身分差のある結婚ですから色々と困難にぶつかる事も多いでしょう。特に殿下の女性問題とか、子供の問題とか…」
もしかしたら俺の浮気の心配なのか?
「まあまず!婚姻前に妊娠させる事だけはしないで下さい!姉の前例があるので世間の目は厳しいでしょうから」
それはもちろんだ。俺は真剣な面持ちで黙って頷く。
「あと…もし子供ができなくても、王族の義務が果たせないと言ってリリを捨てたりしないで下さい」
まさかそんな事!
「そんな事しません!私にとって必要なのは彼女であって、子孫じゃない!それに私は、王女が立太子できる歳になったら王族を抜けますので子供がいなくても大丈夫です。もちろん愛人だって持たない!」
それに俺は子爵から「妖精は子ができやすいから注意しろ」と言われている。恐らく侯爵家にもその傾向があると思っているから、むしろ懸念しているのは子沢山の方だ。
聖女殿は自分の家系の特性に気付いてない?
「第三王子殿下は聖女が施せる秘技の中で、懐妊に関する秘技をご存知ですか?」
聖女の秘技は公式にはされていない。しかし王室に伝えられている秘技もいくつかある。あとはカテリーナ様が手記に書かれた秘技だが、恐らくそれか?
「一度の関係で妊娠に至るという秘技の事でしょうか?」
「そうです。でもその秘技は一人の聖女が一度だけ使える秘技なのです。聖女を降りても使えますが、たった一回しか使えない秘技になります」
それは知らなかった。
「だから聖女の任期中は王族の為に使うようにと前任者から教えられます。でも聖女は10年に一度、交代します。現役を降りた元聖女はその後、誰に施そうと自由です。もう皇太子殿下ご夫妻にはお子様がいらっしゃる。だから私は…私のこの秘技はリリベルの為に取っておきます」
ちょっと感動した。妹想いの姉の姿。さすが聖女様だ!
だが次の聖女の発言はアイザックを凍り付かせるものだった。
「この秘技は確かに相手が必要な秘技です。一人では妊娠できませんから。しかし…」
しかし何だ?
「子供の性別を決める事はできませんが、容姿は母親が決める事ができます。自分か相手かどちらかにはなりますが、顔の造形、髪の色、瞳の色、肌の色、全て母親の望み通りに叶います」
俺には確かに思い当たる節がある。
ラント兄上だ!
彼の母親は後の災いを避ける為、赤い髪を望まなかったんだ!だが顔は陛下に似せた。
陛下の子だと分かるように。
「思い当たる節があるようですね?この事までは王家はきっとご存知ないでしょう」
「私に明かしても良かったのですか?」
「もう一つあります。カテリーナ様も王妃様が聖女の秘技を望まれた結果、お産まれになった方です」
確かに国王と王妃が離婚せず復縁したと言っても、直ぐに子供をとなると聖女の手を借りる事もあっただろう。とアイザックが思っていると「王妃様はカテリーナ様を全て自分の容姿に似るよう望まれました。つまり…」
「つまり?」
「カテリーナ様が北の王子とのお子であった可能性もあったという事です」
「っ!何と…」俺は驚愕に震えた。
「私が殿下にお伝えしたい事が分かりますか?リリベルがもし、あなたに愛想を尽かしても、王族であるが故に、あなたとの子を望まれたとしたら、私に自分に似た子を望めば周囲はあなたが父親じゃなくても分からないという事です」
俺は顔から血の気が引いていくのを感じた。
「殿下?少し脅し過ぎたでしょうか?でも安心して下さい。幸いカテリーナ様は独身を通されましたし、王妃様がモテ過ぎた国王に、似せたくないと思うのは当然です。だからこれは、ただの可能性の話でしかありません」
その後、俺は聖女に秘技を解除してもらって神殿を出たが、衝撃過ぎてしばらく話す事ができず、侍従も護衛にも秘技が解除出来なかったのではないかと心配された。
俺が彼女を裏切る事なんてないと言い切れるが、彼女が俺を見限る事があるかもしれない。
聖女の脅しは俺に対して、なかなか効果的だったと言える。
俺は彼女に捨てられないよう頑張るしかない。




