344
「王妃の日記を読んだのか。なんか色々、悩んでいるようだな?」
リリベルは王城から戻って、そのまま伯父の書斎に直行した。
誰かに聞いてもらわないと頭の中が氾濫状態だったからだ。
「伯父様は日記を読んで、王太子を許せないと思わなかった?」
「他者として客観的に考えを述べるなら、我々に嘘を吐き事実を捻じ曲げて語ったのは許し難いと感じたが、彼の王族側の気持ちを考えれば…プライドやメンツを保つ為なら理解できる範囲だと思ったな。しかも、それに加えて国王の謝罪があった。あれを聞いたら王太子が嘘を吐きたくなった理由が更に判っただろう?」
「自由に恋愛ができなかったって事?陛下のせいで」
「そうだ。王妃なんて、もっと駄目だろう?なのに彼女は国王を見限っただけじゃない。国民を裏切って自分の恋に走った。それが王に対する報復だったとしても許せないと思ったから、逆の事を我々に伝えさせたのは、王太子に自由な恋愛をさせなかった自分のせいだと陛下は仰ったのだ」
確かに王太子はララ姉ちゃんが好きだったんだと思う。
だけど王太子じゃなくたって、ままならない恋をする人は多い。頭の良い王太子ならそれを分かっている。
それに王太子妃は恋愛云々とは比較にならないくらいの存在だ。
彼女は絶対に王妃になるべき人だ。ララ姉と天秤にかける事自体違うって分かっていたはずだから、国王の詫びはそんなに関係はなかったのではないか?
「リリベル、もちろん当事者側として考えたら王太子だけではなく王家には大そう腹は立つ。本当は親に愛されていたはずの子供3人にもそれを知らせずに、しかもその内2人はもうこの世にはいない。生きている内に知らせてやるべきだったと思うよ」
「うん」
「だが、3人とも生存中は不幸ではなかっただろ?爺様はもちろん今もご健在だが、ずっと不幸だと嘆いた事なんてなかっただろ?」
「そうだね」
「2人にも生きている間に親の愛を伝えたところで「そうだったのか」となるだけだ。きっと」
確かに爺様も「そうか」くらいしか言わなそうだ。
「恐らく王妃も北の王子もそうなるように尽力したんだ。それが親の愛だ。私はそれが分かったから嬉しくなった。もう王太子も国王もどうでもいいぐらいにな」
と伯父は笑った。その件は、それで解決でいいと思う。
だけど、もう一つ問題が残っている。
「伯父様」「何だ?まだ何かあるのか?」
「王太子妃様に王太子の文句を言おうと思ったの。だから王太子妃様も日記を読んだのか?って聞いたの」
「そうか。それで王太子妃は何て答えた?」
「そしたらね「着いて来て」って王太子妃様に王族の肖像画の間に連れて行かれて、ある肖像画を見せられたの」
「王族の肖像画…」
伯父も見当がつかないようだ。
「その肖像画はカテリーナ様のお父上だった国王陛下の肖像画で赤い髪に碧眼でザック殿下に似ていたの」
「何だと!」
「王太子殿下は、女ったらしで悪評の高い国王にザック殿下が似ているって事を隠したかったんだって。多分、肖像画は殿下にも見れるから似てるって事は殿下ご自身でも気付くと思うの。でも今はただの“女ったらし”だけの評判でしょ?だけど日記の内容が知れたら、もっと悪い奴だって分かってしまう。そんな悪人に弟が似ているなんて知らせたくないって思ったんだって」
伯父は目を見開き感情の抜け切った顔でソファにドサりともたれた。
「そうか。弟か…」
「うん。だから日記の内容は口外しないでって。特にザック殿下には」
伯父にも4人の弟がいる。王太子殿下の気持ちが、きっと分かるんだろう。
とりあえず日記は近い内に伯父直々、爺様へ届けられる事になった。内容は現存の子爵家内で止め、後世には残さない事を付け加えられ厳重注意とされた。
リリベルもそれを王太子妃様に報告する事にした。




