①番外編
345話 裏話
「第三王子殿下がお戻りになったわっ!」
「お戻りになったのね?」
「リリベルちゃんにも登城するようお知らせが来たの!」
「じゃあ!」「そうよっ!」
「お義父様!私達も一緒に登城出来ないかしら?」
「そうよ!そうよね?あなたっリリベルちゃんと王子殿下が結ばれるところを見たいわ!」
「見たいわ!」
「リリは母上達の見せ物じゃないぞ。リリの気持ちも考えろ!」
「だってだって誰もが憧れる王子様と結ばれるのよ?」
結局、この後リリベルの表情の抜けた顔を見て父の雷が落ち、二人は逃げて行ったが、きっと何か企むのだろうな〜とアイオットは痛むこめかみを抑えた。
「お義母様、とうとうあれが陽の目を見るわね!」
「そうね。ユノゴー君は大丈夫?」
「直ぐに連絡して待機させるわ」
「くれぐれもリリベルちゃんにバレないようにね!」
「大丈夫よ。きっとこれから忙しすぎて、それどころじゃないわ!」
その後、リリベルの婚姻後『美しい妖精に囚われた王子・監修シャーロット』という小説が出て、美し過ぎる侍従に続く大ヒット小説となったが、リリベルがそれに気付くのは新婚旅行から戻った半年後だった。
◇◆◇◆
陛下との謁見後、リリベル嬢は皆に囲まれ普段使わない表情筋と令嬢の化けの皮を出し切ったのか、奥に戻ってからソファでグッタリしている。
「第三王子殿下、リリに何か美味しい物でもタップリ与えてやって下さい。では私はこれで」
と前筆頭侯爵は去って行く。
「えっ?!ちょっと待て、リリベル嬢を置いて帰るのか!?」
私の叫びは彼に届かずドアは閉まってしまった。
「第三王子殿下、ライオット卿と外務大臣補佐官殿から差し入れが届きました」
とリリベル嬢の兄で王太子の侍従であるベルトルト伯が、なぜかワゴンを押して入室して来た。ワゴンには5人分ぐらいの食事とデザートが載っている。
「伯父は帰りましたか?なら前騎士団長様だけでもご一緒にどうぞ」
と彼は無駄のない動きでテーブルに食事をセットし飲物を注ぎ、妹に声を掛ける。
「リリ、ご飯だよ」
「…ルト兄ちゃん…抱っこ」
「仕方ないな〜リリ。殿下の御前だぞ?」
リリベルはハッとして、ガバッと起き上がる。
「わー!ここ王城だった!」
「お嬢、大丈夫か?」
「昔、遊び疲れて動けなくなった時のリリベルだったな」
と笑いながら兄の侍従が言う。
「兄ちゃん、どうしてここに?」
「食事を運んで来ただけだよ。それでは第三王子殿下、前騎士団長様、私はこれで」
「ベルトルト伯、わざわざ済まない」
アイザックは立ち上がって、立ち去る彼を見送ろうと扉まで一緒に向かう。きっと王太子である兄が配慮で寄越したのだろう。
「殿下、見送りは結構です。妹を宜しく頼みます」
そう言って彼は去って行ったが…。彼の言葉にはこの場の事だけではない重みを感じた。
兄の後ろに立つ侍従も今後、義兄になるのだな。アイザックは何だか不思議な感じがするのだった。
リリベル嬢は食事をすると、いくらか生き返ったようだ。嬉しそうにデザートのエクレアを頬張っている。
「前侯爵は帰ったけどいいのか?」
「え?ん?リコピンがいるからいいんじゃないですか?」
「誰の馬車で帰るんだ?」「あ!」
「まあいいよ。俺が送って行くけど…きっとパパラッチされるな」
「リコピンいるから大丈夫じゃないの?」
「お嬢、今日はもう泊まっていけばいい」
「へ?王城に?」
「だから前侯爵はそのつもりで置いてったんじゃないのか?」
ちょっと待ってくれ!
リリベル嬢が泊まっていく?どこに?俺の心臓が有り得ないくらいバクバクし始める。
するとバァーンとドアを開けて、いきなり母上がやって来た。
「もうっ!どこに行ったかと探したじゃない。王子宮に戻ってないし!」
そう。俺達はやっとの思いで本城の謁見の間から奥に逃げて、まだ広間の控室にいる。少し休んでいる時に食事の差し入れが入ったのだ。
よく兄の侍従は、まだここに居るって分かったな。
ああそうか、前侯爵が知らせたんだろう。
「母上、どうされたのですか?」
「だって、娘ができるのよ!可愛い娘。私の可愛いビーバーちゃん」
王妃様はリリベルの隣に座ってギューッと抱きしめてきた。なんかこれ既視感がある。そうだ南の王女殿下だ!
