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ザック殿下が帰国されたという連絡が入った。
何事もなく無事に帰国されたそうでホッとした。
明日、国王陛下と王太子殿下に帰国の報告をされるそうで、リリベルも参上するようにとの事だった。
知らせが来てから伯母と侯爵夫人、二人してソワソワしている。
「リリベルちゃん!?とうとう?」
「そうよ!とうとうよっ!」
確かにとうとうだが…当人を前に止めて欲しい。
伯父が二人を窘めると「キャー!!」と言いながら、二人して走り去って行ったが何だか嫌な予感がする。
「妻が申し訳ないね〜。ララの小説のせいで少しは忙しくしてると思ったんだけどね。リリの話題は格別らしい」
アイオット様がすまなさそうに仰るが、まるでシャーロットが二人も家にいるみたいだ。
「そうだ!リリ、春からそろそろ長男を連れて行動する事にしたよ。来年から13歳だしね。王城にも共にするから見かけたら宜しく頼むね」
そうか!ご長男も侯爵家の後継に向けて動き出す時期なのね。
早いもんだ。だが私はまだ学院の最終学年が残っているから王城には、そんなに行かないはずだけど。
「リリも王子妃になるんだから、教育とか入るだろう?」
「!!!」何てこった!王子妃アンビリーバブル!
最終的には王家に入らなくても教育を受けないといけないのだろうか?
「王太子に何かあったら、王にならないとしても、つなぎの王太子は第三王子だろ?」
と言われると、その通りなのだ。
全く想定してなかったので気持ちが滅入る。
やっぱりザック殿下が王族を抜けるまで結婚を待つ事はできないだろうか?
「リリベル、まあ、あと10年待ってもいいだろうが、第三王子は10年の間に、お前がいても縁談は続々来るぞ?結婚しないお前より若くて綺麗な条件のいい令嬢が来たら勝てるのか?」
絶対、無理です。
それこそザック殿下はきっとカテリーナ様の父王のように、美しくカッコいい青年になっているんだろうから、誰も放っておかないだろう。
リリベルの落ち込みとは関係なく翌日はやって来て、リリベルは伯母達にタップリおめかしされて伯父と登城した。
伯父が一緒にいてくれるだけで心強い。
それにしても出かける前、衣装で揉めに揉めた。
伯母達は早速、赤いドレスを着せようとしてきたのだ。
いつの間に赤のドレス作ったんだ!あまりにも決まらないので伯父の一言でエメラルドグリーンになった。
伯父様グッジョブ。だが涙ぐむ伯母達によって髪は赤いリボンで結ばれている。
「それぐらいは…我慢しろ…」さすがの伯父もそれ以上は言えなかった。
馬車がお城の馬車止めに着くと、ザック殿下が迎えに来てくれていた。殿下は王子の正装をしている。めっちゃカッコいい。
「ザック殿下、カッコいい」つい言葉が漏れる。
殿下の手を取りながら馬車を降りると「君も綺麗だよ。妖精のようだ」ってそう仰った。
「黙っていればだろ?だが、そういうのは後で誰もいない所でやってくれな」
「リコピン!」
「そうだな。二人の世界はまた後でだ」伯父様まで…。
そんなつもりは無かったのに。そういう世界を作ってしまうのが恋愛なのね。
リリベルはまた一つ学んで、これからは学院では特に気を付けようと思った。だったらやっぱり男装がいいかな?とか考えているとあっという間に謁見の間に到着する。
謁見の間と言っても中規模程度の部屋だ。だけど十分改まった雰囲気なので緊張する。
中に通されると部屋の端にはズラッと我が国の重鎮達が並んでいた。
宰相様の横にはガブリエラ様とフィリップ様が、外務大臣の横にはエリオット様がいるのが見えた。
ザック殿下とリリベル達が入場した後、王族の皆様が入って来られた。その場の全員が腰を落として頭を下げて礼を取る。
陛下の声で皆で礼を解いて頭を上げると、玉座の方には王太子殿下と妃殿下、その後ろにはライオット兄とルト兄までいる。
そして国王陛下と王妃様、後ろには護衛の騎士様と公爵様もいらっしゃった。
広間の端にいる大臣達も含め錚々たるメンツだが、こっちだって負けてないもんね。前筆頭侯爵に前騎士団長だ!って張り合う必要は全くないのだが。
「リリベル嬢?大丈夫か?ちゃんと戻って来てるか?」
ザック殿下が横から声を掛けてくれる。
直前までどうでもいい事を思ってたけど今は大丈夫だ。
宰相閣下に呼ばれたので「大丈夫だよ」って微笑んで4人で前に進む。
第三王子殿下に連れられているのは子爵令嬢ごときだが、何だか皆、温かい目で見てくれている気がする。
それは後ろの二人が威圧的にガンを飛ばしているせいではないと信じたい。玉座の近くまで行って、再び礼をする。
すると国王陛下が「此度は子爵令嬢が、第三王子の望まぬ縁談を双方の遺恨なく円満な解消に導いた。また令嬢は、これまで幾度も第三王子の危機を側で助けてきた。その事による褒美として、子爵令嬢を第三王子の婚約者としてこれを定める」と仰った。
そして次に宰相閣下が「令嬢は子爵家出身であり、本来は王家に嫁ぐに相応しい身分ではないが、ここに北、東、南の王家より当令嬢は子爵家の身分でありながら『一国の姫に相当する価値がある』と推薦を受けておる」
「また大神殿より令嬢の姉にあたる聖女同様『女神の左翼を担う、植物を養う手を持つ聖女』として認めると通達が来た。故に令嬢の身分は王子に相応しいと判断され出身爵位に関しては不問とする。この時点で異議のある者は前に出て述べよ」
宰相閣下のお言葉に謁見の間はシーンとなる。
一体誰が異議を述べらると言うのだろう?
三国と大神殿が太鼓判を押してしまった人間に。
私だって震えるぐらいビックリだ!むしろ私が前に出て「何かの間違えでは?」と意見したい。
その場に異議がない事を確認した宰相閣下は「ではこの件は承認を得られたものとして、議会を通さず可決する」と仰った。
議会を通さなくて大丈夫なの?!とザック殿下を見ると「大丈夫だよ、この場には議決権を持つ貴族の大半がいる。今、ここにいないのは王城内に職を持たない貴族と国民の代表団だけだ」と仰った。
それから陛下に「令嬢よ、第三王子だけでなく、南の皇太子妃の事、また王妃の事も助けてくれて感謝する」とお言葉を頂戴した。
そして更に「何か他に褒美を取らせたいが希望は無いか?」とお尋ねになられた。
「国王陛下のもったいないお言葉に感謝致します。希望は学院を卒業した時にお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「今は時期ではないのか?」
「卒業できないと叶えられませんので」
「そうか。ではそれまで待つとしよう」
「ありがとうございます!」
リリベルはそう言って礼をした。
謁見が終わって、王族が退出された後は大騒ぎだった。
その場の皆に囲まれてザック殿下と共に揉みくちゃにされた。
賛辞の言葉をたくさんもらったまでは覚えていたが、途中で顔だけ笑顔の人になった。
私、多分、王族向いてない。