「ビーバーちゃん…」ザック殿下は絶句している。
そして王妃様に捕まってリリベルのお泊まりは決定した。
「残念だったな〜殿下。王妃様に取られたな。せっかく前侯爵も俺もお膳立てしてやったのになぁ」
リコピンがそう言って俺の背中をバシバシ叩く。
微妙に痛い。馬鹿力め。
「冗談だろ」
「ハハハハッ。じゃあ俺は行くわ。また朝来るから」
リコピンはそう言って公爵家が所有する王城内の部屋に去って行った。
明日の朝、彼女にまた会える。彼女が今日、正式に俺の婚約者となった。それだけで十分だ。俺は自分にそう言い聞かせて彼女を母に託して王子宮に戻った。
だが今日はまだ終わっていなかった。
母上に夕方なって、王妃宮に呼ばれたのだ。
「母上、どうされたのです?リリベル嬢は?」
「アイザック!私のビーバーちゃんが寝ちゃったの。やっぱり今日は疲れていたのね。近衛に運ばせようと思ったのだけど、今日は女性の騎士がお休みなの。あなたが他の男に運ばせるのは嫌かと思って」
ソファを見るとリリベル嬢がクッションを枕に熟睡している。そしてローテーブルにはアップルワインのボトルとグラスが載っている。
飲ませたんだな。彼女は疲れていたからイチコロだっただろう。
「ザック、着替えはさせたの。だからベッドに運んで頂戴。でも王子宮に連れ帰ってはダメよ」
母はニッコリ笑ってそう言った。
侍女に案内されて王妃宮の客室に連れて行く。
確かに近衛でも彼女に触れさせるなんてあり得ないな。しかも寝衣姿だ。
「殿下、こちらでございます」侍女に言われて彼女をベッドに寝かせる。毛布を彼女にかけていると「殿下、差し出がましい事ではありますが、私から一つ。ホドホドに!なさいませ。それでは」と母の少し年配の侍女はそう言って部屋を出て行った。
ホドホドに?ってちょっと待て!
俺は寝室に二人きりの状態にされて唖然となる。
ベッドに眠るリリベル嬢…マジか!
ちょっとぐらいならいいかな?
だがちょっとで止められるのか?
「リリベル嬢」俺は眠る彼女の頬に触れる。
白雪姫?いや眠り姫か?いずれも眠る女性に口付ける王子の気持ちが分かった。眠る彼女も美しい。しかも寝衣だ。
露出は全く無いシンプルな寝衣だが着ている人が魅力的過ぎる。
お休みのキスくらい…俺はソッと口付ける。でもそんなキスだけで足りるはずがない。
もうちょっと…と思っていると肩を押す手がある。
唇を離し目を開けると…
「殿下、殿下、ホドホドにって言われたでしょう?」
「起きてたのか?」
「うん途中で、でもザック殿下に運ばれるのユラユラして気持ちが良くて」
「フッ。そんなに揺らしたか?まだまだ修行が足りないな」
いや…私が痩せればいいだけだ…でも黙っとく。
「なあ、でももう少しだけ」「ダメ」
「ちゃんと止めるから」「ウソだっ!」
って言ったのに、ザック殿下は私の押さえる腕を、いとも簡単に封じて口付けてきた。
「んっ」殿下の深い口付けに声が漏れる。
「はぁリリベル、リリベル」
殿下に名前を呼ばれて私も頭がクラクラしてくる。
「リリベル、リリ、俺もリリって呼びたい」
「別に…いいけど」
「本当?嬉しい。君の家族や親戚が皆、リリって呼んでるいのが羨ましかったんだ」
殿下は「リリ」って呼んで、また口付けてこようとしたから今度こそ止める。
「もう終わり!」
私の本気に気付いたのか「チェッ」って言って離れてくれたから安心した。
「これ以上したら、君のキックかパンチが飛んで来そうだ」
その通り!それに…
「殿下、さっき侍女さんに警告されたでしょう?」
「ホドホドにってやつ?」
「そう。そぉっとドアを開けてみて」
「へ?」
俺は入り口のドアを言われた通りにソッと開けると、母と母の若い侍女が二人、飛び出して来た!
「母上!何してるんですかっ!」
「何だツマンネッ」
「ツマンネッじゃないでしょう!!」
「結婚まで手は出しませんから!」
「今なら大丈夫なのに?」
「…そういう問題じゃない!」
「ほんに真面目なのねぇ。陛下と一緒。でもごゆっくり〜」
と言って母達は去って行った風に見えた。
「ハ〜」溜息しか出ない。
「殿下、今なら大丈夫ってどういう事なの?」
それ聞かれてたのか。
「ああ、王族で王位継承権を持つ男性は全員、年頃になると女性を妊娠させる機能を聖女の秘技で封じてもらうんだ。婚約が成立したり、継承権を返還した時などに解除してもらう」
「無闇に王族のタネをばら撒かないように?」
「それもあるけど、ハニートラップに引っ掛かって相手が妊娠したと言っても無効になるようにかな。王族と関係ない血を入れない為だ」
「そうなんだ。じゃあ殿下も?」
「そう今はまだ子供は作れない。だけど近々、聖女殿の所へ行くと思うよ」
「日常生活で何か支障はあるの?」
「何も無いよ。子供を成せない以外は何もないんだ。だけど」
「だけど?」
「遊び過ぎると解除できないらしい。どれ程かは分からないけど」
なるほど、純愛を好む女神様の意向が伺える。
それからザック殿下は直ぐに王子宮にお戻りになったけど、またドアの外に王妃様達が張り付いていた。
シャーロットみたい…。




